LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2011/4/28
渋谷 公園通りクラシックス
出演:Yolcu-Yoldas
(太田惠資:vln,voice、今堀恒雄:g、岡部洋一;per)
太田恵資のリーダーバンド、ヨルジュ・ヨルダシュ(厳密には、Sにセディーユがつく)。昨年7月ぶりのライブという。ぼくは聴くの初めて。ようやくタイミングが合った。
さまざまなセッションやライブを繰り広げる、インプロヴァイザーの巧者な太田が、あえてバンマスの立ち位置でどんな音楽を作るか、とても興味があった。
そして、ライブを聴いてみて。即興演奏について、いろいろと考えさせられた。
バンマスがゆえの突き抜けたスピード感と、自由ながら太田の色を様々に表現する、すっごいステージだった。このバンド、次も聴きたい。
ステージ右に太田、左に今堀が立つ。二人の足元にはペダルがずらり。太田はメガホンも用意してたが、確か使わなかったはず。アコースティック一棹と、エレクトリックを二棹準備した。
今堀は小さなテーブルを横に置き、ギターの音を様々に変調させる。
岡部のドラム・セットも各種民族楽器を並べた、独特のスタイル。スネアの位置にジャンベ、小さなメロタムをセットする。フロアタムの代わりに2種類の大きなドラムをセッティングしていた。
カホンに座り、横には四角い箱が置いてある。
太田がリーダーとは言え、MCに時間は割かない。メンバー紹介くらいか。とにかく、音楽。
まず太田がアコースティック・バイオリンを構えた。ほんのりバルカン地方を連想するフレーズ。岡部がシンプルなパターンを両手で叩いた。
今堀は静かにギターを構えたまま。弾かない。つまみをそっと動かし、電子音をひそやかに混ぜた。
結局、テーマが終わるまでフレーズを今堀は弾かず。時折弦をそっと押え、電子変調を中心にした。
アドリブ部分も、ソロ回しは無い。岡部が静かにビートを刻み、今堀と太田の音が寄り添っては平行に進む。
この楽曲ではそもそも今堀は、いわゆるギターソロを取らなかったと思う。
しかし今堀が主軸を取る場面は、確かにあり。太田はエレクトリックに切り替え、刻みに入る。結局、アコースティックはこの後使われること無く残念。
アンサンブルは太田がキューやサインを送る場面は無い。エンディングのタイミングくらい。
基本的に、太田は目を閉じてバイオリンを弾く。しかし。岡部と今堀の視線は、太田をずっと見つめていた。これこそが、バンマスの立ち位置では。
おそらくアレンジは自由度を高め、譜面に沿おうと奏者間の丁丁発止をやろうと、やるまいと、一切が任されている。
だが太田の奔放な音楽性が、限りなく無造作に変化しアンサンブルも高まる。この特異性は、ヨルジュ・ヨルダシュならではないか。
聴いていて、頭をぐるぐると考えが回る。即興ライブをCDや映像で追体験は、なんて難しいんだろう。
膨大なマルチカメラのDVDを、視聴者が自由にスイッチングする方法ぐらいしか思いつかない。
僕はライブで、基本的に目をあけている。奏者を見たり、楽器を見たり。視線は固定させない。弾く手元、奏者の視線や表情をあれこれ見ている。もちろん、音楽を聴きながら。
太田が目を閉じ弾きながら、アンサンブルの響きへにっこりとほほ笑むさま。
今堀が鋭い視線でギターを構えつつ、太田を見るさま。
岡部がテンポを上げ下げし、グルーヴを操るさま。いろんな視点がある。そして、それは流れる即興に、新たなニュアンスを確かに付け加える。
途中で目を閉じて聴いてみた。音楽は暗黒インプロが無造作に展開する。中心も構成も無い。これをCDで聴いたら、たぶんとっつきづらさを感じるだろう。
しかし目を開けると、そこにはほんわかした穏やかな空気が、確かにある。サウンドの緊迫さを押し流すほどに。
奏者のアイコンタクトや、即時の反応するさまに必然性を探すほどに。この空気感覚は、映像でも味わえない。ましてCDだけじゃ無理。
映像でも、カメラが固定されてちゃ叶わない。音楽とは違う流れで、あちこち視線をさまよわせることで、空気感を共有できる。
これがライブの、即興の愉しみのひとつではないか。
そんなことを、聴きながらずっと考えていた。
ステージは各セット2曲づつ。長尺の展開だ。1stセットの始まりはタイトル未定だそう。
進行するにつれ、テンポがぐいぐい変わるさまがスリリングだ。
次は即興から、エンディングで"モズクス"のテーマに雪崩れた。
2曲目は途中で、うとうとしながら聴いていた。太田のバイオリンがミニマルなフレーズを延々つづけ、ギターとパーカッションが奔放に動く。
途中で岡部がソロを取り、カリンバを鳴らし始めた。太田も今堀も弾きやめ、しばし無伴奏のカリンバ・ソロ。太田が目を閉じ、ボイスを載せた。
嗄れ声のアフリカンな展開が、痛快なかっこよさだった。
さらにギターとバイオリンがポリリズミックに展開したのもこの曲だったかな。
エンディングではテンポが加速し、猛烈にフレーズが繰り返される。ビートも高まり、豪快で精妙な響き。がつんとコーダをぶちかます瞬間が、勇ましかった。
短い休憩をはさんだ2ndセットは、"マサラ・スコープ"から。今堀のギターがしゃくるようにイントロを奏でる。バイオリンの弾く旋律へ、時に寄り添うギターが良い。
後半セットでは今堀も太田もさらに、ソロを取りまくった。ディストーション効かせたバイオリンは、時にノイジーに。弓の背で弦を軽く叩く太田は、エレクトロ・ノイズな展開も。
今堀はザッパ風のフレーズを明るいトーンでばらまき、次にはアームや手元の機材を使って抽象世界を表現する。個性を表現しつつ、アンサンブルを構築する。
太田がソロを取るバックで、フレーズのアクセントを次々ずらしてリフを変化させる場面も良かった。
太田の歌声は、"マサラ・スコープ"でもたっぷりと。しみじみと声が音楽に溶ける。
後半の曲が、"ヨルジュ・ヨルダシュ"のテーマかな?加速するテーマと、インプロのバランスが絶妙。幾度も太田は、にこやかにほほ笑みながら弾いていた。
最後は高速ユニゾンのテーマで。今堀が最後の音を出した刹那、素早く弦から指を離したさまが印象深い。
アンコールの拍手に応え、譜面をめくる太田。自ら作曲したブルーズを選んだ。
今まで太田のソロなどで聴いたことあるような、初めて聴くような。テーマがすぐさま解体され、インプロに変貌していく。
スリリングで、即興の醍醐味をたっぷり味わえるステージだった。
太田がこれまで披露してきた、さまざまな顔ぶれとの柔軟な距離感の立ち位置が、ヨルジュ・ヨルダシュではさらに自由になった。太田がどんな姿勢を取っても、アンサンブルは展開する。太田が、バンマスであるがゆえに。
次はタイバンながら、6月にピットインでライブあり。うー、聴きに行きたい。