LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/9/6   大泉学園 in-"F"

  【月光茶房の音会 (第13回) 菊月の三人 - 出張編 】
出演:深水郁+壷井彰久+吉田隆一
 (深水郁:vo,p、壷井彰久:e-vln、吉田隆一:bs,fl、Guest:佐藤浩秋:b)

 月光茶房で定期的に行われているライブの13回目・・・のはずが、やむない事情で直前に中止の発表。直後に、インエフに場所を変え"出張"編として開催する、異例の事態となった。直前の中止を受け、偶然場所が開いていたインエフ側が受け入れたらしい。
 出演メンバーは、昨年三月に同"音会"での顔ぶれにてという、音会としても初の"再演"となった。

 インエフでの開催となり、深水都はピアノに座る。中央に吉田隆一、バリトン・サックスのほかにフルートも準備してた。彼のフルートを聴くのは、ぼくは初めてだったかも。
 壷井彰久はエレクトリック・バイオリン一挺で、足元にエフェクターを色々準備していたようだ。

<セットリスト>
1.Kikuchi
2.月夜見
3.即興#1(ママとパパ)
4.甘酒の歌
5.即興#2(アリとナイアガラ)
(休憩)
6.コイゴコロ
7.即興#3(秋の練馬)
8.秋分点
9.氷の魚
10.魚の話なんかやめて
(アンコール)
11.マグマの歌〜栗饅頭の歌

 曲目は基本的に、深水の曲。進行は吉田が主につとめ、選曲もその場でしてたみたい。
 まずインストの"Kikuchi"で幕を開けた。重厚なムードで始まり、すぐに壷井はオクターバーで低音の爪弾きを入れる。
 バリサクがリフを刻み、バイオリンが主にメロディを弾く格好か。ピアノは即興フレーズは和音やリフを主体に奏で、メロディを弾くことは少ない。したがって時にミニマルな展開が興味深かった。

 曲はバリサクとバイオリンがきれいにメロディを奏でる形でアレンジされ、その場で分解展開してゆく。ソロ回しはなく、即興的に。
 バリサクが吹くリフがいつの間にか解体され、バイオリンと絡む。ピアノもさりげなく即興フレーズを加味し、三者が浮遊さす瞬間が面白かった。
 終盤では吉田がマウスピースへ強く息を吹き込みタンギングする、単音の刻みが幾度もはじけた。

 "月夜見"は6月に深水が作った新曲だそう。アレンジは歌伴でなく、歌をきっかけに即興演奏へ入っていく形式。前日のライブに倣ったという、壷井の独奏をイントロにした。
 譜面を見ながら、静かに壷井がフレーズを重ねてゆく。ディストーションを使わず、伸びやかに。
 曲そのものもロマンティックだった。

 (3)は完全即興。連れられてきた観客の幼児がその場で放った言葉をお題に、吉田の提案で始まった。
 深水が一言「ママとパパ・・・母と父」と告げる。後は3人でどっぷり即興に。ここでもリフを重ねるミニマルな進行にも。深水が軽快にグリサンドを幾度も繰り返してたのは、この曲だったろうか。
 1stセットではバリサクとバイオリンがぐんと前に出るバランスで、ピアノの音がちょっと聴こえづらい。ぼくの席からはピアノの手元が見えなかったが、そぶりからはクラスター的なアプローチも、しばしば投入してたようだ。
 曲の最期でもう一度、深水がくっきりと「ママとパパ・・・母と父」と放ち、幕を下ろした。

 続く"甘酒の歌"は、初めて聴いたかも。歌入りで、ぱあんと深水の歌声が広がる。
 バイオリンとバリサクのソロが絡み合い、膨らんでいった。
 
 1stセット最期も即興。MCで壷井が喋った話題がきっかけ。石垣のアリの巣へロケット花火を突っ込むと、ナイアガラ状態でアリが降り注ぐらしい。
 曲展開はどんどん膨らんだ。ピアノがくっきりと刻む。

