LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2010/12/2 西荻窪 音や金時
出演:太田+Mama Kin
(太田恵資:vln,etc、Mama Kin:俳句)
久しぶりにこのライブへ行った。今夜のテーマは"冬帝"。ステージの後方に幕、さらに店内横へ紙が一面に貼られる、馴染み深いセット。
しかし今夜、書かれた文字は進化していた。
これまでは俳句を中心に言葉は描かれた。でも今夜は自由律も含まれ、より"文字"を強調した表現だった。
ステージは空白から始まる。BGMが消え、静寂。ステージが静かに照らされる。
たっぷり間を置いて、ステージ奥のドアが開き、Mama
Kinが現れた。
BGMは"サマー・タイム"。アカペラのコーラスから、ちょっと古めかしいジャズのニュアンスを含んだ、ポップス調のアレンジ。
誰の演奏かと思い、あとで伺ったらウォーカー・ブラザーズだそう。
Mama
Kinは佇む。"サマー・タイム"に耳を傾けながら。
おもむろに、太田がステージへ向かった。
Mama
Kinが筆を手に取った。舞台横の壁へ向かう。たっぷりと赤い薄墨を含ませて、紙へ大きく筆を滑らせた。
虎、だろうか。さらに幾本もの曲線を引く。薄墨は白い水の部分を保ちながら、うす赤い広がりを見せた。
一箇所、筆が引っかかったか、紙が僅かに破れる。
太田は赤いエレクトリック・バイオリンを構える。鳴り響く"サマー・タイム"にあわせて、短いフレーズを重ねた。
ディストーションで軋む音が、ワウで変調される。太田は椅子に腰掛けたまま、ワウを手で操作した。弓は小さく動き、フレーズが重なる。
ループで繰り返される。
ひとしきり線を引いたMama Kinは、無言で壁を見つめる。"サマー・タイム"が消え、太田のエレクトリック・ループが広がった。
黒い墨に筆を持ち替えたMama
Kinが、新たに文字を壁紙に書いていく。
太田はアコースティック・バイオリンへ持ち替えて、ループと重ねながら短い旋律を奏でた。
あちこちに立ち位置を変えながら、Mama
Kinが文字を書いた。
槍烏賊、と文字を書いた頃。太田が座っていた丸椅子を脚で引っ掛け、ステージ中央へ弓で動かす。
逆さに転がった。まるで、烏賊を模したように。
太田は弾きながら椅子を弓で操る。けっこう苦労するさまへ、Mama
Kinが面白そうに声をかける。太田が一声、応えた。
Mama Kinが書いた文字を、太田はうっすらと見ているようだ。
ひとしきり椅子と戯れたあと。太田が丸椅子へ突っ伏し「乱暴にしてごめんね」と詫びた。
さらに逆さに立った椅子へ腰掛ける。不安定な姿勢で。
アコースティック・バイオリンを弾きながら、太田は器用に腰掛けたままの姿勢で後ろへ下がっていった。
冒頭のループが復活し、アコースティックの音と混ざる。
Mama
Kinの描く文字は横壁のあちこちに広がる。
太田は再びエレクトリックに持ち替えた。
変奏で現れる、"サマー・タイム"の主題。
太田はMama
Kinの描く文字とリンクするかのように、音符を重ねた。4文字、そして3文字。音楽の符割が文字と重なる。
広がる音が、変奏されながら展開した。
中央の壁に、スライドが映される。エキゾティックな風景や、小物をあしらったもの。
鮮烈なイメージの投影。
Mama
Kinは映された画像の横へ、文字を描く。両端、に。
バイオリンの音が高まった。
二人のパフォーマンスは密接さをみせずとも、微妙に絡んでいる。ソロ回しをするかのごとく、Mama Kinの描画と太田のバイオリンが入れ子構造で高まった。
スライドが中央に映される。
太田が静かにバイオリンを奏でた。
やがて、Mama
Kinがステージの脇へ。糸をひっぱると、ステージ中央にするすると幕が下りてきた。
途中で、つと止まる。
その瞬間、映された映像が宙に浮かぶかのよう。あの瞬間のイメージが強烈に素敵だった。
ステージ中央へ垂れ下がった幕の後ろに、Mama
Kinが立つ。鏡文字で描かれる文字。
太田も立ち上がり、幕の後ろを弾きながら歩く。
ステージ中央に置かれたスポットライトが、幕を眩く照らす。
大きな二人の影絵が交錯した。
そしてMama Kinは文字をゆっくりと描く。ステージ中央に一人で立ったとき、小柄なMama Kinの姿が、実に大きく立ち上った。
最期は鏡文字をスポット・ライトがくっきり照らし、太田の演奏が高まって終了。
ドラマティックな展開にやられた。
約1時間のパフォーマンス。空中に墨の匂いが、うっすらと漂う。
視覚、聴覚、そして嗅覚。空気がさまざまな五感を刺激する。
打ち合わせは何も無い。ところが実に玄妙な空間が、二人のパフォーマンスから現れる。
しっとりとした雰囲気が、素晴らしい夜だった。