LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/8/22 大泉学園 in-"F"
出演:太田印の太鼓判
(吉田隆一:bs、小森慶子:ss,as,cl、壷井彰久:e-vln)
昨年末ぶりにこのユニットのライブを聴いた。今年の3/31に吉田隆一が、太田惠資の"ややっの夜"へ出たときのMCがきっかけで、ユニット名が"太田印の太鼓判"に決定。今夜は命名後2回目のライブになる。前回は聴き逃しており、楽しみにしてた。
店内へ入ると壷井彰久が入り口寄りに立つ配置で、ステージ右側は小森慶子。前回聴いたときと立ち位置逆だな。ステージ右側にスペースをゆったりとった。
まさか太田惠資が飛び入り?と想像する。実際、そんな話題があったらしい。今日はライブが入ってない、程度の話だったようだが。
喋りとインプロなステージ構成は変わらず。時事ネタから始まり色々飛んだので、ここではMCネタの記録は割愛。音楽に絞って書かせてください。
壷井はアコースティック・バイオリン1棹のみ。マイクで軽くリバーブをかける。小森はクラリネットとバスクラを曲によって持ち替えた。吉田もバリサクのほかにバスクラを持ち込む。彼のバスクラをステージで聴いたことあったかな・・・新鮮な光景だった。
すなわち基本はアコースティック。前回聴いたときはアヴァンギャルドでクールな印象だったが、今回はもっと上品かつきれいに、音楽はふっくらと昇華していた。
ときおり異国的な風景が香る。トラッドやクレツマー、アラブだろうか?色々想像してたが、よくわからない。
ぼくが聴いてた位置だと音量バランス的に、小森の音が聴こえづらく残念。しかし後述するように、別の意味で小森の特にバスクラは聴きものだった。
基本的に全て即興。MCで吉田の出すお題がきっかけながら、どこまで意識してるかは不明。
今回のステージはドローンやミニマルの要素もたっぷり取り入れた。
吉田が低音でリフを提示し小森や壷井がゆるやかにソロを絡めるアレンジを多用。二人も相手にソロを渡すときは、白玉やリフで空気をゆったり前に動かす。
事前に練ってあると誤解しそう。複雑に音が溶け合った。
フリーキーなタッチはほとんど無し。あくまでアンサンブルを強調した。
確か前半セット後半、フリーク・トーンが話題になったとき。壷井がバイオリンの倍音中心にリフを作ったときくらい。小森も後半セットだったかな、クラでハイトーンを絞る場面あった。
吉田はパワフルな低音リフから穏やかなメロディまで、触れ幅大きく吹きまくる。
強烈にファンキーなグルーヴでぶいぶいと煽るときも。
メロディアスな即興が多い。しかしソロはあまり取らず、むしろリフで全体を支える役割が多かった。
即興もたいがいは、吉田が最初に音を出して導く。出してく音列がいつしかリフで鳴り、芯の強いブロウとなった。
吉田のバスクラはバリサクとはもちろん違う吹き方。穏やかさと激しく、双方を場面で使い分けた。
小森とバスクラ二本編成の曲では、音域を使い分けた。吉田がハードなリフ、小森がメロディアスなオブリってパターンで音構造にバラエティを持たせた。
三人の即興は寄り添い、高まってゆく。テンション高くてんでに疾走は2ndセット最終曲で、意識的にみせたくらい。むしろ典雅さが伺われ面白かった。
バスクラは吉田の強いアプローチに対し、小森が繊細さを存分に披露した。
音色は空気をふくよかに震わせて、メロディは刺激的に。
特にダイナミクスを今回は、聴いててとても意識した。ソロだと一気に音が前に出る。ノーマイクだがボリュームをがっちりとコントロールし、丁寧に表現した。
とりわけ、ppがべらぼうにきれい。途切れぬ滑らかさががっちり安定して、さりげなくメロディが踊る。
アンサンブルが大きな音では、小森の音は聴こえづらい。しかし、あのピアニッシモを聴きたい。途中から矛盾することを考えていた。
この日は異国的なメロディが奔出。オブリからソロまで、すさまじい勢いで旋律を産み出した。
ソロもさりながら、リフでのメロディがとてもきれいだった。
壷井はメロディや風景のアイディアを次々と音で提示し、場面転換の瞬発力もあざやか。音楽のテンポとは別次元で、スピーディさが冴えていた。
全体の音を踏まえて、身軽くソロとリフの間を行き来する。
無国籍なフレーズからすぐさまミニマルなリフに。音数多く弾くソロとの落差が激しく、面白かった。
全体のミニマルさが興味深い。リフやグルーヴの勢いはある。オブリは次々変わり、繰り返しに留まらない。
けれども聴いてて、ミニマルさを常に感じた。グルーヴすらもミニマルに転化するような。変化し続ける、ミニマル。形容矛盾だが、そんな不思議な魅力のサウンドだった。
1stセット最期に"太田印の太鼓判"のテーマ・ソングあり。前回からの曲かな。
吉田も小森も「この曲はバスクラで」ってこだわりあるそう。
サビでバンド名を連呼するときには、壷井がマイクへ向かって「声が小さい!」と観客を煽って笑う。
ちなみ後半MCでの飛び入り展開あり。MCの途中、吉田の携帯がなる。
「あ、太田さんだ」
と取り、話し始めた。店には行けないが、律儀に電話をしてきたようだ。なんとか声が聴こえないかと、観客も静かに電話する様子へ耳を傾ける。
客席からは相槌のみで、どんな話してるかもちろんわからないんだけど・・・。あるいみ異様な光景が、なんともおかしい。
途中でマイクに向かい携帯を吉田が掲げ、かすかに挨拶する太田の声が聴こえてきた。スピーカー・フォンの機能があれば面白かったな。
壷井が太田からの「よろしくお伝えください」のメッセージをつげ、大きな拍手。マスターは「携帯での乱入は当店初めてだ・・・」と笑っていた。
2ndセットの最期はスピードをより強調、のコンセプト。バイオリンの高速フレーズが炸裂。どんなに早くても涼しげな表情の壷井だった。
そのまま拍手でアンコールに。短めに一曲やって終わった。
前後半とも一時間を越え、最期は10時45分に至るボリュームたっぷりの演奏だった。
即興演奏もたっぷり。今回聴いてて、独特のアンサンブル成立を強く感じた。この路線は、もっと追求して聴きたい。