LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

 2010/12/28    大泉学園 in-"F"

 

出演:黒田京子+竹澤悦子

(黒田京子:p,,etc、v:箏,十七弦,三味線,,etc)

 

 ひさしぶりのin-F。今夜は黒田京子が最近、積極的に行っているデュオ・シリーズ。共演の竹澤悦子とデュオは、数年ぶりという。

 竹澤がKOTO VORTEX時代、斉藤徹の"Stone out"(1996)に参加が黒田とのきっかけらしい。CDを聞き返したら、たしかに。あの盤が初共演とは知らなかった。

 

 ステージは完全生演奏で行われた。ピアノのふたは大きく開く。後で伺うと観客に音が届く、ちょうどいい角度にふたが調整されてるそう。11月の黒田のソロ・ライブで行った設定という。

 

 竹澤の生演奏を聴くのは初めて。ステージにはまず琴がセッティングされ、背後に十七弦が立てかけられる。背後にテーブルがあり、さまざまな小物が置かれた。

 譜面をちょっと伺えたが、独特の琴用の譜面もあり。四角と線が並び、見方が全く分からない。

 黒田はたぶん、五線譜を見て演奏してたと思う。

 

 まずは二人の即興から。10分くらいか。

 箏の演奏を間近で見るのは初体験、とても興味深かった。

 冒頭から竹澤は特殊奏法もいくつか繰り出す。爪の横で弦をこすったり、ハーモニクスを出したり。ちなみに角爪を使用していた。

 

 基本は普通の奏法によるメロディアスな演奏だ。弦を強く押し下げ、響きを震わす。ぐんっとあそこまで力強く、弦を押すものなんだ。

 竹澤は頻繁に柱を操作する。ピッチを直してるように見えた。僕の耳では違いがよくわからない。なお、弦の途中にうっすらと青や赤の色が見えた。あれがチューニングの目印なのかも。

 

 箏の演奏へ黒田はふくよかなフレーズで重ねる。積極的にペダルを踏んで、柔らかい残響を出した。後で二人の会話を漏れ聞くと、ピアノを弾いてない時もペダルを踏むってことも、黒田はしていたらしい。

 二人の音楽は寄り添い、しなやかに高まった。

 

 日本人とは、と思っていた。特にこの即興を聴きながら。箏のフレーズは、いかにも雅楽を連想する。弦の並びのためか、たまたまそう聞き取ったのかはわからない。

 ピアノと箏、二人の即興が箏に軸足を置きつつ、滑らかに耳へなじんだ。

 

 さらにテンポやタイミングが即興の間にグラグラ揺れる。しかし、それに違和感を感じない。日本人なりのリズム感みたいなものか、とぼんやり考えていた。

 このテンポ感は、ライブが進むにつれ強くなった。いわゆるフェルマータや、奇数拍子感、リズムの揺れが、どんなに振れても違和感を感じない。不思議だ。西洋音楽と何が違うのか。

 

 黒田は体を揺らしながら、柔らかいムードを表す。ソロまわしでなく、互いに音を絡めあう感じ。

 二人の即興は華やかに続く。アルミのコップを持った竹澤が、からからとコップで弦をこすった。

 最後はソファソ、と三つの音をピアノと箏が交換しあう。静かに終わった。

 

 なおライブの構成は第一部が竹澤を前面に出し、第二部で黒田の曲も含め、より二人の音楽性を混ぜ合わせた。

 

 即興の後、2曲目は竹澤が三味線に持ち替える。ピッチがなじまないのか、演奏中も頻繁に調整していた。

 最初は"へちま"。続いて"ねずみ""ざぶとん"と続く。それぞれ詩人の作品へ竹澤が作曲。

 "へちま"は竹澤のお弟子から「現代音楽と伝統性、唄と語りを(素人が)演奏できる作品を」と、ぜいたくな注文を受け作ったという。

 

 三味線を大きな撥ではじきながら、朗々と響く声で竹澤が歌った。低音弦をはじくたび、びいんとサワリが鳴る。そのひしゃげた音が歌ときれいに合った。

 途中の三味線ソロで、激しいグリサンドが幾度も。この辺が現代音楽風かな。

 ちなみに竹澤は和風の譜面、黒田は五線譜で弾いてるように見えた。

 

