LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2011/2/19
新宿 新宿文化センター
〜同一の呪法による二つの儀式〜菊地成孔と菊地成孔によるダブルコンサート〜エロス+虐殺〜
出演:菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
(菊地成孔:as,ts,vo,conduct、早川純:Bandneon、林正樹:p、大儀見元:per、田中倫明:per、堀米綾:harp、
鳥越啓介:b、吉田翔平:1st Vln、楢村海香:2nd Vln、菊地幹代:Vla、徳澤青弦:Vc)
2daysの日替わり公演、初日。ちょっと時間を押した開場で、席につくと無音。ロビーの物販アナウンスだけが漏れ聴こえる。ホールにBGMは一切流されていなかった。
すでにステージへは楽器がセッティングされている。
開演30分前。女性スタッフが、丁寧にテナーサックスを運び、ステージ中央に据え付けた。
場内アナウンス以外、客席は観客のざわめきのみ。音楽は無い。
ふっと弦をはじく音で、ステージを見る。ハープが調弦をしていた。開演、5分前。
19時開演時間ちょうどに、1ベルが鳴った。
しだいに客電が落ちる。5分ほど押してステージが明るくなり、メンバーが姿を現した。
全員が黒のスーツやドレスで、びしっと決めている。
ペペのライブを聴くのは08年12月のコクーン公演以来。今回もセットリストが掲示されるかなと期待して、ろくに曲順を覚えておらず。すみません。
一曲目は聴き覚えあるメロディだが、タイトルを覚えていない。
無言で菊地はアルトを構えた。
僕は後ろのほうの席で聴いてたが、しょっぱなから音質の良さにぐっときた。音量はさすがに小さめ。しかし低音の水っぽい太さが、すごく心地よい。パーカッションの音色も歯切れ良かった。
今回のライブも約1時間半の本編はMC無し。淡々と曲が続く。数ブロックに分かれる構成で、最初のブロックはほぼメドレーで演奏された。
一曲目の最後は、ゲネラルパウゼが最後にあり。最初の無音で観客が拍手を飛ばし、ほんとの終了では拍手がまばら。ちょっと戸惑った雰囲気のまま、次の曲になだれた。
かくいう僕も、ほんとの終わりでは拍手しそびれてしまった。
音質はよかったが、やたらノイズが目立つ。ハウリングが数度、妙なブツッってノイズも幾度か。菊地のサックスは、テナーでなんどもリードミスを出す。珍しいな。
2曲目でテナーに持ち替えた菊地が、ソロが終わる直前でリードミス。さりげなくマウスピースを手に持ち、リガチャーを弄ってた。
今夜の音源も録音されてたようだし、カメラマンの動きも目立った。
しかし演奏はとてもよかったので、たとえノイズが載っていようとも、音源発売されると嬉しいな。
ペペをライブで久しぶりに聴いて、改めて音楽の美しさに惹かれた。
ほとんどのソロは菊地のサックスのみ。前半はピアノやバンドネオンでちょっとソロがあっただけで、基本はアンサンブル。それが、抜群の効果を出す。
即興要素もあまりない。菊地のハンドキューで、幾度か楽器がそろって音を出す場面や、それに混じった静かな音出しに、多少即興的な場面も。
けれども音は基本的に整理され、和音やメロディの美しさが強調された。
ライティングもシンプルながらきれいだ。前半はほぼ、横からのみ色が付け加わる。
時に赤や青く染められるメンバー。緞帳には、ピアノの屋根が生む影が、うっすらと漂う。
舞台装置も、派手なライティングもない。横から浴びせる光がメンバーを彩る。
別の曲では、菊地が吹く影がステージ横の壁に大きく映った。そのさまもかっこよかった。