 壷井は冒頭のリフをループさせ、さらに単音のピチカートをいくつも重ねる。同じタイミングで音程を変えて。
 アルペジオの膨らみに、和音のピチカートが乗っかり、さらに自らのソロをかぶせた。 
 吉田はフルートに持ちかえる。鋭い息吹で早いフレーズを、矢継ぎ早に吹き連ねる。メロディアスな風景に。
 深水が鍵盤の高音をこぶしでガラガラ撫でるそぶりでオブリを入れた。

 最期は三人が言葉を交し合う。「・・・アリさん、ごめんなさい」壷井の呟きで幕、となった。

 後半セットは深水の曲"コイゴコロ"。1フレーズごとに、フリーキーなフレーズを強力にばら撒く、面白いアレンジを取った。
 歌のイメージが強い曲だったが、今回は器楽曲に軸足を移し、たっぷりとバリサクやバイオリン、ピアノのからみを主軸に置いた。

 即興をもうひとつ。吉田のリクエストで、バイオリンとピアノのデュオ形式。前日のライブ(太田惠資+吉田+深水)では"秋の海"がテーマとか。今回は色々提案のあと、"練馬"がテーマとなった。実際にはイーハトーヴになぞらえた、ある漫画家が設定した「練馬の架空世界」がタイトルだったかも。その辺はうまくMCを聴き取れず。

 一瞬探りあうそぶりから、壷井が弾きはじめる。ピアノも柔らかく鍵盤へ指を落とした。そういえば後半セットは三人の音バランスがきれいに変わっていたな。
 練馬といっても深水はイメージ沸かないようで、率直な思いを語り風に演奏へ載せるのが面白かった。

 ここで、特別ゲストとしてインエフのマスターが参加。ウッドベースを構える。
 曲は吉田の作品で、板橋文夫らと演奏してるレパートリーだそう。
 スケール大きい男気溢れるメロディ。ベースが加わって、とたんにアンサンブルがずんと厚くなった。
 吉田と壷井がアドリブを入れる形から、ピアノが強打に。しばらくして吉田がさりげなくハンドキュー、ピアノを抑える。そっと再開後、ウッドベースの独奏に繋げた。

 無伴奏のベースソロ。強いスラップをときおり混ぜ、鋭く弦がはじかれる。
 時に猛然と、時にくっきりと。ハードな面持ちでベースが吼えた。
 バリサクを構えた吉田が、半身をマスターへ向けて音を出す。しばし、バリサクとベースのデュオ。ふたつの音が硬質に絡み合うさまは、とてもかっこよかった。
 やがてバイオリンとピアノも加わり、テーマへ。重厚なサウンドは聴き応えあった。

 再び深水の曲、"氷の魚"。最近はもっぱらインスト曲になってるそう。この曲も含め、2ndセットはベース入りのカルテット編成で演奏された。
 輪郭はくっきり、ほのぼのしたムードも漂いつつ。メロディはリフの応酬に溶け、即興の展開からいきなりテーマに戻る。 
 4人の繰り出す音世界は独特の魅力があった。

 本編最期は深水の"魚の話なんかやめて"。中盤の手拍子だけになるアレンジは無くなった。というか、吉田がいきなり中盤で深水に言葉を投げた。
 最初は魚の名前。深水と、演奏を続けながら、短い言葉の応酬。二人ともすぐさま変化球を投げだす。吉田が壷井に言葉を振ったときは、「それ、魚じゃないじゃん」と、まず返答してた。
 4人が淡々とリフを刻む中、言葉の応酬が一回りしてテーマへ。明るく終わった。

 拍手のなか、そのままアンコールへ突入。
 深水の曲を2曲メドレーで演奏した。ゴジラを連想する"マグマの歌"をごく短く、次に歌ものの"栗饅頭の歌"を。深水の地元名物として復活させた饅頭をテーマにした曲。
 ほのぼのしつつ、きっぱりとした深水の歌い口が爽快な歌。キャッチーなメロディだった。

 二時間たっぷり、聴き応えある楽しいライブ。深水はこの秋ごろ、アルバム発表も予定してるそう。ますますの活躍が楽しみ。
 次の東京ライブは決まってないそうだが、またぜひやって欲しいな。

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