LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2011/11/6  市川 市川市文化会館

出演:山下達郎
 (小笠原拓海:ds,伊藤広規:b,難波弘之,柴田俊文:key,佐橋佳幸:g,宮里陽太:ss,as、
  国分友里恵,佐々木久美.三谷泰弘:cho、
  山下達郎:g,key,vo)

 ツアー再開、3年目。今回は無理のないスケジューリングながらも全国38ヶ所64公演、7ヶ月の長期ツアーになった。メンバーはサックスが土岐英史から若手の宮里陽太に変わる。「数年後には日本のジャズ界をしょって立つ」と、達郎が紹介していた。

 今回も客入れのBGMは達郎選曲と思しきドゥワップ。白人やイタロ系が多かった気がする。
 物販の仕切りはいまいち・・・1800人ほどのキャパだが、数人でさばくのみ。ごっそり長蛇の列が並ぶ。物販とパンフを売る場所も同じ。毎回思うが、どうして人を増やすなり、買う場所を分けるなりしないのか。最後のほうでパンフのみ売る窓口を作ったようだが・・・。
 開演間際に駆け込むのが嫌で、買わず席へ向かう。ほんと何とかしてほしい。先にロビー開場して物販始めればいいのに。

 さて、開場。このホールは初めて行くが、天井高くて気持ちいい。ライブ中も残響がすうっと消える、心地よい瞬間が幾度もあった。MCで達郎曰く、この手のホールはかなり音がいいそうだ。

 ステージにはアルバム"Ray of Hope"のジャケットにひっかけてか、左手が楽器屋。右手が倉庫のセット。倉庫側には巨大なトランペットのオブジェやギターの背景もあった。
 背後は海辺沿いの風景が描かれる。

 一ベルが鳴り、観客の拍手。5分ほど押して客電が溶暗した。
 "希望という名の光"のアカペラ・コーラスが流れ、暗いステージの上へ背後の階段を下りメンバーが姿を見せてゆく。最後に達郎が現れた。
 達郎は黒いシャツに細いブラック・ジーンズ。頭には黒のニット帽。単色でまとめた。足がえっらい細い。

 そして一曲目が"Big Wave"。意外な選曲だった。

<セットリスト>
1.BIG WAVE
2.SPRAKLE
3.DONUT SONG
4.素敵な午後は
5.僕らの夏の夢
6.プロポーズ
7.SOLID SLIDER 
8.俺の空
9.雨は手のひらにいっぱい
10.DON'T ASK ME TO BE LONELY
11.おやすみロージー
12.HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS
13.クリスマスイヴ
14.希望という名の光
15.さよなら夏の日
16.今日はなんだか
17.LET'S DANCE BABY
18.高気圧ガール
19.アトムの子

(アンコール)
20.街物語
21.Ride on time
22.恋のブギウギトレイン
23.Your eyes

 "Big Wave"は昔FMで聴いたアレンジと、あまり変わってない様子。震災踏まえ、この選曲は不謹慎と書き込みをネットで見たが、邪推はやめたい。
 エンディングはあっさり。軽やかなドラミングへ重たいベースが絡む。アンサンブルはいきなりタイトだ。
 PA前の席で聴いてたせいか、バランスはまずまず。達郎の声がまずがっしり聴こえる。音量もさほど大きくなし。最初のPAバランスはどちらかというと、コーラスが聞こえづらい。難波のキーボードもバランス抑え気味だったな。ステージが進むにつれ、PAバランスは良くなった。

 ライトが達郎に収束し、"SPRAKLE"へ。小気味よいギターのカッティングが、ちょっとアンサンブルに埋もれ気味のPAバランス。
 しかしのびやかな歌声にぶっ飛んだ。全く衰えない。
 コーラス隊は楽しげに体を揺らしてた。サックスがロックンロールで落ち着いたフレーズをぶちかます。

 次は"DONUT SONG"。コーラス隊の腕をくるくる回す振付がキュート。3人が微妙にそろっておらず、一人がやると一人が振付を休む感じ。あれは演出かな?
 佐橋のスライド・ギターのソロが鋭く、オブリで歌に絡んだ。

