LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2012/2/5   大泉学園 in-F

出演:深水郁+壷井彰久
 (深水郁:vo,p、壷井彰久:vln)

 デュオでは初共演だそう。深水はグランドピアノ+マイクのシンプルなセット、壷井は足元にエフェクタがずらり並ぶスタイル。5弦の生バイオリンにケーブルが接続される。いわゆるセミアコ・バイオリンってやつだろうか。

 曲目は基本的に深水のレパートリー、各セット7曲づつで、それぞれ1曲だけ壷井の曲が演奏される。さらにアイリッシュ(?)を1曲(たしかタイトルは、"Swan Lake")。完全即興は無し、歌ものの構成だった。
 しかし中身は深い。さらなる発展が期待できるライブだった。もっと壷井の曲や、インプロも聴きたかったが。

 深水の芯の強さを実感した夜だった。彼女のピアノは、基本的にインテンポ。フレーズをビートから外すことは少なく、音数もシンプル。そしてアドリブでぐいぐい曲から離れることがない。
 つまりバックでどんな音が鳴っていても、がっしりと自らの世界を維持できる。ある意味、三上寛を連想した。
 だからこそデュオ相手の音楽性が強調され、アンサンブルを楽しめる。

 壷井は最初、探るような展開。ライブを通じて、尻上りにテンションと密度が増した。 
 穏やかな響きと丁寧な音使いを壷井が選ぶと、きれいに終わってしまう。むしろ壷井が炸裂したほうが興味深い音像になるはず。今夜は次第に二人が馴染んで行ったが、いっそ大胆に壷井がぐいぐい踏み込み、暗黒プログレを爆発させた演奏も聴いてみたかった。
 正確に言うと2set最後の曲でその片鱗が見えただけに、もっと先を望んでしまう。

 一曲は短め。さくさくとステージは進む。曲の合間に壷井がさまざまに突っ込み、ボケるが、すべてをにこやかに深水が受け止めていた。

 1stセットは深水の"小さな石に"から。滑らかなメロディをピアノがつむぎ、和音が淡々と鳴る。壷井はディレイを駆使し、広がりある音像で絡む。のっけからバイオリンのソロ。
 ピチカートにしたりエフェクターを変え、バイオリンがピアノへ多方向から切り込む。芯をくっきり保ち、受け止めるピアノ。途中で壷井がフレーズのアクセントをずらし、ミニマルな展開が面白かった。

 ほぼすべての曲で、深水は大胆なアドリブを取らない。伴奏のフレーズが音程や音数を変奏させつつ、くっきりと曲の輪郭を提示する。
 壷井の鋭さ、テクニシャンさを浮き彫りにした。

 3曲目に壷井のデュオでは定番、"First Greeting"を。バイオリンの即興がイントロだったろうか。眼鏡をかけた深水が、譜面を見つめながら和音を丁寧に鳴らす。
 最初の5拍子は分かるが、そのあとは何度聴いても相変わらず譜割が読めない。ゆったりした深水のピアノでも。
 バイオリンを主軸に聴くと、とても滑らかできれいな曲だが。
 ピアノ・ソロをわくわく聴いてたら、ペダル踏みっぱなしで深水はさくさくと突き進む。清々しい演奏だった。
 
 1stセット後半に演奏した深水の"陽のあたる牛"が秀逸。
 ここでは深水の朗々たる歌声もたっぷり聴ける。基本はキュートな鳴りだが、時には低音を野太く響かせた。
 声がマイクを通してたぶん、上のスピーカーから降り注ぐようだ。
 
 カントリーに通じる滑らかな演奏を繰り広げた後、「楽譜はこんなのですよ」と壷井が観客に示す。
 書いてあったのは「BとE」だけ。なんと、音符が一つもない。
「タイトルのほうが字が多いじゃない」と、思い切り壷井が突っ込んでいた。
 聴いてる途中はすべてが即興とは思えなかった。そのくらい、二人の演奏は寄り添い整っていた。


 "かりんとうの歌"のあと、1stセット最後は深水の"Kikuchi"。怒涛の盛り上がりだった。
 ほぼ深水はバッキングにまわり、壷井のバイオリンがたっぷり。だんだん黒々と濃密に鳴っていく。オクターバーでベースラインを出したり、ディレイやリバーブでフレーズを重ねたり。
 かちかちとエフェクターを頻繁に踏みかえ、壷井は弾きまくる。ここで深水のピアノもだんだん奔放さを増した。終盤での混沌とした盛り上がりが痛烈だった。

 後半セットも深水の曲から。"水無月"が最初だったかな。MCの噛みあわなさっぷりは相変わらずだ。
「基本的に、否定形で話しませんよね」
 MCの途中で日本酒飲んでるところを壷井が突っ込み、ちょっとはにかんだくらい。
 途中で壷井がしみじみ言ってたが、どんなボケでも深水は動じず微笑みを保ってた。
 
 一方、演奏は親和度が増していく。壷井の曲"水車"ではバイオリンの滑らかなフレーズを、しなやかにピアノが支えた。
 ちなみにこの曲、Eraの相方は"ウォーター・カー"と解釈した、と壷井がぼやく。深水は「水の車ってきれいだ」と応え、ぜひ深水がそのテーマで作曲してほしいと話が盛り上がった。さて、実現すると面白いが。

 "歌のまぼろし燃やし燃やし"で朗々と通る、深水の歌。バイオリンが鮮烈に鳴った。
 後半セットもバイオリンはさまざまな世界を自在に表現する。
 あれは前半セットだったかもしれないが。"ちょっと痛い"では冒頭に弓で弦を叩く音をサンプリングし、幾度も提示しながらフレーズを重ねる。アヴァンギャルドな音だ。

 別の曲ではタッピングで低音を叩きリズムっぽく出したり、別の曲ではハーモニクスっぽい響きで透明な鳴りを披露したり。
 めまぐるしいフレーズの合間に、しばしば特殊奏法を自然に壷井は織り込んだ。

 カバーの"Swan Lake"も素晴らしかった。作曲者名も言ってたが、失念。
 何小節にもわたるきれいなメロディは、トラッドと思うが独特のこぶしが希薄だ。これまでの今夜のサウンドに、ぴたり世界観がハマっていた。
 バイオリンからピアノへ。アドリブを混ぜながら、ソロが受け継がれる。自由に即興をふくらますバイオリン、じわじわと変奏させながらメロディの美しさを噛みしめるピアノ。
 とてもきれいだった。

 2ndセット最後は深水の"魚の話なんかやめて"のワルツ・バージョン。
 壮烈だった。
 コミカルかつ、童話的な世界観なのに。中盤で一気に暗闇インプロに進行する。
 バイオリンが吼え、ピアノもぐんとアクセントをアウトさせる。行方知れぬ方向性へ折り重なり、突き進む。
 けっこう長く、この即興を貫いてくれて嬉しかった。
 おもむろにバイオリンがテーマを提示すると、しれっと元ののどかな音像へ着地するのがおかしい。
 
 アンコールの拍手に応え、短めに深水の作品をもう一曲。あっけない終わりっぷりだった。

 MCの主導は壷井だったが、選曲はかなり深水の作品が多い。次回共演があるかは不明だが、今後の可能性を感じさせるライブだった。そもそも深水は羽野昌二とも共演を重ねてるように、即興演奏と歌の調和に違和感が無い。
 多彩な技を出すインプロバイザーとのデュオこそ、深水の面白さが増すのかもしれない。次なる展開が楽しみだ。

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