LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/9/12   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之;p,オカリーナ)

 深夜の月例ライブ。なんだかんだで行きそびれ、今年の5月ぶりに聴く。明田川荘之の新譜、"メニーナ・モッサ"が発売可能になっており、さっそく購入した。
 ライブは0時15分頃、静かに始まった。コーヒーカップを片手に、明田川がピアノへ向かう。

 足元に置いたベルとタンバリンを横にずらし、ベースアンプの上へ置いてたオカリーナ入りのハードケースを足元に。一個のオカリナを構え、無造作に吹き始めた。
 切々と流れるメロディは、"りんご追分"。フレーズが崩され、違うオカリーナに持ちかえる。
 アドリブのフレーズは、さらに深まった。

<セット・リスト>
1.リンゴ追分
2.津軽の故郷
3.外はいい天気
4.ジャズ・ライフ
5.バッハ・アケタ・現代
6.城ヶ島の雨
7.杏林にて
8.セント・トーマス
9.アフリカンドリーム〜ブラックホール・ダンシング〜マライカ

 オカリーナをしばし吹いて、ピアノへ。"津軽の故郷"に繋がる。センチメンタルなメロディをしなやかに弾いて、即興へ突入した。ざらり、と内部奏法でピアノ線を鳴らして。
 ほぼメドレー式に、曲はオリジナルの"外はいい天気"へ。
 すとんすとん、と軽やかなムード。片足でリズムを軽く踏みながら、ピアノを鳴らす。 キュートな雰囲気でテーマが繰り返された。すっとブレイク、再開。もうひとつのテーマでは、テンポが半分に落ちて切なくメロディが広がる。
 テンポにあわせて身体を揺らしながら、聴いていた。

 コンパクトな魅力に仕上げた"外はいい天気"だったが、ソロでは次第に熱がこもる。テンポ感覚はテーマを踏まえつつも、フレーズは力強く振り回す。ついにクラスターも。
 最期のほうはフリーなパターンをたっぷり織り込んだ。
 ここは、かなり長尺の演奏。

 拍手の中、すぐに次の曲へ。"ジャズ・ライフ"だったそう。
 耳馴染みあるメロディだが聴いているときはタイトルがわからず、後で教えて頂いた。
 今夜の演奏はくっきりとメロディを生かしつつ、全体はひとつながりのように流れを作っていた。ここ最近の月例ライブではセットリストのメモを置くことがあったが、今夜はメモを見ていたそぶり無し。
 きっかけから次の曲へ、するするとライブは滑らかに進んだ。

 続いてはオカリーナのソロ。くっきりと旋律が上下する、バロック調の曲。ここでも途中で大きなオカリーナへ持ち替えた。メロディはどんどん加速する。深夜ライブでは何度か聴いた記憶がある。
 オカリーナを置いて、ピアノに向かう。改めて炸裂するマイナー調の曲。これもカバーで"城ヶ島の雨"だそう。
 
 ピアノから流れるソロを耳で追ってたら、途中でふっと変わった。イントロだけだと曲がわからず。おもむろにテーマが出た。"杏林にて"。高音の鍵盤が、きゃらきゃらと鳴らされる。
 ピアノ線を爪弾き、低音を平手打ちの内部奏法も。

 中盤の芯がこの曲。さらっと次々に曲が現れるイメージだったが、"杏林にて"はたっぷりと演奏へ没入した。
 即興がどんどん続き、テーマが幾度も表れる。鮮烈な雰囲気と情感の揺らぎが交互に現れる素敵な演奏だった。

 再びオカリーナへ。ちょっとイントロを吹いたあと、"セント・トーマス"のフレーズが現れる。すぐさま即興に入り、途中で持ち替えた複音が出るオカリーナで、ふわりと締めた。
 
 ピアノは"アフリカン・ドリーム"。足元のベルは使わず、ピアノだけで演奏した。
 ゆったりと膨らむメロディ、やがて即興へ。明田川のテンションが、ぐいぐいと上がっていく。
 今夜のアレンジは雄大さを強調した風に感じた。テーマがフェイクされ、幾度も表れる。即興は果てしなく、熱っぽく盛り上がる。
 スケール大きなソロの合間に、ひじ打ちが登場。即興はメロディアスなまま。

 しかしそれがきっかけで、じわじわと演奏はクラスター寄りに換わっていった。
 ひじ打ち、手のひら。和音感覚は残しつつ、明田川独特のメロディアスなクラスターが、幾度も打ち鳴らされた。
 テンポが見る見る上がっていく。明田川は身体を大きく揺らしながら両ひじを、幾度も鍵盤に叩きつけた。

 混沌なクラスターの連打。やがて曲調がするっと変わり、"ブラックホール・ダンシング"に突入。
 けれどもテーマをさらり弾いたところで、この世界は終わった。

 穏やかで心落ち着くメロディ、"マライカ"がゆったりと。唐突に混沌とスピードと炸裂が拭い去られ、しっとりした風景に変わった。
 "マライカ"がクロージング・テーマ。しっとりと終わった。

 指をひねった、と呟きながら明田川がステージから降りる。約1時間の演奏。
 流れが途切れない。ときおりふっと、馴染みの薄いテーマのフェイクが飛び出す。
 明田川の独特な音楽の色合いがじわっと滲み、音像へ没入して聴いていた。味わい深いライブだった。

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