ポリリズムとハンドキュー。菊地のコンダクトはDCPRGと重なる場面も。改めて菊地の一貫性を感じた。
ペペの音はエキゾティックでスリリング。構築されていながら、ヘルシーさをあえて消した。怪しい影が音楽から香る。
2曲目の冒頭だったろうか。抽象的で静かな音像が、メンバーから提示された。一人づつ順番が決まってるかのように、そっとランダムな音をピアノやハープが出す。
菊地は時に身ぶり大きくテンポを提示。指を鳴らして刻む音が、くっきりと聞えた。
腕を大きく振り、時にハンドサインで菊地はメンバーへ音出しを合図する。
最後にきゅっと指を振り"京マチ子の夜"へつなげた瞬間のキューが、なまめかしかった。
5曲ほど演奏していったん菊地は一礼。拍手の中、メンバーがチューニングをランダムに始めた。
そのまま無言で、菊地は演奏を続ける。
歌ったのは"嵐が丘"。高らかな菊地のスキャットが、ホールへきれいに響いた。
両手をポケットへ突っ込んだまま。マイクへ前のめりの姿勢で体を伸ばす。まくしたてる声は、スムーズに空気を震わせた。
数曲やるごとに、菊地のハンドキューをメインにした場面が挿入される。
どの曲か忘れたが、菊地の指の数だけ音を響かす場面あり。弦が素地でピアノとハープが指の数だけ鳴らしてた、かな。
その場面が特に印象的。3回以上音を続けるときは、テンポを一定にさせない。最後の一音だけ、ぐっと間を持たせたりも。さらに続けられる音は、音程を持っている。
だからひときわ、菊地のキューに合わせたしぐさがエレガントだった。
最後のブロックでは、どんどんテンポが速くなる。菊地は体を大きく震わせ、音楽に合わせリズムを取っていた。
1stバイオリンが激しくソロを取る場面では、体をステージ中央からちょっとずらしリズムに合わせ、せわしなく足と顎でテンポを刻んでた。
"キリング・タイム"の緊迫感にやられる。CDとは異なり、弦が奏でるテーマの2回繰り返すフレーズが、1回に減らされたアレンジ。ぐっとスリルを強調した。テンポも速かったな。
ベースのソロは、クライマックスの"ルペ・ペレスの葬儀"でだったろうか。この曲ではベースの素早さも強調。畳み掛けるメロディをテナーとユニゾンで、めまぐるしく弾きのめす。
ソロでは弓を使ったフレーズ。最後に激しく弓で弦をぶっ叩き、そのまま床へ弓を投げ捨てるしぐさに、ぐっと来た。
パーカッション二人のデュオも壮絶。テクニックひけらかしの対決じゃなく、シンプルなパターンで切りあう。
ライトが二人だけを、白くまばゆく照らした。
"映画『8 1/2』〜それから...(ワルツ)"で、静かにライブ本編は幕を下ろす。
最後も無言のまま、菊地はメンバーを腕で示し挨拶。体に手を当て深く腰を曲げて一礼。すっと舞台から去った。
客席の雰囲気は、ぴいんと張りつめた感じ。
アンコールの拍手にはすぐ応えた。菊地がまず喋り始め、客席の空気もふっと明るくなる。
その場で思いついたギャグを飛ばしながら。時間が押してる、と言いながら喋りまくる。
「というわけで今日はどうもありがとうございました」
と、いかにもおざなりっぽい口調で、慌てて最後を締める菊地の口調に観客が笑い出した。
「もうアンコールやる時間ないよ・・・って、そこまでアコギなことはしません」
にやっと笑った菊地は「レパートリーで唯一明るい曲」と"メウ・アミーゴ・トム・ジョビン"を紹介した。
これも案外、テンポが速め。ロマンティックなムードを醸し出し、あっさりとライブは終わった。ちょうど21時ジャスト。
濃密で優雅なエキゾティズムにやられた。以前聴いたときはデカダンさかと思ったが、今回はむしろ整然たるアンサンブルによる美学の強調を感じた。
ポリリズムときれいな旋律を整ったアレンジで、優雅に聴かせる。ペペは美しさを、ぐっと増していた。