LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/9/21   入谷 なってるハウス

出演:川下直広トリオ
(川下直広:ts、不破大輔:b、岡村太:ds)

 活発にライブ活動を続けてる彼ら。記録を辿ったら、ぼくは昨年12月ぶりに聴く。うわ、ずいぶんあいだが開いちゃったな。

 今夜はなってるハウスでの定期ライブ。無造作に三人がステージにあがる。
 不破大輔が念入りに、一曲ごとにチューニングしてた。くわえタバコでチューナーを見ながらセット。コントラバスはアンプで増幅した。
 いつものようにチューブからクリームを搾り出し、いったんコントラバスのソフトケースにのっけたあと、指板の後ろへ塗る。そんな無造作な仕草がかっこよかった。

 川下直弘はテナーを久しぶりに磨いたそう。もっとも全体の印象はあんまり変わらず・・・どのへんを磨いたのかな。今夜もテナー一本のみの演奏。
 岡村太は1タム1スネアのシンプルなセットで、シンバルが2枚。バスドラはフロアタムみたいに小口径だった。

 曲目は良くわからず、セットリストは割愛させてください。ちなみに1stセットは最初がファラオ・サンダーズの曲だそう。そして"ファニー・ライフ"、"ヴィエンナ"と続いた。
 後述するが2ndセットでは譜面台を用意された。

 不破のチューニングを見ながら川下がテナーを構える。いきなり無伴奏で短く鋭いフレーズが、甲高くテナーから出る。そのままドラムとベースが加わり、一気に疾走した。
 いきなり轟音のフリー・ジャズ。川下は身体を大きく上下に揺すりながら、サックスを吹き鳴らす。
 初手から、そして今夜唯一の、熱くハイテンポな瞬間だった。
 
 岡村が激しく打ち続ける音量で、川下のサックスがマスクされるほど。ベースはきっちり聴こえてた。
 フラジオっぽい高音を、テナーを軋ませつつ吹いてゆく。ひとつながりのフレーズを一気に吹いては素早くブレス。休み無くサックスのソロがばら撒かれた。

 いっぽうで不破や岡村もすんなりバッキングしてるだけじゃない。ウッドベースは性急にグルーヴィなフレーズをばら撒く。右足で激しくリズムを取りながら。
 シンプルなリフのみならず、低音から高音まで、一気に飛ぶ。低音をひときわ身軽に、不破は操った。

 岡村に到ってはリズムを刻む行為が、ほぼ無し。この曲だけじゃなく、今夜のステージを通して。奔放に叩きのめすスティック・ワークはもちろんビートをかっちり提示するけれど、いわゆる刻みとは別アプローチ。見ていて、めちゃくちゃ面白かった。

 1stセット1曲目では、ライド・シンバルの扱いが素敵だった。左足が動いても、ハイハットはびくともせず。叩きもしない。
 もっぱらライド・シンバルを軽やかに叩き、響かせず。クラッシュとの使い分けが巧みだった。
 バスドラは後半セットで耳に残ったが、前半は腕のアクションのほうに興味が行っていた。

 川下のソロが終わったとたん、ドラムのソロに。不破も手をとめて耳を傾ける。
 シンプルなタム回しと連打の組合せ。前のめりにリズムが加速する。いっぽうのスティックをフロアタムに押し付け、もう一本のスティックを叩きつけながら、音程をベンドさせる。
 左手で軽快にスネアを叩く一方、右手で激しいジャングル・ビートを。長尺のソロはひたすらアグレッシブで、熱かった。

 袖に座ってた川下が立ち上がり、すぱっと切り込む。さらにサックスのソロが続き、幾度もテーマが繰り返された。

 今夜のステージは続く2曲目からあと、猛烈なハイテンションは控えた。アップテンポがあっても、じっくり聴かせた印象あり。
 途中で岡村はブラシを使ったかな。クラッシュシンバルのエッジにブラシを突っ込み、上下に揺すって静かな音を鳴らした。
 
 中盤のドラム・ソロでは岡村がしゃにむにハイハットを踏むそぶりの一方で、ぴくりともハイハットを開けず。きしきしとパイプが軋む音のみ。
 それをみて不破がにやりと笑い、高音ポジションのベースで軋む音を模した。岡村が微笑みながらハイハットを開き、叩きながら二人のソロに向かった。
 
 3曲目は渋く。フリーなイントロから、おもむろにテーマへ。
 サックスのソロでは1曲目の軋みを多用した高音フレーズとは一転して、じっくりと旋律を操った。
 ベースのソロだと、高速フレーズを一気にばら撒く。アンサンブルは濃厚に膨らみ、盛り上がった。

 後半セットは譜面台を川下が用意する。このトリオのライブを何回か見てきたが、初めての光景な気もした。
 くしゃっと端が丸まった譜面を、川下は不破に手渡す。自らの譜面台にも乗せた。なお、岡村は譜面無し。
 サックスが先陣を切って奏でたメロディは、温かいジャズ。スタンダードかな、オリジナルかな。

 線の細い音色でメロディを紡ぎ、ソロではサックスが深みを増す。岡村はブラシを使った。もっとも叩きっぷりは、途中でスティックとほとんど変わらない。
 最初はゆったり始まったサックスも、ソロの途中でテンポを前のめりに。いきおいドラムも疾走を始める。ブラシでスネアやタムを強打し、持ち手のエッジでドラムを叩く。

 不破は豊かにウッドベースを鳴らした。後半セットの音は特に、良く聴こえた。
 唸りながら弦を強烈にはじき倒すフレーズは出なかったが、粘っこく強靭なグルーヴがいっぱい。
 今夜は左手が上下を忙しく動いて、音楽を組み立てる。ばしんっと左手で弦をはじくようなそぶりが勇ましい。さりげなくきゅっと左手をずらして音程を変え、さらに同じパターンをぐいぐいハイポジションに音程あげて迫る。
 
 不破の完全ソロでは、ふっと立ち止まるそぶり。川下の滑らかなソロから引き継いだ瞬間、ふっと音を止める。すかさず高音をそっとはじき、メロディアスなベースのソロに向かった。
 岡村が静かにハイハットでバッキングをする。

 後半2曲目は耳馴染みある曲。譜面台を立てたまま、演奏に突入した。
 ドラム・ソロがたっぷりあったのは、この曲だったかな。スティックに持ち替えた岡村は、リム・ショットをたっぷり繰り出す。
 右手にスティック、左手にブラシ。フロア・タムにブラシを乗せたまま、叩き続けた。 リム・ショット中心のドラミングはシャープな印象。軽快な音色で、リズムを粘っこく叩いた。

 3曲目へ入る前、川下が譜面を交換する。これもあまり聴いたことない。
 不破はほとんど譜面を見ずに演奏してたみたい。
 サックスのアドリブは、ハイトーンが再び放出された。
 ここでもドラムとベースのソロを。不破のメロディアスなアドリブがいっぱい聴けた。
 エンディングはサックスを振り上げ、すぱっと。軽くスネアが一音、鳴る。
 そのまま無造作に、ライブは幕を下ろした。

 どんなテンポでも、このアンサンブルはがっつり熱い。身体をゆすりながら搾り出すサックス、奔放にリズムと遊ぶドラム、グルーヴを猛然戸吹き出すベース。
 三人の演奏は常にフリーでありつつ、曲を生かしてる。改めて、三人の織り成すアンサンブルの素敵さを実感した。

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