LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2010/12/31    六本木 新世界

 

出演:渋さ知らズ

(立花秀輝:as,佐藤帆:ts,辰巳光英:tp,theremin、大塚寛之:g,山口コーイチ:key,

  磯部潤:ds,関根真理:per,不破大輔:b

 宝子,南加絵,すがこ,若林淳,シモ,ペロ,さやか:dance、渡部真一:vo、横沢紅太郎:visual)

 

 21時半スタートのカウントダウン・ライブ。渡部真一によると「渋さ知らズ・オーケストラではなく、渋さカウントダウン・バンド」だそう。

 会場の新世界は駅からちょっと離れた場所にある、こじんまりしたクラブ。80人限定ライブだったが、実際に80人いたのかな?

 フロア後方、バーカウンターの前にはまだスペースがあり、僕は後ろのほうで聴いてたが、体をゆっくり動かせる程度の混み具合だった。何年も前に曼荼羅で、50人くらい詰め込んだぎゅうぎゅうじゃなく、ある程度隙間ある客入れ具合はストレスが溜まらず嬉しい。

 

 ステージの背後には、大きな渋さの垂れ幕が二つ。21時半寸前に渡部が、不破大輔が、メンバーがゆっくりと姿を現した。

 今夜は少なめな編成。だから一曲で、ソロのスペースがたっぷり。何コーラスも一人が吹き鳴らし、大勢がてんでに吹くカオスな瞬間は少なかった。

 

 曲順やタイトルがあやふやなので、セットリストは割愛させてください。

 一曲目は"エージャナイカ"だったかな。冒頭からさやかとペロ、すがこが姿を現し踊り始める。中央のさやペロと、袖でバナナを振るすがこ。

 背後の壁にはヨーロッパ風の風景を飛行機で駈けるような映像がつぎつぎに移される。

 雄大な風景を眺めながら聴く渋さ。不破のエレキベースが、どっしりとサウンドを支えた。

 

 最初のソロは辰巳光英。ちょっとひしゃげたトランペットの響きに聞えたが、変調してた?

 穏やかなソロを展開し、佐藤帆のテナーにつなげる。辰巳は横へ置いたテルミンを操作し始めた。

 

 ソロは大塚寛之に。アーム中心のプレイからワウを使ったブルージーなソロが、めちゃくちゃかっこいい。大きく口をあけて弾きまくる場面は、この曲だったろうか。

 最後はボトルネックも少々使っていた。

 

 立花秀輝もソロをとる。メロディアスで、音が太い。フリーク・トーンと旋律のバランスがばっちりな、極上のソロだった。今夜の立花はそこかしこで、素晴らしく聴きごたえあるソロを提示した。

 

 ちなみに立花も帆も吹いてる途中で、とんでもなく鼻眼鏡になっていく。

 まるで計らったように。落ちる寸前まで眼鏡が鼻先へ向かう。ソロを聴きながら、つい眼鏡に目が行ってしまった。

 

 一曲目で15分くらい。2曲目はタイトル失念。ゆったり気味のテンポだった。

 リズム隊はソロをとらないが、山口コーイチがシンセのソロを。途中からクラスター気味に鍵盤を叩きのめし、喝采を浴びた。

 

 渡部のソロも。スキャットというより、語りかな。

「週刊誌が俺について書いてることは全部ウソだぜ〜」って、岡村ちゃんのセリフ引用がおもしろかった。

 

 渡部の語りはカウントダウンへ言及する。「今日のための腕時計は、電波時計だ!ずれないぜ!」と高らかに吼えた。

 背後の映像はクラゲのアップ。しなやかな動きが演奏を彩った。

 この曲でもソロまわしをたっぷり。渡部は途中でテルミンへ手を伸ばし、くいくいとおかずを入れていた。

 

 "犬姫"へ。関根真理がボーカル・マイクをセットし、高らかに柔らかな声を響かせる。

 しみじみしたムードが素敵だ。思い切りたっぷりと、演奏が続いた。

 大塚が、立花が、怒涛のソロを。おおっと耳をそばだてる瞬間が幾度もあった。

 さやペロは引っ込み、白塗りの女性が登場。ゆるやかに身をくねらせる。

 

 約一時間経過したところで、いったん30分の休憩を宣言。もっとも25分くらいしたら演奏が始まる、巻の展開だった。

 

 最初は"股旅"だったろうか。映像は確か、海外ツアーでバス移動の車窓。単なる高速道路の移動も、なんだか風景が新鮮で音楽聴きながら見入ってしまった。

 途中でケベックって文字を見た記憶もあり。カナダ・ツアーの映像かな。

 

 後半も長尺ソロの連発は変わらず。強烈にブロウする帆。びりびりと震える。

 野太い咆哮は時にフリーク・トーンへ。さらにコミカルな場面も。

 たしかこの曲で、不破と磯部潤のリズムがポリリズミックに絡む、すごく刺激的な音像が産まれた。

 

