LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2011/2/20    新宿 新宿文化センター

 

  〜同一の呪法による二つの儀式〜菊地成孔と菊地成孔によるダブルコンサート〜巨星ジークフェルド〜

出演:DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN

  (菊地成孔:cond, CDJ, key、大儀見元:per、坪口昌恭:key、丈青:key、大村孝佳:g

  類家心平:tp、津上健太:ss,as、高井汐人:ts、千住宗臣:ds、田中教順:ds、アリガス:eb)

 

 バンドを変えた2daysの二日目。表題である"巨星ジークフェルド"を検索すると、1936年のアメリカ映画のタイトルがヒットする。

 ブロードウェイの興行王フローレンツ・ジーグフェルドの半生を描いた物語だそう。今夜は、この言葉にどんな暗喩をかぶせたのか。

 

 客席はみっしり満席だった。今日も後ろのほうの席から聴いてた。がつんとボリューム大きいのに、きれいな音のPAで嬉しい。

 彼らのライブはすごく久しぶりに聴く。最後に聴いたのが、02年の12月、大友が脱退ライブ以来だ。

 

 ホールでのコンサートとはいえ、開演は5時と異様に早い時間。

 DCPRGは期待に応え、本編2時間半、アンコール入れてトータル3時間のステージをぶちかましてくれた。

 

 今夜も客入れのBGMは無し。観客のざわめきの中、2ベルが鳴って客電が溶暗した。

 菊地成孔が拍手の中、現れる。今夜はスポーティな姿。客席を向き、マイクを取って喋り始めた。

「まず、昔話をします。歳をとると昔話が長くなって・・・1200年前の話です」

 千夜一夜物語の中、シンドバッドの冒険について語り始めた。口調は妙に硬い。最初は笑っていた観客も静まり、菊地の言葉へ耳を傾けた。

 シンドバッドの冒険譚の一つで、荒くれた野生のサルの集団を楽器でなだめたというエピソードがあるそう。

 

「イメージで、笛やハープで鎮めたと思うかもしれません。実際には、タムタムを持っていました。シンドバッドは野生のサルたちの中へ飛び込み、太鼓によるビートで騒ぎを鎮めたのです」

 そしてこれがグルーヴについて言及された、最古の物語ではないか、と語る。

 

「今夜も、その楽器を用意しました」

 菊地は楽器を指さし、CD−Jに置かれた毛糸の白い大きな帽子をかぶった。一呼吸おいて、観客へ告げる。

「さあ、"荒くれた猿たち"の声を聴かせてくれ」

 

 マイクを客席に向けた。大きな歓声の中、観客が総立ちになる。

 菊地はくるりと背を向けてキーボードを鳴らし、CD−Jを操り始めた。メンバーが姿を現し、楽器を構える。

 

 しばらく菊地のCD−Jとキーボード。おもむろにハンドキューが飛び、リズム隊が音を出した。

 

<セットリスト>(不完全)

1.Perfect Days For Jungle Cruise

2. Play Mate At Hanoi

3. Catch 22

4.  ?

5.構造1

6.Circle / LineHard Core Peace

Encore)

7. Mirror Balls

 

 基本構成は音源化された前のライブとさほど変わらない。ある程度、流れを固めてる最中か。

 冒頭からずぶずぶの混沌ファンク。しかしぐっとヘルシーな雰囲気だ。

 ソロ回しでなく、ポリリズム展開が基本なために演奏者はクール。激しくビートに体を揺らすのも、菊地だけ。もちろんビートはタイトだ。

 菊地のコンダクトがむしろ異物感を、アンサンブルへ痛快に与えた。ある程度ランダムにキューを飛ばすためだ。後期マイルスの美学を踏襲か。

 

 さらに特徴的なのは、菊地のオルガンとCD−J。オルガンはクラスター的なフレーズを刻むが、グルーヴへ決して沿わない。整然と転がり続けるサウンドへ異物として鋭さを挿入する。

 CD-Jも英語のしゃべりをループさせたり、ジャズやブルーズをありのままピョンと挿入したり。

 構築された整合性を、菊地がコンダクトしつつ崩す。二面性を見事に表現した。

 