 途中に大滝の"ハンドクラッピング・ルンバ"などを織り込むのも、いつも通り。
 達郎はライブ中、しきりに「(自分は)ガラパゴスだ」と言っていた。還暦を目前にし、ライブはCDの販促などと離れ、あくまで自己表現の場としてゆくそう。
 今までのファンに馴染んだライブの形式を踏まえつつ、「昔を懐かしむだけの人は、来なくていい」と、痛烈なMCも。

 ちなみにライブハウス・ツアーは今回の震災で流れたそう。予定を新たにたてるなら、2012年の夏。キャパは数百人の小箱で、椅子席を考えてるようだ。
「チケットが・・・という人もいますが。良いんです。来る人は、来ます」と強気の発言。あくまで自らの音楽性追求を軸に置いていた。

 その音源が聴ければ、一つの解決になる。楽しみな"JOY2"は「4枚組くらいかな」と漏らしていた。さて、いつのリリースか。

 "DONUT SONG"でいったんコーラスがハケて、粘っこい佐橋のリフ。"素敵な午後は"だ。
 ライブで聴くの久しぶりかも。ステージが薄暗い、ロマンティックなライティングへ。この曲に限らず場面ごとに照明は頻繁に変わり、空間を盛り上げていた。
 長めのMCをはさむ。これまで初日だった厚木は支配人が変わり、今回初めてラブコールがあった市川で演奏になったそう。他にも千葉ネタを喋ってたが、残念ながらぴんと来ず。
 セットリストは選び抜き、ゲネプロで1曲落としたという。"潮騒"だろうか。ローズも置いてあったが、とうとう達郎は弾かなかったし。

 そして"僕らの夏の夢"に。エレアコに持ち替えたっけな?アルトサックスの長尺ソロで、たっぷりと新メンバーの披露をした。

 ハンドマイクに持ち替えた達郎は、椅子に座って新譜から"プロポーズ"を歌う。ドラムは打ち込みビートを裏でかぶせてたようだ。でも、エンディングではいつの間にかループが消え、生ドラムのみに。
 腰かけた達郎の歌声は、丁寧に響いた。ソプラノ・サックスのソロもあり。

 エレキギターに持ち替えて、ちょっとくだけたMC。
「いけね、曲順間違えた・・・ここはスタイリッシュに行くんだった」とぼやく達郎。
 他でも「初日ですから」ってフレーズをMCで幾度も達郎は使ってた。
 とはいえ温かい歓声に支えられ、気持ちよく演奏できたという。

 その曲が、"SOLID SLIDER"。べらぼうにかっこよかった。ソロ回しをたっぷり。佐橋からサックス、難波のキーボードと長尺ソロをつなげてく。
 最後はカットアウトで、シビアにエンディングを決めた。

 「女性の方は"プロポーズ"を新譜から望まれ、男性の方は・・・」と前置きした"男の空"。
 佐橋と達郎のギター・バトルが聴きもの。オクターブ上を佐橋が弾く、ギター・リフのユニゾンをはさみつつ、エイト・バーズ・チェンジからチェイスへ。ディストーション効かせたフレーズをぐいぐい二人が弾く。
 佐橋はアーミングも使ったプレイ。達郎はシンプルながら、鋭いフレーズづかいだった。

 演奏はまだまだ盛り上がる。コーラス隊も加わり、"雨は手のひらにいっぱい"。三谷がいないと思ったら、グランド・ピアノを弾いていた。
 3人体制のキーボード。コーラスがちょいと聞こえづらく、残念。達郎はエレアコに持ち替えていた。

 ステージが静まりメンバーがハケるアカペラ・タイムに。今回は横に大きなラジカセを置く。
「我々のような電力使う音楽の演奏にためらいもありますが・・・。もし電気使えなくなったら、アコースティックでやります」と力強い達郎の宣言。
「リモコン押すと、ストリートに世界が変わります」と言い、スイッチを入れた。
 ステージに広がる、"DON'T ASK ME TO BE LONELY"のアカペラ・カラオケ。

 なんと、最初はノーマイク。生声をホールに響かす素敵な演出だ。広々とした達郎の歌声を堪能できた。
 途中からマイクを持ってバックのテープもPA経由に。この瞬間のタイミングもばっちりで、すごい。
 この演出は、新鮮でとても良かった。

