LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/8/23 下北沢 Lady Jane
出演:灰野敬二+太田惠資
(灰野敬二:g,voice,per,electronics,etc.、太田惠資:vln,per,voice)
このデュオでライブは久しぶり。ぼくは数年ぶりに聴いた。
ステージの奥側で灰野が椅子にこしかけ、太田はアンプに腰を下ろす。
灰野はラップ・スティールを目の前に置き、足元に幾つかのエフェクター。壁にはサズーのような弦楽器(以下ではサズー、と書きます)。
椅子の後ろにエレキギター。さらにダラブッカを横に置く。
ピアノの上にフルートと、鉄板にコンタクトマイクをつけたとおぼしきノイズマシンも準備したが、これら二つは使わず。
太田はアコースティック一挺とエレクトリックのバイオリンを二挺。さらにタールとメガホンを準備した。
客電が落ち、MC無しで静かにライブは幕を開けた。以降、最期までMC無し。唯一、各セット終了後に互いを紹介するのみ。冷徹に、真摯に。二人は即興へ向かい合った。
灰野がアップライトピアノに置いた機械の箱に手を伸ばす。布か皮のケース入り。蓋を開けてツマミをひねる。静かにハム音が流れた。どうやら発振機のようだ。
太田は耳を傾ける。やがて、バイオリンを持った。エフェクターを踏み、弓の背や毛の端を使って、そっと弦をこする。ディストーションで潰された音が響く。
やがてオクターバーを使い、低音のリフを指で紡いだ。
灰野はケースに入ったまま、発信音を手に取る。ケースの蓋を開け、閉じ、蓋をひねる。ひしゃげたケースの蓋が、発振機の出音をそっと歪めた。
手前にあるマイクに向かって発振機を寄せる。ときおりツマミをいじりながら、ずっと灰野は発信機を操った。
静かな灰野のノイズ、意外に大きな出音の太田のリフ。二つが絡んでゆく。
灰野はすっと横へ発振機を置き、サズーを持った。爪弾き始める。
太田のバイオリンがメロディを作った。オクターバーを切り、足元でワウやディストーションを操作しながら。現れた旋律が、サズーのリフと混じる。
灰野が吼えた。強く。
操るサズーは単音の爪弾きが、次第に速まる。バイオリンと交錯する。ソロ回しではないが、なんとなくその場の流れで互いにメロディの主導権を交換し合った。
灰野はときおり吼える。日本語で、太く喉を絞って。でかいボリュームで増幅された声が、壁のスピーカーから吹き上がった。
太田の奏でる音が高まる。灰野はサズーを横に置き、椅子の後ろからエレキギターを持った。サズーで最期に弾いたフレーズが、わずかループされる。
プラグを指し、まずはゆったりしたフレーズから。ループを切って、ギターのみに。
ここからが、素晴らしい高みだった。
エレキギターのかきむしり。コード、フレーズ、双方が現れ、灰野の速弾きが猛烈にはじけた。
挿入する歌声は、基本的に日本語。抽象的な言葉をランダムな符割で繰り出し、叫ぶ。 メロディよりも声そのものをぶつける。ときに字余りで。
いっぽうの太田は声を発しない。目を閉じ、ときおり足元のエフェクターを操作しながら、歪み音から拡がりある響きまで、エレクトリック・バイオリンを弾く。
まず赤、そして青に持ち替えた。
太田が長く一音、続けて短く数音。このリフを繰り返す。灰野のギターと織り成す音像が最高だった。
でかい音が轟き、店内のスピーカーとアンプから二人の音が炸裂する。耳鳴りしそうな勢い。細かな符割まで聴き取れるか、ぎりぎりのところ。
基本的に二人とも、4拍子をキープ。ときおり奇数拍子が挿入された。
エレキギターをかきむしる灰野。3弦が吹き飛び、だらりと垂れ下がる。かまわずにがむしゃらなプレイを続けた。
太田の弓の毛も、一本だけぷつりと切れた。でも、それくらい。太田は激しい出音のわりに、弓の毛をさほどほつれさせず、弾いてゆく。
途中でミュートをすっと後ろにずらし、バイオリンが一段と高まった。
最期は音が静かに向かったろうか。互いに顔を見合わせ、終わりを確認しあった。
約70分。
後半セットはまず、灰野のシェイカーから。細長いシェイカーを、ヌンチャクを振るように両手で持ち替えつつ、振る。足に挟んだダラブッカの表面へ押し付けたりも。
途中で振りを片手でとめたり、振る方向を変えたりも。シェイカー一本で、灰野は演奏を続けた。
それを見ていた太田は、アコースティック・バイオリンをもつ。
ちょっと爪弾き、アラビックなボイスを挿入した。力強く。マイクの関係か、あまり声が響かず残念。
灰野がダラブッカに持ちかえる。右手の残像が見えるほど、素早く叩く。中央、エッジ、リム。さまざまな部分を打ちかえ、ニュアンスを引き出した。
太田はバイオリンを弾き、合間に唸る。
灰野が吼えた。太田のボイスにあわせ、ハイトーンな声で裏拍を打つ。1stセットとは逆に、太田のパフォーマンスへリズミカルなボイスを灰野が入れた。
ダルブッカを叩き続ける灰野へ、太田はハンド・パーカションを持つ。そっと指先で叩く。パーカッションと二人が繰り出す声がフロアに響いた。
さらに太田はパーカッションを置き、メガホンも。メガホンからサイレンを鳴らしつつ、声をぶつけた。
灰野が持ち替えたのはエレクトリックのラップ・スティール。左手でスライドしながら強く弦をはじく。太田はエレクトリック・バイオリンで迎えた。
トロピカルな世界へは向かわぬものの、不用意に音が揺れるラップ・スティールはいまひとつ緊迫感を高めない。灰野はスライド・バーの左側、本来はじかぬ部分もかき鳴らす。
途中からラップ・スティールの奏法とまったく違う、左右逆の奏法が中心になった。そのときの音は、シビアでよかった。
やがて灰野は再びエレキギターを。プラグからいきなりシールドを引き抜き、そのままギターに突っ込んだ。ずぞっ、とノイズが一瞬響く。
再びギターとバイオリンの疾走。灰野のシャウトも頻繁に挿入された。
太田は弾きまくる。ディストーションで歪ませた音色がノイジーに膨らみ、次にブライトな鳴りでメロディを。
すさまじいテンションで二人は演奏を続けた。
灰野がダラブッカに持ちかえる。演奏が高まり、そっと着地。
太田が弾きやめた。灰野のダラブッカが残り、エンディングへ。
二人は顔を見合わせ、そのあと客席に一礼。互いを紹介しあった。後半も60分以上か。
ひさしぶりのデュオだが、極上のインプロ。ストイックに即興が黒く盛り上がる。
轟音と小音、両方をステージの中で操った。
二人のデュオは、またぜひやって欲しい。とても聴き応えがある。
そして叶うならば、ぜひ音源も残して欲しい。この素敵な音楽を。