LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2010/8/13  新宿 Pit-inn

   〜梅津和時“夏のぶりぶり”〜
出演:新大久保ジェントルメン
(梅津和時:ss,as,cl,b-cl,etc.、清水一登:p,key,b-cl,vo、太田恵資:vln,etc.
  四家卯大:vc,as,etc.、佐藤正治:per,etc.)

 久しぶりに行ったライブは第三次の新大久保ジェントルメン。昨年にイゴール、グレート金時、アブドゥール・ワハハの全員が脱退(?)し、今回のメンバーへ移動。
 第二次の奔放な即興から、多彩な楽曲を演奏するバンドへ見事に変貌していた。
 楽器が色々並ぶが、梅津は基本的に吹奏楽器のみ。パーカッションなどは演奏せず。

 メンバー紹介から演奏が始まったのは、"グルグル"って曲だろうか。
 梅津はクラリネットをまず演奏。クレツマー的なフレーズが賑やかに始まる。ソロ回しではなく、太田とのバイオリンでデュオ状態のフレーズを絡み合わせ、ぐいぐいと進んだ。
 清水のピアノがタイトに刻み、四家の太いチェロと佐藤のパーカッションがしっかりと支える。時にポリリズミックなリズムの応酬は、ミニマルなビートを作った。
 清水はキーボードも折にふれ混ぜた。
 滑らかなクラリネットのソロから、梅津はバスクラへ持ちかえる。
 ときにクラリネットのベルだけを取り出し吹くなど、トリッキーな奏法も。

 しっかり一曲を終わらせた後、梅津が「このバンドが誇る木管アンサンブルを」と紹介した。
 清水がバスクラ、四家がアルト・サックス。梅津はソプラノだったかな。
 静かなフリーから抽象的なインプロへ。太田が抜群のタイミングで、音を重ねた。

 硬質な即興がしばし続き、佐藤の曲に移る。曲名は失念。きれいなメロディだった。
 今度はじっくりと各人のソロを聴かす。梅津がアルト・サックスに持ち替え、鮮やかなブロウをぶち込んだ。
 太田もメロディックなソロを展開。四家や清水のソロもたっぷりと。
 梅津は次々に楽器を持ちかえる。アルトをじっくり聴きたくなるほど。
 佐藤のボウル披露もここだったろうか。
 太田はメガホンで静かに声を重ねた。

 1stセット最期は、"13日の金曜日"。これが曲名だろうか。
 全員がボイス中心。全員が楽譜をしっかり見ながら演奏する。アカペラ・アンサンブルで、各人が短いフレーズをループさせる。
 細切れで、コミカルに。ズビズバ的な面白さがあった。

 おもむろに太田ものっぺりしたボイス・フレーズで加わる。
 ときどき、何人もが噴出しながら。淡々なパートをミニマルに組み立てた。
 爆笑しながらフレーズを重ねてた太田が、ついに噴出して「13日の金曜日!決して一人で聴いてはいけない・・」とシャウト。
 このアレンジは第二次のライブを彷彿とさせた。

 ここで休憩、45分くらいの短めなセット。
 さくっと始まった後半は、四家の"プロトン"を。梅津はソプラノ、クラ、バスクラと次々に持ちかえる。
 爽やかな旋律を佐藤のビートでかき混ぜ、四家や太田のソロもいっぱい。

 おそらく梅津の曲、"いつだっていいかげん"が続いて演奏。テーマ部分では梅津がサックスを吹きながら脚を烈しくバタバタさせ、太田も片足浮かせてバイオリンを弾く。
 ちなみに太田はエレクトリックとアコースティックを曲によって使い分ける。1stセットなどで、ほんのりとエフェクターをかませたが、ループなど派手な使いはせず。
 アンサンブル重視のアプローチだった。

 今夜の演奏は各楽器のからみが面白い。基本は梅津と太田がぐいぐい押し、ほかのメンバーのタイトなビート感と混ざる。
 それでいて、すぱっと場面が小気味良く切り替わった。

 "いつだっていいかげん"は中盤で即興に。太田の独奏へいきなり変化した。
 マイクに向かってバイオリンとユニゾンで歌ったり、唸ったり。
 "太田の子守唄"も登場し、このまま"オータのトルコ"へ雪崩れるかな、と思ったら。

「え〜・・・このあとの展開は梅津さんから聴いてません」
 ぼやきながら独奏を続ける太田。いきなり黒田節をうなり、清水らが音を重ねる。
 ステージ中央に立った梅津は、アルトを槍に見立て、黒田節にあわせ踊り始めた。

 梅津のキューでテーマへ。やたら高速テンポで入ってとっちらかる。改めてブレイク入れ、やり直すさまが可笑しかった。
 
 続いて"ベルファスト"。定番曲がきっちり聴けて嬉しい。
 ピアノにしっかり支えられたテーマが、野太いチェロも加わって骨太さを増した。
 黒田京子トリオで聴いたアンサンブルとはまた違う、肉厚な感触。
 
 このままロマンティックに進むかと思いきや。中盤のアドリブでテンポアップし、混沌な即興へ。
 やがて梅津が細い縦笛を奏でた。今夜の新曲だという。
 叙情的な旋律が、なんだか意外。幾度もテーマを丁寧に吹いた。バイオリンが絡んでゆく。

 じっくりとMCタイム。順番に近々のライブを紹介してく。
 ヒカシューがらみのイベントが多く、梅津が「ヒカシューの回し者か?!」と大笑い。
 梅津の番では名古屋でやる"プチ大仕事"の特別ゲストも紹介しかけ、客席のスタッフからストップがかかる。わかる人にはわかる紹介にとどめた。
 しかし今夜あたりに決まったような口ぶりだったが・・・チラシには"特別ゲスト"って書いてあるのに、ぎりぎりまで決まってないものなのかな。

 2ndセット最期の曲は、これまた新大久保ジェントルメンでは定番な"オータのトルコ"。
 最初に独奏で力強いソロをたっぷり聴かせ、太田のハンドキューで歌に。
 歌詞の語尾で"ッチッチッ"って切る、小気味よさが印象に残った。

 中盤で各人のソロを聴かせながら。梅津がトラボルタ風に手を上げたあたりで、思い切り第二次風に突き進んだ。
 清水がいきなりピアノで"ステイン・アライブ""ダンシング・クイーン"を弾き語り。
 佐藤は"ハッスル"で応え、大笑いしながら梅津が「ジンギスカン!」とシャウト。
「フライデー・ナイト・フィーバー!」
 と、太田が盛り上げた。
 コーダはやけにあっさりな感じ。サクッと終わった。

 アンコールの拍手で出てきたメンバー。梅津が「では、ボーカルの清水を紹介します」と一言。
 清水の曲かな?確か"愛の歌腰砕け"と紹介した。
 ハワイアン風の滑らかなムード。大真面目ながら、どこかズレた清水のボーカルに、妙に不協和音な梅津や太田のハーモニーが加わる。

 脱力気分で愉快な雰囲気の曲。アンコールでも、奇妙な盛り上がりを魅せるあたり、新大久保ジェントルメンらしいっちゃ、らしい。

 後半は1時間強。前述の通り第三次となり、アプローチはがらり変えた。
 梅津の多彩な音楽性や、木管楽器を操るさまを楽しめるアンサンブル。むしろアルトの咆哮をもっともっと聴きたいくらい。そのぶん、梅津のクラリネットは存分に味わえた。
 この5人編成で、まだ続くのが嬉しい。次のライブも楽しみ。

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