LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2010/11/28  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 およそ一年ぶりに明田川の深夜ソロを聴いた。ステージへ向かう明田川の右手にはシップが貼られてる。捻挫したらしい。
 無造作にピアノの前へ座り、ライブが始まった。

<セットリスト>(不完全)
1.?
2.I closed my eyes
3.アケタズ・グロテスク
4.オーヨー百沢
5.Alone together
6.枯葉(?)
7. ?
8.ブラックホール・ダンシング
9.Twilight wave before dark
10.?
11.?

 一年ぶりに聴くステージは、色々と進行やアレンジが変化して新鮮な場面が多かった。
 ちなみに今夜はベルは使わず。内部奏法も、一曲で僅かに使っただけだった。

 一曲目はカバーだろうか。なんとなく聴いたことある、懐かしく切ないメロディ。和音を多用し、ゆっくりと丁寧に旋律を紡ぐ。アドリブ要素は少なめ。
 ペダルを踏みながら、じっくりと一曲を弾いた。

 和音を鳴らす、あっさりしたエンディング。一呼吸置き、次の曲へ。
 イントロはたっぷりじっくり。何コーラスか聴いてるうちに、曲名に気がついた。
 今夜はMCが一切無し。数場面を除いて、メドレー形式で進む。拍手する間もなく、次々に曲が展開した。
 一曲弾くとピアノの譜面台を横から持ち上げ、そのままピアノへ装着する。
 今夜はセットリストを手元におかず、どんどんとライブが進行した。

 着ていたシャツを脱ぎ、Tシャツ姿で次の曲へ。
 (2)はテンポがぐいぐいと変わる。ピアノ・ソロの自由さを最大限に利用し、スインギーに疾走するアドリブ部分が痛快な一方、テーマではぐっとスローになった。

 痛めた右手のせいか、音は訥々と鳴る。鈍く、間を抜いたようなフレーズが次々と。
 強いタッチの音色は、前に聴いたときと印象がずいぶん違った。
 ランニングする左の上で、ごつごつしたアドリブをたっぷりと。
 唸り声は登場しない。
 
 次の(3)が、セットのこの場面で登場は新鮮だった。これもイントロをしばらく聴くまで、曲名がわからなかった。
 一音一音がどことなくぎこちない。しかしそれも、ひとつの味となった。
 ピアノが響く。クラスターが登場した。複数の音が混ざり、一度に打ち鳴らされる。
 アグレッシブに叩きつける指。鍵盤が軋む。

 ほとんどペダルを踏まずに弾きまくったと思う。
 テーマではテンポをグッと落とし、スリリングな演奏だった。

 メドレーで(4)に。このあたりからピアノの鳴りが、独特のしぶとさを持つ明田川のサウンドに変わった。
 一音一音がくっきりと鳴り、ひしゃげた丸い心地よい響き。
 左手のスピードも上がり、アドリブの疾走感が格別。テーマは煌びやかに。
 繊細な旋律が、休まずつぎつぎと放たれた。

 初手からグルーヴィさが炸裂の(5)は、大胆な展開。音はどんどん瑞々しくなる。
 クラスターも無く猛烈なソロが素晴らしかった。
 ほんのり唸りも出たかな。
 テーマが現れては、アドリブの変奏に塗り換わる。

 ここで一呼吸。2本のオカリーナを横のアタッシュケースから取り出し、ピアノの上に置いた。
 腰掛けたまま、まずは低めのオカリーナから。中小のオカリーナをフレーズごとに吹き分ける。
 くっきりしたバロック風味のフレーズから、テーマへ。曲展開はスタンダードの"枯葉"をイメージしたが、この曲だったかは定かでない。

 ピアノによるかすかな残響を持って、オカリーナが店内へ静かに広がる。
 そっと左足で足踏みしながら、明田川は吹いた。
 早いフレーズが滑らかに。この時点で、右手の不自由さはわからなくなっていた。

 ことん、ことん。吹きかえるたびに、ピアノの上へオカリーナを軽い音を立てて置く。
 持ち替えはスムーズに。ピアノやその他の楽器によるバッキングは無しだが、ビート感は常に保たれた。

 たっぷりとオカリーナを吹いたあと、楽器を足元へ置く。
 再びピアノへ。同じ曲の続きかな、と一瞬思ったが。違う曲に移っていた。
 この曲は聴いたことあるような気もするが、タイトルが頭に浮かばず。
 センチメンタルな旋律がきれいだった。

 今夜のステージはダイナミックなメリハリが、頻繁に訪れる。このまま怒涛のロマンティズムへ向かうかと思いきや、アップテンポの(8)に変わった。
 唸り声を僅かに響かせつつ、力強い鍵盤の鳴りに。

 中間部で同じ音を執拗に叩くアレンジが新鮮で、カッコよかった。
 疾走する一方、その速いテンポでテーマの直後に、同じ音を鳴らし続ける。
 タイトで純粋な響きを生み出し、すぐさまアドリブの嵐へ。
 クラスターもどんどんと。すっと立ち上がって一回だけ鍵盤へ座り込んだのも、このときだったろうか。

 今夜、とりわけ胸に響いたのが次の(9)だった。あとで伺うと、最近作った曲だそう。まだ、CDでは発表されていない。
 曰く"死"をイメージ。心にストレスを覚えている時この曲を弾いたら、ひときわ響くそうだ。

 繊細なフレーズが上下し、静かに展開する。テンポはバラードより心持ち速めくらい。
 どっぷりと熱っぽいアドリブ、そして繰り返されるテーマ。
 素晴らしかった。

 しかしステージはまだ終わらない。続く2曲も、聴き覚えあるような気もするが、タイトルはわからず。
 (10)は切ないメロディ、(11)は前のめりだった記憶。
 (10)で情感を盛りたてて、(11)だとクラスターも登場した。合間に"ジングルベル"をコミカルに挿入するところも。

 最期はクラスター大会じゃなく、"ジングルベル"をさらっとはさみ、和音をぽんっと鳴らして終わった。
 ぱっと顔を上げて「終わりです」と、にっこり。

 70分ほどのライブ。どこまで意識してるか不明だが、今夜のライブは特にドラマティックな展開が、ステージを通して聴けた。
 冒頭と終盤で、明らかにピアノの響きが違う。加速し、盛り上がる。
 そんな時間の流れを存分に味わえた、すごいライブだった。

 明田川はステージを丸ごとCD化した盤も何枚かある。機会あれば、今夜のステージもぜひ、CD化して欲しい。時間の凝縮を見せ付けた、味わい深い演奏だった。
 といいつつ、新曲の(9)は既に良い録音テイクがあるそう。それも早く聴いてみたいが・・・。アケタズ・ディスクで配信発売で、もっともっといっぱい音源でないかな。
 今日も新譜2枚を入手してるのに、さらに他も聴きたくなった。

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