LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2011/3/27    大泉学園 in-F

出演:不破大輔+イーヨ
 (不破大輔:b、イーヨ:vo)

 震災後、初めてライブへ行った。当初は不破大輔のみ告知され、直前でイーヨの出演が発表に。予定していたメンバーと異なり、急きょ決まった組合せという。
 このデュオは2回目のライブ。ぼくは初めて聴く。イーヨのライブを聴くのも何年かぶりだ。

 ステージにはウッドベースとボーカル・マイク。客電は白熱灯のスポットライトのみ。
 陰影が強調され、迫力ある照明だった。
 イーヨはコートを着たまま歌い始める。最初は即興だったようだ。
「自由に歌ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
 不破が、にっこり笑う。ウッドベースを構えて。

 前半セットは5〜6曲やったか。イーヨのオリジナル曲が続いた。日本語詞ではない。英語の響きをベースに、さまざまな外国語のニュアンスを盛り込んだ歌声。
 リバーブの効いた声が、高らかに響いた。
 耳触りの良い、ポップなメロディ。イーヨの歌はふうわりと鳴った。

 不破はウッドベースのみを弾く。エフェクター無しの真っ向勝負。数曲やるたび、入念にチューニングを施す。
 後で不破さん曰く、温度の関係でベースの音程が微妙に取りづらかったという。

 ウッドベースのシンプルなバッキングで、なおかつ不破はトリッキーなフレーズをぶつけない。
 逆に、歌伴の確かさを実感する演奏だった。歌と寄り添い、カウンターメロディをかぶせるさまは、おおらかで温かい。そして、グルーヴィ。

 演奏途中で扉があき、観客が覗き込んだ。ドアを閉めようとする観客へ、イーヨが歌いながら「どうぞ〜♪」と声をかける。
 その瞬間、ベースと歌の存在感が、ギュッと膨らんだ。

 2曲目からイーヨはコートを脱いだ。マイクを片手に、もう片手はふわふわと空を遊ばせる。

 MCはほとんど無し。曲の終わりにイーヨが観客へ感謝の言葉をかけるくらい。淡々とステージが進んだ。曲順は決まってるようで、不破は曲が終わるたびに譜面を横へ丁寧においていく。

 前半セットは最後の曲以外すべて、イーヨが持ち込んだものらしい。
 ボーカルを前面に出したセッションで、ベースのソロはごくわずか。イーヨもむやみにスキャットで引っ張らない。
 二人のデュオを強調したアレンジだった。
 それでも、何曲かで不破のソロが聴けた。テンポをキープしつつ、フレーズがぐるりと変化していく。

 ウッドベースはさまざまな音色を聴かせた。今夜はすべて指弾き。弦が深く鳴る音、スラップではじかれる鋭い音、金属的に弦が響く音、そしてミュートされた弦のノイズ。
 さまざまな音色が、たっぷり鳴った。シンプルなアレンジだからこそ、ベースのニュアンスが味わえた。
 不破のベースは、歌と滑らかに溶けた。

 とはいえ演奏風景はリラックス。1stセットの途中で、イーヨは「いいなあ。弾きたいなあ」と、ピアノに触る。
「これなら弾けるかも」と、一曲だけ弾き語りをした。D7の7thは何の音だっけ、と無造作に不破へ尋ねる。

 イーヨは立ったまま、鍵盤を鳴らした。中盤でほんのちょっと、アドリブも。
 和音の響きがちょっと奇妙でも、構わずゆったりとピアノ・ソロを取った。

 最後から2曲目では、冒頭にイーヨが即興で歌ってた。メロディ・ラインがくっきりしてるので、ぼくは聴いていて、どこまでが即興かさっぱり。
 譜面をいぶかしげに見てた疑問顔の不破は、即興とわかったとたん「そうきたか」と、羽織ってたシャツを脱ぎ、Tシャツ姿でベースを構えなおした。

 1stセット最後は"ひこーき"。ぐっとテンポアップして、フェイクや即興を加えず、滑らかにイーヨは歌う。テーマをあっという間に駆け抜け、短いベースのソロ。
 そしてもう一度、テーマ。渋さの長く伸ばすアレンジに慣れてる耳には、逆に新鮮なアプローチだった。

 短い休憩をはさみ2ndセット。冒頭2曲はカバーだった。
 最初の曲は、弾き終わった後に不破が「好きな曲です」と微笑む。タイトルは不明。ジャズ、かな?

 2曲目は"スカボロー・フェア"。イントロはスキャット、中盤のメロディで曲が分かった。知ってる曲だと、どのあたりをオリジナルに忠実、どのあたりを崩してるか見えて、興味深い。

 そのあとは、イーヨのオリジナル曲が続いた。タイトルも途中で告げてたが、ちょっと覚えきれず。
 やはりベース・ソロは短めだが、ときにイーヨは不破へソロを促す。
 もっとも今夜の不破はアドリブをぐいぐい深めていくより、曲全体のイメージをふくらますアプローチが多かった。

 終盤で不破の"DADADA"。日本語歌詞が、いつの間にかイーヨ節に変化していく。
 のびやかな声。リバーブに包まれ、空気を暖める。ベースがしっかりと、しかし前のめりに歌を支える。ほっこりしたムードが心地よかった。

 アンコールの拍手が続く。「この曲があった」と、ピアノの上に置いた譜面を、不破が取り上げた。
 "少年"ってタイトルの日本語の曲。浅川マキのカバーだそう。情緒あふれるメロディを、しみじみとイーヨは歌った。

 各セット1時間弱、比較的あっさりとライブは終わった。次回もin-Fでこのデュオのライブが決まってる。
 不破は「次はピアノかドラムも呼ぼうかな」とステージで言っていた。とはいえベースのみ、シンプルなセットでも十分に気持ちいい。
 白熱灯に照らされた、薄闇の中でのライブ。しとやかな歌声と、たくましいベースの絡みが、素敵な演奏だった。

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