 "ねずみ"は竹澤が三味線を置き、ピアノ伴奏のみで歌う。

 黒田は音数を絞り、丁寧なフレーズを柔らかく提示した。竹澤の歌もノーマイク。店内へきれいに届いた。

 ぺたんこになったネズミのイメージが、強烈に頭へ残る。

 

 "ざぶとん"は再び三味線を持った歌。渋い味わいが楽しい。この感想はライブ終わってしばらくしてから書いており、細かいところがあいまいだ。

 けれども聴きながらピアノと箏の絡み、箏の奏法、唄いかたなど、さまざまな要素が刺激的だったことは覚えてる。

 

 歌ものでの黒田の演奏がすごい。シンプルな和音を弾く時も、単なる伴奏にとどまらない。

 さりげない装飾音やフレーズが混ざり、歌を高める。インプロとはアプローチが違う、歌ものならではの音楽が楽しかった。

 

 前半最後は落語の語りを竹澤が三味線で。題目は"松山鏡"。和風譜面で8〜9ページくらい。しかもなかなか譜面をめくらない。10分以上にもわたって演奏された。

 基本は竹澤、ときどき黒田が別の登場人物の役目を担い、語りを混ぜた。

 ここでも黒田と竹澤の声質の違いが楽しい。黒田の声はしっとり柔らかいが、それでいて通る。

 二人の声が混ざる妙味は、後半セットでも楽しめた。

 

 さて、松山鏡。ほとんど三味線は弾かず、語りメインの展開。どこまでが譜面だろう。

 竹澤の声は節回しを持ち、演技する場面も音楽的なアプローチがかなり残った。

 日本音楽には詳しくないが、のどをつぶしてガナるって固定観念あった邦楽の印象を、今夜の竹澤の歌いまわしで払拭された。

 途中からピアノも入る。サゲのとたん音がやむ、ずいぶんあっけないエンディングだった。

 

 後半は黒田の曲、"割れた皿"から。竹澤は十七弦をセッティングしなおした。

 こんどは西洋的なアプローチだが、二人のサウンドはぶれない。ピアノのソロが素敵だった。

 ロマンティックなフレーズが次々あふれる。十七弦とあいまり、暖かなグルーヴを生んだ。

 十七弦の低音は音楽に埋もれる。

 撥に籐をまいたもので、弦をぽんぽんと竹澤が叩いたのが、この曲だったろうか。

 長い十七弦の両端を弾いた。

 続いての作品は曲名が分からず。竹澤の歌がのびやかだ。

 

 次の"薔薇の行方"が、二人の溶け合う歌声が聴きものだった。

 輪唱のようにフレーズを歌い継ぐ。二人の声質が異なる一方で、ハーモニーは甘く膨らんだ。

 

 飛び入りのダンサーが加わったのが、続く"耳はむ魚"。観客として来ていたダンサーのために書いた曲、と言ったろうか。

 踊るのはジャワ舞踊かな。ジーンズ姿のラフな服装ながら、指使いや足運びに目を奪われた。

 

 最初はベルを静かに鳴らすダンサー。そっと足元に置いて、ゆっくりと舞いだす。

 あくまでゆっくりと。足は折りたたむように直角に歩を進める。ピアノの前の限られたスペースを、十分に使った。

 常に中腰の力強い姿勢で、指がぴいんと伸びる。本当ならば、布を手に持つのかな。

 つまむような指先のポーズが、上へ下へそっと動いた。

 

 本編はここで終わり。拍手にこたえたアンコールは、前半でカットしたという竹澤の曲、"ひかり"。楽器をセットしなおした。

 きれいなメロディがしとやかに広がった。ピアノとのアンサンブルが、とてもきれいだ。

 

 即興から譜面もの、唄から語りまで。幅広い音楽性をふんだんに披露した。

 味わい深く、温かく寛いだひとときだった。曲が終わるときの、残響が消え去る余韻にしみじみとした。

目次に戻る

表紙に戻る