LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/9/23 西荻窪 音や金時
出演:ル・クラブ・バシュラフ
(松田嘉子:ウード、竹間ジュン:ナイ,レク、やぎちさと;ダルブッカ)
コンスタントにライブを重ねるル・クラブ・バシュラフ。今度はバーレーン公演を控えているそう。ぼくは去年の1月ぶりにライブを聴いた。
今夜は全てアラブの伝統曲を演奏した。エジプト、チュニジア、トルコなどの曲を。演奏前に松田嘉子が丁寧に曲紹介をするけれど、ぼくの基礎知識不足で記憶に残らず。セットリストは割愛させてください。
前半4曲、後半5曲を演奏した。するすると曲を奏でる。今回、改めて一曲が組曲のようになってると実感した。
最初の曲は冒頭が4拍子、中間が3拍子かな。いつまでも続きそうな滑らかなメロディが、すっと区切りついて場面が変わる。やぎちさとのダルブッカで、なんとなく拍子を頭に浮かべながら聴いていた。
2曲目の冒頭に松田のタクスィーム。店の壁のあたりで、コツコツとノイズが入る。奏者も一瞬、演奏しながら壁へ視線を投げた。お彼岸だからね。そんなこともあるか。のんきに構え、音楽へ耳を傾けていた。
途中でスタッフが店の外へ出て、戻ってきたら音が消えた。手をひらひら動かす仕草をちょっと。鳥でもいたのかな。
3曲目の頭で、こんどは竹間ジュンのタクスィーム。じっくりと長尺の即興を展開した。
ウードがかすかに、単音でリズムを取った。やぎはダルブッカを膝に乗せたポーズで、耳を傾けた。
今夜の竹間は後半の1曲を除き、一本のナイを吹く。休憩時間にちょっと伺ったところ、最近はあまり持ちかえをされていないそう。
どの曲も着実にメロディが紡がれた。
「次で前半最後の曲です」
松田のMCに驚く。まだ20分くらいしか演奏してないのに・・・と思ったら。続く曲が30分近くの長尺だった。
これが素晴らしく聴きもの。ずぶずぶと音楽へのめりこめた。
中盤でナイのタクスィームをたっぷりと。竹間は短いフレーズを重ねながら、どんどんと演奏が深まる。
顎でビブラートをつける奏法は、なんとなく控えめな気が。真っ直ぐな音色をぱあんと伸ばし、折々にさりげなくビブラートが入る。
長いナイの指穴を、右手で撫でるようにフルフルと押さえるさまが印象に残った。途中では、複数の指穴を同時に中開きっぽく押さえ、重音からフレーズを展開するときも。
奔放に旋律を操るよりも、ひとつのフレーズを変奏させ、さらに新たなフレーズに変容させていく。幾度かミニマルに吹くメロディが、ぐいぐいと力強く形を変えていく。
と思うと、するりと違う旋律が現れ、鮮やかに音風景を変えた。
クライマックスへ向け高まるだけではなく、タクスィームの中で起伏が大小に現れる。 複雑な展開が心地よかった。
ブルージーなウードのタクスィームへ。2曲目では短かったけれど、ここでは存分にウードも即興を広げた。
熱っぽくフレーズが高まり、強く弦がはじかれる。アラビックな旋律で、力のこもったメロディが噴出した。
竹間はレクに持ち替え、やぎとリズム打ちに回る。タクスィームの音列と絡みながら、ダイナミクスが持ち上がっては沈む。流れを作った。
やぎのソロへ。ちなみにダルブッカの即興はこのパーカッション・デュオのときのみ。あとは全て、静かにリズムを刻むのみ。アラブの伝統音楽では、ダルブッカのタクスィームって概念はないのかな。
やぎの指先が軽快にダルブッカを鳴らす。アクセントの位置を次々に変え、一定のテンポの中で多彩なパターンを提示した。
ときおり竹間の打つパターンも微妙に変わる。
竹間のレクによるソロもあり。ダルブッカが基本ビートに変わる。
左手の力をふっと抜き、落ちる勢いでパシンと鳴らす仕草が印象に残った。
再びテーマへ戻ってクライマックス。エンディングが主要な旋律の流れとがらっと変わる唐突さで、いきなり現れるのが興味深い。
前述のように30分近い長尺。活き活きした演奏が素晴らしかった。
短い休憩を挟んで後半は、まずタクスィーム無しで一曲やったろうか。
"バシュラフ"形式は2曲目だったろうか。松田がMCの途中で、ふとやぎに「何拍子だっけ?」と、拍子を尋ねる。28拍子、と応えた。これがちょっと意外で面白かった。メロディ楽器は拍子をあまり意識してないのかな。
冒頭に松田は竹間と軽く相談し、タクスィームを。この構成も、その場で決めていたのかもしれない。
"バシュラフ"形式は、あまり展開がないらしい。淡々とたゆたうフレーズが心地よい。
28拍子ってどんなのだろう、とダルブッカを頼りに拍子を追うが、どうもフレーズの頭がわからない。もしシンコペーションしてるなら、お手上げ。なんとなく拍の頭がわかりそうでも、拍子の規則性までわからなかった。
曲そのものは優雅で楽しい。ふわっとメロディが動いてゆく。ユニゾンするウードとナイの響きがきれいだった。
3曲目、4曲目でウードやナイのタクスィームを冒頭に置く。後半のウードはメロディの起伏がダイナミックだった。ときおり速弾きも現れながら、きっちりと一つ一つの音を紡いでゆく。
ナイのソロも聴きもの。小ぶりのナイに持ち替えたソロも。
後半では倍音を使ったフレーズの飛躍がスリリングだった。前半のタクスィームでは滑らかにメロディを奏でたが、後半は強いブレスで、甲高い重音的な響きが頻出する。
低音のフレーズから強い倍音をきっかけに、さりげなくオクターブ飛んで大胆に音世界が変わる。
前半セットのタクスィームが太いロープのようなイメージだとしたら、後半セットでは網目のような多彩さを見せた。
4曲目で再びパーカッションのデュオ。レクに竹間が持ち替え、ダルブッカと掛け合いを。
途中にウードのタクスィームを挟む。ちょっと短めにパーカッション・デュオが終わった。
後半最期が"Longa
Farahfaz"。アラブの曲でぼくがメロディを覚えてる、数少ない曲。ちょうど聴きたいな、と思ってたので演奏してくれて嬉しかった。
高速でフレーズが流れて加速してゆく。ユニゾンでメロディが翔けた。
ライブが進むにつれて熱っぽさがどんどん増す。温かい演奏だった。アカデミックな要素を踏まえつつ、タクスィームもたっぷり。とても気持ちよかった。
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