LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/8/11 渋谷 公園通りクラシックス
〜きれいなメロディ、へんてこりんなメロディ〜
出演:黒田京子+鬼怒無月
(黒田京子:p、鬼怒無月:g)
このデュオ・ライブは今年の5月、in-Fぶり。そのときに感じた手ごたえを踏まえ、鬼怒のブッキングで今日に到ったそう。
グランドピアノとギターが向かい合うセッティング、鬼怒はエレキギターとガット・ギターの2本を用意した。
まずチューニングをする鬼怒を踏まえ、なんとなく黒田がMCを始めた。最初に、今日は全てカバー曲と告げる。
もっとも1stセットはほとんどMC無し。次々と演奏を進めた。これも5月のライブと同様の構成。鬼怒も1stセットはほぼ喋らず、黙々と音楽へ向かい合った。
それぞれの横にMC用マイクがきっちり用意されており、もっと喋りあうかと思った。
<セットリスト>(不完全)
1.(ミッシェル・ルグランの曲)
2.Two For The
Road
3.Jackie-ing(?)〜Thelonious
4.(エリントンの曲)
5.インプロ〜明日にかける橋
(休憩)
6.Silence
7.Hooveling
8.I
mean you〜Brilliant Corners
9.Chelsea bridge
10.La
Pasionaria
(アンコール)
11.マルティン・マルティグラ(?)
ほぼ、黒田の選曲らしい。鬼怒が普段演奏しないジャズなどを並べたという。鬼怒の選曲もあるそうだが、どれだろう。(11)はMCで告げていたが。(5)あたりかな?
前回のライブでも披露された曲もあり。そして演奏は、ぐっと深みを増していた。
(1)はルグランの作品でタイトルはわからず。鬼怒はアコースティックで演奏をはじめ、曲の途中でエレキギターへ持ち替えた。このスタイルは、(1)でのみ。
鬼怒は複数のピックを譜面台に置き、特にアコギでピックと指弾きを使い分けた。時にピックを口にくわえて。ふたつほど、足元に転がったままのピックが妙に気になってしまった。
まず(1)はテーマをギターが紡ぎ、アドリブへ向かう。やがてピアノにソロが回り、さらにエレキギターに持ち替えたソロを。
テーマから滑らかにアドリブに変わる。曲を踏まえつつ、豊潤なフレーズが溢れた。
黒田は柔らかく鍵盤を叩き、ふっくらとフレーズを撒く。鬼怒がソロのときのオブリも心地よかった。
エレキギターに持ち替えた鬼怒は、わずかにディストーションを効かせて奏でた。
(2)はマンシーニの曲。スタンリー・ドーネン監督の同名タイトルの作品。邦題は"いつも二人で"(1967年)。オードリー・ヘプバーン、アルバート・フィニー出演のサントラから。
鬼怒はアコギをプレイ。この曲もきれいなメロディを存分に。テンポはゆったり、二人ともときおり速弾きを混ぜる。ギターのアドリブで静かに和音中心のピアノが、ソロがわたった瞬間に高音を軽やかに叩く瞬間がきれいだった。
次はモンクを2曲、メドレーで。前半は"Jackie-ing"だそう。
ここまで美しく紡いだ世界感が一転、アバンギャルドに向かう。エレキギターに持ち替えた鬼怒は、鋭く弾く。黒田もクラスターを左手首で幾度も繰り出した。
中盤の即興がぐいぐいと盛り上がり、いきなりブレイクで"Thelonious"へ。くきくきした前のめりのメロディを、滑らかにギターが提示する。ピアノはふくよかな和音でしっかりと応えた。
(4)はエリントンの曲でタイトルはわからず。
アコギの鬼怒はピックを口にくわえ、指先でぱらぱらと流麗に紡ぐ。黒田はしっとりとロマンティックに旋律を操った。
最期に無伴奏ギター・ソロを置いたのは、この曲だったろうか。
