LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/9/26 西荻窪 アケタの店
出演:吉田隆一ソロ
(吉田隆一:bs、飛び入り:小山彰太:per)
ソロ名義のライブは、時としてものすごくスリリング。ステージをどのように構成し、どんな音楽を奏でるのか。
荻窪グッドマンのスケジュールで、吉田隆一がソロをやってたのは以前に見かけていた。
アケタの店、深夜の部でソロは初めてだという。
フリーキーなフレーズから情感溢れるフレーズ、さまざまなバンドでのプレイを続ける吉田が、ソロではどんな音楽をやるのか楽しみに行った。
せっかくだから、と録音機材も持ち込む。残念ながらソフトの設定か何かで、上手く録音できなかったかもしれないそう。
演奏はバリサク一本を持ち込み、全て即興演奏となった。
ちなみに小山彰太が遊びに来ており、一曲でセッションもあり。アケタの店で10/4ライブの前哨戦みたいだな、と思ってた。
丁寧にサウンド・チェックをしていた吉田がバリサクを構え、客電が落ちた。
まずひとつながりのシンプルなフレーズを吹く。その変奏が始まった。アクセント、タイミング、符割、音数。さまざまな要素を変えながら、野太くバリサクが鳴る。
初めてアケタの店で、ルーム・エコーをしみじみ感じた。ぶぉん、と残響がごくわずかに残る。
ギミック無し、きれいな音色のサックスが音を膨らますたび、店中の空気が野太く揺れた。
変奏は続く。ロジカルさを漂わせつつ。吉田は身体を大きく揺らし、膝も曲げながら吹いた。ベルは左右に振らず、真っ直ぐに。テーマが現れては消え、派生してゆく。
5分くらいの演奏か。
今夜はどの曲も同じくらいの時間で、短い即興を重ねた。長尺、たとえば20分くらい吹きっぱなしの場面は無し。小山とのセッションが一番長い演奏時間だった。
それぞれの即興で曲のスタイルや奏法を明確に変えた。ひとつの物語性で即興を展開よりは、奏法やアイディアをくっきり設定して演奏を進めるかのよう。
2曲目はテンポが上がった。小刻みな三連符を続け、時にフリーキーな響きにも到達。
中盤から循環呼吸で長いフレーズを続けた。波打つように三連符が繰り出され、止まない。ときおり音列が変わり、甲高い響きも混ざる。トランス的なアプローチも感じた。
ぐるぐると音楽は回り、進行した。
続いてさらにテンポ・アップ。アグレッシブな吹きまくり。叫びながら音を出す場面もここだったか。
激しく音が繰り出され、畳み込む。聴いていてくっきりと4拍子を感じた。途中、ブレイクがあってもテンポ感は崩れない。
サックスを唸らせ、吼えたてる。けれども倍音の連発にはならない。通常のバリサクの音程を踏まえ、しゃにむに疾走する。かっこいい即興だった。
4曲目はいきなりジャズ色が強まる。きれいなメロディを提示し、さらにアドリブで膨らませた。テンポはミドルだったと思う。
確かこの曲で、リズムがよくわからなかった。ここまではときおり奇数拍子っぽくリズムを崩すことがあっても、ある一定のテンポ感は残っていた。
でもこの曲はころころ拍子が変わるような印象を受けた。アクセントをぼくが聴き取れていなかったからか。
それでもグルーヴィさは漂い続ける。バリサク一本の演奏なのに、まるでコンボ編成のように感じた。
前半最後もジャズ色の強いアプローチ。これもグルーヴィだったと思う。拍子をノービートに、フラジオを連発してサックスを軋ませたのも、この曲だったろうか。4曲目と5曲目は、記憶がごっちゃになっている。
バリサクを振り回し、大きく膝を曲げて、上下に身体を揺らしながら吉田は吹き続ける。歩き回らず、立ち位置はそのままで。肩を入れたり抜いたり、さまざまなポーズをひっきりなしに取りながら。