 どの曲か忘れたが、辰巳はたっぷりとテルミン・ソロを聴かせる場面も。両手がしだいに速くなり、ぶんぶんと振り回す激しい展開になった。

 ちなみにトランペットでも、ミュートや手ミュートなど使い分け、多彩な色使いのアドリブを提示した。

 

 冴えわたる立花のソロ。後半2曲目の冒頭で、輝く即興を吹きまくった。背後にまた、クラゲが大きく映る。

 すがこはステージから客席フロアへ現れた。ゆっくりと舞う。両手に黒手袋、バナナを持たずに。

 白塗り女性も現れた。とちゅうですがこに続いて、客席後方へ。そこに置かれた丸テーブルの上に乗って、踊りだす。

 すかさず周囲の観客が灰皿やコップをどけ、机を支えた。すがこも舞いながら、さりげなくテーブルを押える。

 

 中央にはシモが現れた。しなやかに、激しく。いつのまにかステージ横に、スキンヘッドで迫力ある隈取した白塗りの男がもう一人。動かずにじっと、客席を睥睨する。

 

 白塗り女性がステージへ戻った後、すがこはフロアのテーブルに腰掛け踊り続けた。

 静かに。手が祈るかのように顔の前で合わさり、伸ばされては畳まれる。

 

 舞台ではソロ回しが続く。帆も立花も鼻眼鏡の危うさはそのまんま。

 大塚のワイルドなギターが炸裂した。

 ステージ横の白塗り男も中央へ向かい、凄みある動きを見せる。

 

 曲がぱっと"ナーダム"に変わる。さやペロが現れ踊りだした。ふと気づくと、いつのまにかすがこはフロアからはけていた。

 にぎやかにテーマが盛り上がり、渡部がマイクで観客をあおった。

 

 あと、"Pちゃん"もやったかな。"Fishermans band"でカウントダウンの時間に。背後でデジタル時計が時を刻む。

 渡部は深情けの愁嘆場みたいに、2010年を惜しみまくった。観客から「あと何分」と声がかかるたびに、大声で2010年への未練を語りたてる。

 

 そして、0時。あらかじめ観客へ配られたクラッカーが、盛大に鳴った。

 背後の映像が妙にめでたい感じになり、宝子がウサギ耳の白塗りで現れた。南加絵とシモは金粉姿でまばゆく身体を輝かす。

 ステージ左右で彫像みたいなポーズを静かに決める、シモと加絵。

 

 曲は"ライオン"、そして"本多"と電車道で盛り上がった。

 不破のベースが、とにかくカッコいい。リフがぐいぐいグルーヴし、空気を熱くさせる。

 

 ステージ袖でもう一人、白塗りの男がそっとステージを見つめてた。最初は舞台へ現れず、静かに立ち尽くす。一杯着込んだ姿は、どこかコミカルだ。

 "本多"になると舞台へ現れ、タンバリン片手に踊りだす。

 

 ついに磯部のソロ。猛然とドラムが吼えた。めまぐるしくタムが叩かれ、疾走する。

 スピーディで力強いドラム・ソロがたっぷり聴けた。

 

 観客の合唱をいっぱい入れて、"本多"が終わる。そのまま渡部がキューを送って"仙頭"へ。ところがタイミングとれず腰砕けになり「初めてだからな」と、渡部が苦笑した。

 不破が仕切り直しでカウントし、もう一度"仙頭"を。フロアで飛び跳ねた。

 

 ライブは、これで終わりと渡部が告げた。時間は1時半くらい。

 いったんホーン隊がハケたが、不破の合図で呼び戻される。元日が誕生日という加絵へケーキがふるまわれ、観客やメンバーの拍手の中、シモに肩車された加絵がケーキのろうそくを吹き消した。

 

 そのままステージ上ではシャンパンで乾杯が始まる。客電がつかないので、観客はなんとなくステージを見つめてる。「めっちゃ見られてる」と、関根が笑っていた。

 自然発生的に、もう一曲。アンコールを。"Little Wing"だったそう。

 

 スローなムードで、大塚のソロがたっぷりと。ひずんだ音色のエレキギターが、切なく啼いた。

 

 最後は不破が挨拶して、締め。

 しめて三時間弱、たっぷりなボリュームでのライブだった。渋さの新年ステージは初めて体験したが、いやはや楽しかった。

 小編成ゆえの長尺ソロの連発も聴きごたえある。さらにリズム隊のシンプルさで、ベースやドラムの絡みも堪能できた。

 たとえば吉祥寺マン2でのジャズや即興性とも違う。大勢渋さのにぎやかさを生かしつつ、個々の演奏を存分に披露。二面性がきれいに溶ける構成の、素敵なライブだった。

 

 額に汗がにじむ。体が熱い。寒い夜だったが、駅まで歩く間、寒さはちっとも感じなかった。

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