LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/9/8  大泉学園 in-"F"

出演:太田+Nicholson+田中
 (太田惠資:vln,Todd Nicholson:b,田中徳崇:ds)

 このトリオのセッションは今年の6月ぶりに聴く。太田惠資はエレクトリック二挺とアコースティック1挺、メガホンも準備。実際はエレクトリックがメインの演奏だった。
 トッド・ニコルソンはウッドベースのみ。田中徳崇は1タム1スネアのシンプルなセットで、フロア・タムの上にカウベルを置く。マレットやブラシのほかに、菜ばしみたいな細いスティックも置いてあったが、これは使わなかった。
 太田の入念なチューニングがすんで、おもむろにライブが幕を開けた。

<セットリスト>
1.Dream(Something)?
2.即興#1
3.Oriental Shuffle
(休憩)
4.サンソン(?)
5.即興#2
6.Masarascope

 6月のライブと基本的に同じレパートリーを踏襲し、一曲を長く演奏。ほとんどが20分近くまで到った。(4)はトッドのオリジナル曲。タイトルはうまく聴き取れず。
 太田が進行役っぽい立ち位置だが、トッドの曲では彼がイニシアチブを取る。
「最初はフリー。ボウイングしたらテーマに」みたいなことをトッドが告げ、演奏が始まった。
 
 田中が小刻みにブラシで刻む。改めて思ったが、彼のリズム感は驚異的。たとえば4拍子を16や32拍子に分けて叩いてるような印象。瞬間的に拍子を分割して、それぞれのタイミングを取って叩くかのごとく。
 拍の頭はきっちり刻まない。けれどもリズムは訛らない。手数多いスティックさばきで、きっちりビートをドライブさせる。つまり拍子の頭を不明確にしつつ、細分された拍を瞬間的に叩き分け、複雑なノリを提示のように感じた。
 隙間無くばら撒かれる高速ビートは、素晴らしくスリリングだった。

 トッドは逆にグルーヴを前面に出さない。クールにくっきりと丸い音を出す。付点音符をあまり使わず、タイトなフレーズを訥々と、硬質に弦をはじいた。ボリュームは小さめ。
 シャープな切れ味のフレーズで、ランニングみたいにビートを出さない。

 太田も奔放なソロを取った。今夜はひときわ肌触りのがっちりしたフレーズを多用し、鋭く切り込む。場面ごとに変わる風景が、ぴいんと張り詰めた。
 3人とも変拍子には向かわない。田中の奔出させるビートをトッドがさらり受け止め、太田がバリエーション豊かに膨らます。

 特に3人のスピード感が爽快。アップテンポで疾走するさまは、滑るように突き進む。
 フリーな展開での止まらぬ音像は、とにかく格別だった。

 (1)はひとしきり三人のフリー。冒頭から田中のブラシが壮絶に炸裂した。
 おもむろにトッドが弓を持ち、太田が滑らかなメロディを奏でる。アドリブ部分では、イントロのかっちりしたフレーズとは逆に、旋律中心で温かいバイオリンを弾いた。
 ソロ回しが前提のセッションではないが、途中でベースのソロへ。ブラシからスティックに持ち替えた田中の刻みへ、高音を多用したフレーズでトッドが切り込む。

 太田はかがんでアンプのツマミをあれこれいじっていた。
 弦をはじくと、フィードバックがすっと響く。数音、断続的に。このままノイジーな展開か、と期待したが、それは叶わず。
 改めて三人で、猛然と突き進んだ。

 (2)は太田の提案で即興を。ドラムとベースのデュオから。フリーなパターンながら、ドラムが明確な刻みを入れないため、不思議な空間が産まれた。
 バイオリンが加わる。この曲はメロディアスな展開だったかな。太田がバロック調の整ったフレーズを、さりげなく入れたろうか。

 ドラム・ソロもあったかな。シンバルとドラムをめまぐるしく叩く。フレーズはシンプルながら、いくら聴いても飽きない。ビートが伸縮するような展開だから。
 カウベルを置いたフロア・タムを連打、途中で足元において軽快に叩く。さらにシンバルも交えて、高速のタム回しを。シンバルのエッジや留め金も叩き分ける瞬発力が聴きもの。
 さらに片手でスネアをミュートしつつ、リムと皮を叩きわけ、軽やかな響きも作った。
 (3)はジャンゴの曲。イントロでエレクトリック・バイオリンのひしゃげた音色で奏でるトロピカルなフレーズは、西洋が妙に誤解したアジアのイメージを、とっさに連想して面白かった。
 最初のフレーズをたどたどしく、続いて滑らかに。太田のメロディ解釈をテーマに、スムーズなアドリブへ雪崩れた。
 この曲でも長尺のベース・ソロ。トッドのベースがクールに鳴る。速いフレーズを弾いても涼しげな雰囲気が漂うのが、彼の個性か。

 ドラムとバイオリンの4バーズ・チェンジへ。このドラミングが刺激的。前述のようにドラムが素直に拍子を刻まないので、短いフリーの交換に聴こえる。
 途中で2拍交代、そのままエンディングに雪崩れた。

 それまでフリーな展開を一掃して、太田が高らかに滑らかなメロディを奏でた。
 切々と美しい世界に一変する。すうっと、静かに着地。
「ビリー・バングになっちゃった」
 と、太田が笑いながら呟いた。

 後半セット、(4)はトッドが「フリーに。いつでもテーマが入っていいよ」らしきことを冒頭に告げた。この曲もメロディがきれいだった。
 中盤は高速の展開にみるみる進む。バイオリンがとめどなくメロディをばら撒き、ところどころでドラムやベースの見せ場もあり。

 後半の即興は太田がきっかけだったろうか。エレクトリックでするっと長い符割のフレーズを出し、すかさずトッドが弓で応える。
 不定形に、しかし速度感は常に保って。三人の即興が自由に膨らんだ。
 ドラム・ソロで田中がカウベルを足元から取り出す。マレットで叩いて、ふわりと宙を泳がせた。
 
 最期は太田の"Masarascope"。ぐんっとアンサンブルが締まってた。
 エレガントなテーマを太田が繰り返す。すぐに即興へ行かず、助走のようになんどもテーマを繰り返した。
 
 この曲では比較的ソロ回しっぽい流れに。20分くらいかける長尺の中、それぞれのソロもたっぷりと時間を取った。バイオリンはアンサンブルの中で奏でる。太田のメロディはふくよかに広がった。

 続いてベースのソロ。この曲では付点音符も多用する組み立てながら、粘っこいサウンドにならないのが興味深い。常にシャープなイメージをトッドのベースはかもし出した。
 ドラム・ソロ。いったん、完全にサウンドが止まる。空白が数秒、このまま終わるか・・・と思わせるが、さすがにそれは無い。改めてじっくりと、ドラム・ソロが爆発した。
 ハイハットの4つ踏みで丁寧に拍の頭を提示しつつ、両手はめまぐるしくドラム・セットの上を駆け巡る。
 降り注ぐビートの流れは、休み無い。ドラム・ソロはたいがい聴いてて途中で飽きてくるのに、彼のドラミングは最期まで聴いてて楽しかった。かなり長い時間のドラム・ソロだったのに。

 最期はきれいに着地して、幕を下ろした。各セット、1時間弱。聴き応えたんまり、素敵なライブだった。
 さりげなく太田が「この3人でいずれは録音を」とMCで喋っていた。ぜひ、実現して欲しい。
 フリージャズとも一味違った、個性的な音楽が聴けるはず。ひきつづき、このメンバーで活動を続けて欲しい。

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