LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2011/4/16
渋谷 公園通りクラシックス
出演:Trinite
(shezoo:p、壷井彰久:vln、小森慶子:cl,b-cl、岡部洋一:per)
shezooの音楽世界を表現するユニット、Trinite。もともとめったにライブをやらないバンドなうえに、ぼくは久しぶりに聴く。
このユニットではshezooの組曲を演奏、過去の「The
Prayer〜祈り〜」から「月の歴史」、そして今は「神々の骨」というタイトルを作成中。
とはいえ単なる作品の発表会には、もちろんとどまらない。セットリスト的にも過去の組曲から演奏し、総合的な世界をライブの中で作っている。
Triniteにとってのライブは、組曲の発表であり新たな地平へ向かう過程を表現する場、だろうか。そんなことを、聴きながら考えていた。
基本的に楽器はアコースティック。壷井彰久はアコースティック・バイオリンにピックアップをつけ、小森慶子は曲によってクラリネットとバスクラを吹き分ける。
岡部洋一は変則的なドラム・セット。スネアの位置がジャンベかな。タムの位置にスネア風の太鼓を置き、フロア端にはスルドらしきもの。その周辺にカウベルやブロック、さまざまな金物やシンバルなどを並べていた。
shezooは真摯に、グランドピアノへ向かう。
ライブは過去の組曲の作品、"Baraccone
1"から始まった。
Triniteのアレンジは独特。耳をまず引くのは、素晴らしくきれいな響きのバイオリン。それをピアノがしっかり支えた。
つまりパーカッションがほとんどの曲で、ビートを刻まない。shezooのピアノがアンサンブルの根底にある。弾きっぱなし、というわけではないが。
"Baraccone
1"は聴いたことある曲なので、構成が何となく想像できた。
最初は旋律を丁寧にバイオリンが表現する。ピアノはほとんど即興要素が無さそう。
岡部が静かに金物を加える。滑らかにバイオリンが、アドリブへ移った。ここまで、小森は吹かない。全休符状態だった。
ひとしきりバイオリンのソロが展開し、クラリネットへ。小森は旋律のアクセントやニュアンスを滑らかに崩して、旋律に個性を加えた。
ピアノが静かに鳴る。バイオリンのアドリブが終わる場所でピアノへアイコンタクトを送る場面もあったので、即興部分の小節数は決まってないのかも。
楽曲により壺井や小森はソロを取るが、ピアノは最後までアドリブを強調しなかった。
調和をふくよかに表現する。時に凛とした響きで。shezooは軽く背を曲げ、柔らかくペダルを踏みつつ、ピアノを弾いていた。
"Dream
catcher"から3曲目にうつる間に、メンバー紹介。
壺井を"バイオリンとMC"と紹介して、本気でマイクをshezooは渡すそぶりだった。壺井が笑いながら固辞して、楽曲紹介はshezooがつとめる。
丁寧でシンプル、短めのMCでサクサクとライブは進んだ。各セット、5〜6曲くらいづつかな。
3曲目では、小森がバスクラへ。岡部がドラム・セットから降り、横の床へ正座してる。てっきり管とピアノのアンサンブルかと思ったら・・・座ったまま、さまざまな金物を鳴らす。
曲の途中でシートの上に並べた金物を、シートをわしづかみで振り回し、まとめて鳴らす豪快な場面もあった。
岡部はほとんどソロらしきものは無し。2ndセットの最後に、ちょっと長めのソロがあっただけ。
アクセントで鳴らす音は、テンポやビートとは別次元。たまに連続した打音が続くと、そちらへ耳が行く時も。
金物やタンボリンを指先で深く鳴らし、響きのひとつひとつをゆったり浸透させた。
どの曲もバイオリンとクラリネットのアンサンブルが素敵だ。ずうんと奥深いバイオリンの音色を、キュートにクラリネットがつつむ。
ユニゾンで旋律を奏でるときの、ぴたり寄り添う響きに惹かれる。互いにフレーズを交錯させるときは、優美な音像が浮かんだ。
1stセットの最後は"プレリュード"でしめた。
短い休憩をはさみ、後半セットへ。メモを取っておらず、曲順やタイトルはあやふやです。
"DiesIrae〜怒りの日〜"を弾いたのが、後半セットの2曲目くらいだったかな。グレゴリオ聖歌がきっかけの、組曲『神々の骨』の新曲らしい。
たしかこの曲では、パーカッションはほとんど休符。ピアノもあまり前面に出ず、バイオリンとクラリネットの合奏を前面に出した。
荘厳な旋律が穏やかなムードで。二つの楽器がつむぐメロディは力強く結ばれる、とてもきれいな作品だった。
後半セットも次々進む。MCの途中である観客の携帯が鳴り、メンバーが携帯の音や地震通知の音を、笑いながら軽く出した。
shezooが弾いた地震通知のフレーズに、身体がぴんっと反応する。うーむ、無意識にこびりついてるな。ぼくの携帯は、あれが鳴らないんだが。電車の中や職場で響き渡ると、精神衛生によくないんだよね。
さて、ライブはそのあともぐいぐい進む。
どの曲も、エンディングのドラマティックさがすごい。すうっと消えるように終わる曲もあったが、派手にコーダが炸裂もかっこいい。
4人のシンプルなアンサンブルだが、そんなときはもっと大編成みたいに音の厚みが増えてる感じ。
楽曲ごとの終わり方も多彩だった。1stセットの2曲目あたりだったかな。最後にshezooがクラスター風に低音を叩くさまが、印象に残ってる。
ピアノが音像の地平を安定させ、その上でメロディ楽器が存分に歌う。
知らない曲では、どこまでが旋律でどこまでがアドリブかわからない。テーマを滑らかに変奏させていた。
終盤で長めのパーカッションソロが入った。めまぐるしく岡部が太鼓を叩きまくる。トーキング・ドラムを小脇に抱え、猛烈なテクニックでスピーディに打ち鳴らした。
最後に二曲、"砂漠の狐"と"Baraccone
2"を続けて2ndセットは終わった。どちらもCD化されてるレパートリー、すなわち今夜のライブは"Baraccone"でサンドイッチされた格好。
新組曲"神々の骨"へステップが進みつつ、ライブ構成は入れ子構造で複雑にからむ。
楽曲の流れや意味合いは深く語らなかったが、それにもストーリー性があるのだろうか。
アンコールにはすぐさま答えた。shezooが曲紹介。ちょっとタイトルを忘れてしまった。
だが、"アンコール"って言葉を使わなかったのは、覚えてる。観客の歓声に応えておまけ的に演奏ではなく、ライブ全体をひとつながりの世界、を意識した発言かなあ、と思ってた。
Triniteの演奏はアレンジが素晴らしい。アンサンブルの妙味と多彩な響きをたっぷりと味わえる。
さらに情感豊かなメロディと、ピアノを基調の上品で柔らかな風景が格別。
そしてフロント二人の奏でる即興的なフレーズの崩しや奥行が、サウンドの可能性を広げる。
パーカッションの響きが、さりげなくアクセントを楽曲へ付け加えた。
構築された美しさを、さまざまな視点で味わえる。このアンサンブルでCDが出ないかな。