 2時間半のステージで、6曲。一曲づつを実にじっくり演奏した。冒頭から淡々たる曲で延々引っ張る。

 ベースのフレーズが執拗に提示され、その上を管や鍵盤が舞っていく。ドラムはそれぞれ違うビートを叩いてるようだ。

 

 時折挿入されるソロも、フレーズの強度よりアンサンブルの流れに取り込まれるかのよう。とにかく一人のソロ時間がたっぷりあり。

 津上のアドリブくらいか。ソロとしての存在感を強烈に出したのは。ギターのワイルドで素早いソロもかっこよかったな。

 

 (2)も冒頭は抽象的なフレーズから。坪口がおもむろに弾いたテーマも、どこか歪んだイメージが漂う。

 菊地が音楽に乗り、激しくステップを踏んだ。幾度も奏者を指さし、左手を振り下ろす。激しく、腕ごと投げ捨てるように。

 足で、体で、菊地はビートを楽しみ続けた。

 

 大儀見へスポットが当たる。硬質な響きが空気を震わす。たっぷりとソロを聴かせた。

 菊地によるCD−Jのソロ。古いジャズをしばらく流し、回転数を変え、ループさせる。

 混沌たるアンサンブルの復活で、"Catch 22"へ。最初は何の曲かわからなかったが、ホーン隊が順番に吹くフレーズから、多分この曲と推測。

 津上がたっぷりとソロを取り、坪口のソロにつなげる。

 

 続く曲はタイトルがわからない。これも抽象的なビートで、延々と粘っこいファンクになる。

 今夜は冒頭からステージはカラフルに染められていた。

 が、すっと白黒に光が変化して、ドラムの2人とパーカッション、キーボードとトランペットにCD−Jのみのサウンドに。そぎ落とされた編成が鋭く音を鳴らす。

 他のメンバーはステージからいったん消えた。

 そして、すっと現れたギターが、ソロを取る。

 

 次の"構造1"はキーボードやギターの音バランスが妙に強調され、奇妙な印象。

 爽やかでスピーディなCDのアレンジと印象が変わり、もっと混沌としてた。

 ここでもベースが執拗にフレーズを続ける。

 

 中盤で菊地のキューが、ベースだけを抜き出す。フレーズを繰り返す上で、ドラムの一人がバスドラを5つ打ち。

 それまでの4拍子が、5拍子へくるりと変化した。

 

 ここまでで2時間以上経過。ついに"Circle / Line"。MCは一切ない。

 ギターのカッティングが強調され、バッキングのキーボード・フレーズもやけに響く。

 ぐんぐんと音が大きくなった。煌めくオリジナルのアレンジと変わり、ここでも妙に歪んだ空気を醸し出した。

 途中で菊地がドラムだけを抜き出す。一人が3拍子、もう一人が4拍子。二人のポリリズムをさらりと披露した。

 

 ポップなサウンドがフロアを揺らし、ついに"Hard Core Peace"。疾走したアンサンブルは、エンディングに突っ込んでいった。

 坪口がショルキーを取り出す。ギターと二人でソロの交換をしまくった。

 さらに坪口はショルキーを持って、ステージ中央へ。菊地の背中へ鍵盤を押し付け、ガシガシと音を出すコミカルなシーンもあり。

 

 アンコールにこたえた菊地は、一杯喋りながらメンバーを紹介する。なぜかここでも、妙に堅苦しい口調だった。

 ジョークで笑わせたMCは15分くらい。

 ちなみに坪口は今夜のライブのため、ショルキーを無線で弾く機材を買ったとか。これまでの復活ライブは、ショルキーで飛び出した途端にシールドが抜けてるという。

 

 そしてアンコールが"Mirror Balls"。ギターからキーボード、サックスからトランペット。

 短めにソロが回されていく。温かくハッピーな雰囲気で幕を下ろした。

 

 このところDCPRGはアルバムだけ聴いていた。最後のスタジオ作"Franz Kafka's AMERIKA"で、混沌なファンクへ向かったDCPRGは、新たなメンバー編成でシャープさを増した。

 若手メンバーに囲まれ、菊地がより自らの志向を研ぎ澄ませる。ほんとなら山のようにライブをやって、スタジオ録音と行ってほしいが・・・さて、どうなるやら。今後の活動が、また愉しみ。

 久しぶりにライブを聴いたDCPRGは、やはりファンキーだった。

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