 ひさしぶりにステージでやるという、"おやすみロージー"。バックはテープの、お馴染みなスタイル。
 冬のツアーだけに、中間部の盛り上がりは定番だ。"HAVE YOURSELF A MERRY LITTLE CHRISTMAS"を朗々と歌い上げ、テープの流れる中メンバーが現れる。軽やかなリフが流れて、"クリスマスイヴ"へ。
 
 中間の多重コーラスはテープ。メンバーは暗転の中で固くなり、演奏がさくっと弾ける。後半のテープと生演奏の合致具合など楽しいが、正直ライブだと面白みがいまいち。今のところ最大のヒット曲だし、セットリストから外せないと思うが・・・。

 震災で新たな意味が曲に加わった、と前置きして"希望という名の光"を朗々と歌う達郎。中盤で"蒼茫"もちらりと織り込んだ。
 続く"さよなら夏の日"もセンチメンタルさが良かった。ぐいぐいと切なく盛り上げる。
 最後にツリー・チャイムを達郎が鳴らしたのはここか。

 MCをはさみ、クライマックス前、情感とロックンロールを橋渡すのが"今日はなんだか"。達郎のギターイントロがかっこいい。
 ブレイクもスパッと鋭く決まる、アンサンブルもばっちり。グルーヴィさがたまらない。

 そして"LET'S DANCE BABY"。客席が立ち始める。いっせいに観客がクラッカーでは達郎が一言、「しつこい!」と笑った。
 途中で三谷がコーラスの入りを落ちてしまい、平謝り。演奏は途切れず続いて流れはそのまま。気を取り直して達郎のメドレーへ。加山雄三やグループ・サウンズなど、歌謡曲中心だった。"ダウンタウン"も一節、紛れ込ませたかな。

 さらにメドレーで「ガラパゴスです」と言いつつ、"Mean woman blues"へ。
 そのまま雪崩れたのが、"高気圧ガール"。08〜09年ツアーを踏襲したか。華やかに盛り上がり、トリは"アトムの子"。ちょっと意外だった。

 力強くステージを終わらせ、シャツを着替えてきた達郎。とはいえすぐに、汗がにじむのがわかる。
 まずは渋く"街物語"を決めた。グルーヴィなこの曲、ライブで映える。
 定番"Ride on time"では「久しぶりにやるか」と、ステージ奥の階段を上る達郎。生声で、存分に声を轟かせた。

 コーダでは軽く腕で小笠原を止め、ギターアンプの後ろからトラメガを。「これも、ガラパゴス」と言いつつ、最後のフレーズを高らかに歌い上げた。

 次も久しぶりな"恋のブギウギトレイン"。ファンキーに盛り上がる。照明も一段ときらびやか、ディスコみたい。アンコールでいっそう派手になった。
 最後に後ろの鉄橋セットに電車走らぬかと期待したが、さすがに叶わず。

 ラストはステージ前に出た達郎が、カッティング・ソロを存分に聴かせた。歯切れよく鋭いギターが、ひたすら刻む。爽快で痛快。

 メンバーが声援に応えつつ消える。達郎がステージの中央に残った。
 MCで観客を力強く応援する声。「精一杯、生きていきましょう」と宣言する。
 ハーモニカで軽く音を確認して、達郎は歌いだした。"Your eyes"。背後からサックスが現れた。
 しみじみとサックスのソロ。達郎の声。ソロが終わると、サックスはすっとステージから去った。
 達郎の歌が続く。ついに、曲の終わりへと到達した。

 溢れる拍手の中、達郎は腕を胸の前で組み、観客の声援に応える。温かいムードの中、達郎が消えた。背後のBGMはもちろん、"That's my desire"。

 やはり今回も3時間ちょうどのロングラン。つくづく達郎は現役だ、と実感した。

 「演奏曲は、どれを落とすか悩む」と達郎がMCで言っていた。確かに他にも聴きたい曲がいっぱい。あれもこれも。
 次のツアーは2013年という。あの曲もこの曲も、演奏してくれたら嬉しいな。

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