LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/8/30   大泉学園 in-"F"

出演:Shezoo+小森慶子+壷井彰久+岡部洋一
  (Shezoo;p、小森慶子:cl,b-cl、壷井彰久:e-vln、岡部洋一:per)

 久しぶりなShezooのライブ。1月のデュオがきっかけか、壷井彰久もアンサンブルに加わる編成となった。
 Shezooはアンサンブルのまとめ役に徹するアレンジで、アドリブやソロはほぼ無し。アレンジの一環としてメロディを奏でる部分がわずかにあったくらい。もっと全面に出るかと思ってたので、ちょっと意外だった。

 壷井彰久はエレクトリック・バイオリンを一挺。ブライトな音色を多用し、足元のエフェクタを使った特殊効果は控えめだった。小森慶子はクラリネットとバスクラを曲によって使い分ける。
 岡部洋一は小型のスネアをひとつ、カホンに座る。スタンドに各種シンバルやパーカッションを吊るすセットだった。

 今回は新曲も投入するセット・リスト。しとやかで滑らかなメロディが行き来する、素敵なアンサンブルが奏でられた。

 まず最初はトリニテの組曲の流れ、と言ったかな。"プロローグ"って曲だったと思う。
 静かにクラリネットがメロディを紡ぎ、続いてバイオリンに受け継がれた。
 ふくよかに旋律が流れる。岡部がしゅっとシンバルをスティックでこする。鈍い響きの一音が、とても効果的だった。
 Shezooのピアノは和音やアルペジオがゆったり広がる。主旋律はバイオリンとクラリネットに委ね、サウンドの骨格を柔らかく組み立てた。
 
 途中のクラやバイオリンのソロっぽい部分は、アドリブだろうか。二人はときおり譜面を見ながら、滑らかにメロディを紡いだ。穏やかな風景が浮かんでゆく。
 岡部がカホンを鳴らし、指先でそっとリズミカルにスネアを叩く。場面ごとに、ぱっと響き線を操作。カラフルな色合いだった。
 エンディングはたしか、二人が揃ってメロディを弾いた。きれいだったな。

 ここでMC。いきなり「2曲続けて」とShezooが告げ、とたんに小森と壷井が慌てて譜面をめくり直す。結局、持ち替えが必要な小森の提案で、一曲づつの演奏となった。
 二曲目は新曲、"1の6"と紹介された。壷井と小森によるメロディは牧歌的で日本らしい風景もちょっと連想した。
 ピアノがふっくらと素地を作り、ひとつながりの長いメロディがクラとバイオリンで提示される。
 パーカッションはあまり前面に出ず。ちょっと振り物を操ったくらい。

 続いて"Mondissimo 1"を。バスクラに小森が持ちかえる。今夜も音色はふくよか。ピアニッシモからメゾフォルテまで、丁寧な響きを。吹きながらぐいっと肩を入れたり、胸を張って音を伸ばしたり。聴こえる音と、演奏する姿のリンクがきれいだ。
 壷井も太い音色をエレクトリック・バイオリンで作り、軽々とメロディを奏でる。
 ここでは岡部も積極的に参加し、小刻みに符割にそったリズムを挿入した。
 
 Shezooのピアノは常に鳴り続ける。単なる伴奏では、もちろん無い。無闇に音数を増やさないし、ソロで前にでるわけでもない。しかしサウンドの芯として、しっかりと存在感を出した。
 この曲のエンディング、最後の最後で一音、ずこんと低音を打ち鳴らしたのが印象に残る。

 1stセット最期も新曲。"3"と紹介されたと思う。この曲、素晴らしかった。
 スケールの大きさと、アレンジが抜群。最初は小森と壷井がユニゾンで。ピッチのあった二人の音色が太く優しく響く。
 エンディングは二人がオクターブ、ずらしてだったかな。さりげないアレンジが、とても効果的だった。

 即興要素を前面に出さぬアレンジだったが、中間部分は壷井や小森がソロを交互に取る。世界感に調和した二人のメロディは、全て譜面に書かれているかのよう。
  
 短い休憩を挟んだ後半セットは、"The dream above the heavens"から。そういえば今夜は、"Nature Circle"からは一曲もやらなかった。
 上品で情感にあふれた光景をピアノが紡ぐ。低音をクラリネットが作った。
 バイオリンがソロを取る時には小森がさりげなくオブリを入れ、逆の立場では壷井が軽く弦をはじく。

 続く"Mondissimo 2"は軽快に。岡部はカホンを叩きつつ、右手はスティックで忙しくさまざまな金物を叩く。
 スネアの上に小さなシンバルを載せて叩いてたのも、この曲だったろうか。
 メロディのタイミングがわずかずらされ、パーカッションは音楽の流れるさまを、矢継ぎばやの手数で彩る。
 エンディングは賑やかに、Shezooは幾度もグリサンドを入れた。

 そして"怒りの日"。このアレンジが今夜のShezooを象徴していた。
 ほぼ、壷井と小森のデュオ状態。岡部はごくわずか、パーカッションを入れるのみ。Shezooは冒頭にほんの少し、ピアノを弾いただけ。
 荘厳で長い符割のメロディを、幾度もバイオリンとクラリネットが紡ぎ続ける。アクセントのパーカッションを背後に聴きながら、二人はメロディをさまざまに展開させた。
 アドリブで別世界へ飛び去らず、楽想へどっしり足を踏みしめて、小森と壷井の演奏が続く。たとえピアノが鳴っていなくとも、そこにはShezooの音楽がくっきりと提示されていた。

 2ndセット最期の曲は"グラニオン・ダンス"。カリフォルニアのラホヤ海岸で産卵するイワシの一種をテーマに作曲したそう。
 この曲もがっつり聴き応えあり。中盤ではフリーな世界へ向かった。岡部が賑やかにパーカッションを打ち鳴らし、ピアノとバイオリン、クラリネットが即興を交錯させる。
 ちなみにこの曲、どういう拍子だろう。あるときは4拍子、あるときは3拍子・・・かな?パーカッションが鳴り続けるのに、何拍子かわかんなかった。

 壷井がこの曲でエフェクター操作を前面に出した。テーマの繰り返しではディレイを使ってフレーズをさりげなくループさせる。
 小森がソロを取る横で、オクターバーの低音でベースを補強する。
 クラリネットが美しく旋律を吹いた。身体を優美に、ときに力強く動かしながら。
 
 アンコールの拍手で演奏したのが"砂漠の狐"。
 壷井のバイオリンが、ふっくらと奏でるメロディがくっきりと空気に焼きつく。
 ロマンティックに、ほんの少し寂しさを漂わせて。4人のアンサンブルがつくるムードが素晴らしい。

 思い返すと、4人の作る音は不思議な厚みがあった。無闇に音数が多いわけじゃないのに。
 ふっと気づくとサウンドにのめりこんで聴いていた。
 Shezooの作り出す音楽は輪郭はっきりと奏で、ピアノは常に全体を包み込む。
 素敵なライブだった。Shezooの新譜はいつ出るだろう。新曲の"3"がとりわけきれいだったし、とても楽しみ。

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