5曲目が激しかったので、いったん休憩。ここまでで40分くらい。
6曲目は1曲目と似て、冒頭に提示したフレーズに変奏を加えてゆく。フリーク・トーンは無し。
1曲目にバロックを感じたとしたら、6曲目はミニマル。よりロジカルさとフレーズの変奏による整った音像の空気を演出した。
「それじゃ、触らせてもらおうかな」
休憩時間に誘ってた吉田に応え、曲間ですっと小山が立ち上がりステージへ向かった。
ドラム・セットに座ったが、深夜のライブなため叩かない。左手の各指に金属の指貫を装着し、首からさげた鉄板を軽くはじく。
右手はフロアタムを平手でそっと鳴らした。ほんの数音だけタムを叩いたが、全てフロア・タムの演奏だった。
吉田はここで左右にサックスを振るアクションを。ベルの向く位置でステレオ感が生まれて楽しい。
静かにセッションは始まった。小山のムードに合わせたか、吉田はロングトーン中心の音作り。小山はマイペースでカチカチと鉄板をはじきつつ、フロア・タムを指で鳴らした。
バリサクが大きな符割で音を組み立てる中、パーカッションは淡々と刻む。いや、刻むように最初は聴こえなかった。ランダムにはじいてるかのよう。
見ていたら次第に、小山が演奏へ没入してくのがわかった。頭を軽く垂れて、静かなムードのままリズムに入っていく。
吉田はロングトーンと静かなフレーズ。けれども小山のビート感とはずらしたまま。
小山のビートが3拍子、吉田が4拍子かな。なんだかポリリズミックな展開だった。
バリサクのソロが盛り上がり、いったんエンディングを匂わせる雰囲気に。けれども小山は叩き続けるのをやめない。
吉田はそのままいったん着地し、小山のソロとなった。すると3拍子な響きが空気を支配する。
左指で淡々と鉄板をはじきながら、小山は横からマレットを一本取り出した。柄の先を使って、フロアタムの中央へ軽く落とす。リム・ショットやボディ叩きまで、自分の世界を小山は作った。ときにマレットの柄で、首から提げた鉄板を叩く。
ソロめいた派手さは無い。けれども単なる反復でもない。右手のマレットをリズムのアクセントに、静かなソロを小山はたっぷりと繰り広げた。
体感的に5分近く小山はソロで叩いてた。吉田がバリサクを構え直し、最初はスローに。やがてテンポアップしてメロディックな符割で吹き始める。後半はあまりポリリズミックなちぐはぐさはない。より密着したアンサンブルになった。
高まったところで、今度は二人で着地。この曲だけで15分くらい、の演奏じゃないかな。
吉田の無伴奏ソロに戻った。猛烈な吹きまくりで疾走。3曲目と似た切り口だが、今度はビート感覚が薄い。しゃにむにテンションを上げてバリサクを響かせた。
バリサクを大きく振り回す。時にかがみこんで吹いた。叫びながら軋ませる奏法もひんぱんに。
メロディはひとつながりの流れで鳴り、休み無く音が連なる。今夜でもっとも、フリーな演奏だった。ロジカルさを廃し、感情の趣くまま入っていく。
ぱっと音が止まり、ここで終演。後半セットは30分くらい。
吉田のソロ・アルバムとも違う、ストイックな雰囲気。即興ながら、フレーズの垂れ流しには陥らない。生まれたメロディを丁寧に膨らませてゆく。
感情一発で、ぎりぎりと空気を追い詰める性急さも無い。最期の曲を除いて、どこか自分を冷静に分析する視点も感じた。
どんな方向性を、これから追求するんだろう。
ずばんと野太くきれいに鳴ったときの、バリサクの響きは単純に気持ちいい。シンプルに音色を楽しみつつ、音を聴きながら色々考える興味深いライブだった。