続く(5)の前半は即興のようだ。ハードに世界が変わる。エレキを持った鬼怒が弾くフレーズはクリムゾンのよう。ざくざくときっちりフレーズを刻む。
ピアノもテンション高く応酬した。一気に音像が高まる。
確かクライマックスで、鬼怒はフィードバックをぐっと響かせた。
そして、S&Gの"明日にかける橋"が現れる。最初は一部分をフェイクさせ、もう一度くっきりと旋律をなぞって。
肌触りの硬い前半の即興とうって変わり、滑らかに二人はメロディを弾いた。
後半セットは鬼怒のMCが中心。掛け合いよりも曲紹介を兼ね、鬼怒が喋ってゆく。
まずチャーリー・ヘイデンの"Silence"。後半セットはモンクの曲以外、全てアコギで通した。
二人がユニゾンのようにメロディを置いてゆき、やがてアドリブが広がった。
爪弾きからピックへ。柔らかい弦の響きが、かちっとはじかれる丸い音に変わる。ときおり、ギターは速弾きを。スリリングなプレイが連発した。
黒田も次々に鍵盤から美しいフレーズを溢れさす。和音と単音、響きがとても効果的に膨らんだ。
ギターがアドリブのときにピアノが弾くフレーズは、決してギターの音世界を崩さない。けれども単純なバッキングとはぜんぜん違う。旋律が存在し、時にギターと平行してアドリブが膨らむ。このバランス感覚が素敵だった。
デイヴ・ホランドの"Hooveling"はリズムの刻みが心地よい。
ちなみに鬼怒はホランドを「鳥好き」と解釈した。しかし向こうの人は酉年かどうか、自分で意識してないと思う。鬼怒のユーモアが面白かった。
アップテンポである種勇ましく突っ込む。ギターとピアノ、二人がリフを提示し合い、ソロが混ざった。
黒田はこの曲でペダルをほとんど使わず、しゃっきりと立ち上がり良い音色で響かす。
足で床を踏み鳴らしつつ、前のめりのソロを弾きまくった。
鬼怒によるアコギのリフも鋭い。かっこいい演奏だった。
モンクの"I mean you〜Brilliant
Corners"は黒田のアレンジ。エレキギターながら、それほどハードな世界へ向かわなかったような気がする。
後半に速いテンポで疾走する場面あり、一瞬とっちらかった感じで雪崩れた。
エリントンをもう一曲、ビリー・ストレイホーン作曲の"Chelsea
bridge"。
ロマンティックな風景が充満した。スタンダードをこの二人で弾くのは、どうしてこれほどきれいなんだろう。いわゆるBGMジャズと違うところはなんだろう。
聴きながら色々考えていた。ぱっと上手く頭の中で理由を分析できていない。
最期の曲がヘイデンの"La
Pasionaria"。この曲が今夜のライブで、象徴であり代表。最高のひとときだった。
楽曲を踏まえ即興を奏でる。メロディを生かしアドリブで世界を広げる。単なるソロ回しで終わらず、かつソロでは存分に弾き続ける。
ソロを交換のたびに風景が次々に変わった。テンポも時に動く。黒田は左手首でさりげなくクラスターを混ぜる。
終わりそうになると、新しい世界が互いのソロから生まれる。
たっぷり長尺で二人の演奏を味わえた。
アンコールの拍手に応えた曲は、鬼怒の持ってきた曲。今までにライブでやってきたという。ぼくはたぶん、聴くの初めて。オーストラリアに伝わるトラッド曲らしい。
感触はカントリーっぽいところも。アップテンポでさらりと二人は演奏し、和やかにライブを終わらせた。
全体を通して、"La
Pasionaria"が圧巻。黒田と鬼怒のロマンティックさが存分に溢れた、とびきりのデュオだった。
無造作にさっと、録音してCD出して欲しいな。粋な二人のデュエットを、もっと聴きたい。
もし次にライブがあるならば、がらり選曲を変えて意外な曲も聴いてみたい。"明日にかける橋"が意外で面白かった。