LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/7/25 大泉学園 in-"F"
出演:黒田京子+壷井彰久
(黒田京子:p、壷井彰久:vln)
意外なことに共演は初めてだそう。当日リハで初めて会ったとか。今日は壷井彰久がインエフ出演100回記念ライブにもあたる。店内のスケジュール表も、過去に壷井が出演したリストを織り込む、特別仕様だった。
リストによると初出演は97年4月15日。AUSIAの一員として。この日が壷井初参加のAUSIAでもあったそう。
司会はなんとなく流れで壷井がつとめた。ときおり黒田京子へ話を振るが、おっとりした受け応え。一方の壷井も黒田のリアクションへ、「そうですか」の一言で終わることもあり、投げっぱなしジャーマンなMCもしばしば。
ちなみに黒田から「鬼怒くんみたいなボキャブラリーだ」と言われたのが、壷井のツボにはまってたみたい。
演奏は黒田がグランド・ピアノ。壷井は3挺のバイオリンを曲によって使い分けた。
曲は二人の持ち寄り。完全即興も1曲くらい、聴いてみたかった。
(セットリスト)
1.Die weisse
Rose:白い薔薇
2.inharmonicity
3.割れた皿
4.First
Greeting
(休憩)
5.Casa Batllo
6.Spirits of the
lake
7.予知夢
8.Left Window
(アンコール)
9.Ripple
まず黒田のオリジナルを2曲続けて。初手から重厚気味なレパートリー。もっとも譜面に強い壷井はどの曲もスムーズに弾きこなし、滑らかなアンサンブルになった。
"白い薔薇"はしずしずと始まる。壷井はアコースティック・バイオリンにマイクを着けて。リバーブをうっすら効かせ、エッジを立たせる。一方でフレーズはスラーで繋ぐのが新鮮だった。
滑らかで流麗な旋律がピアノとバイオリンから立ち上った。ソロは比較的、まわすような格好。互いの音をじっくり提示しあう。
壷井はカントリーや欧州を連想さすフレージングを取り混ぜつつ、基本は無国籍なメロディ使い。黒田ときれいに組み合った。
この曲では探り合うかのように、テンポが場面ごとにガラガラ変わる。疾走と柔和。アップとスローが幾度も繰り返された。
たっぷりと二人の即興が交錯したあと、僅かの空白。あらためて静かにテーマへ戻った。
"inharmonicity"は曲の冒頭を、黒田が完全に壷井へお任せ。独奏でエレクトリック・バイオリンを壷井が奏でた。
黒田トリオで聴くより、テンポはゆっくり。一音一音、壷井はフレーズを歌わせながら丁寧にビブラートを響かせた。しずかにピアノが入る。最初の曲では刻む場面も多かった黒田だが、ここではたっぷりとフレーズをまき、ロマンティックに盛り上げた。
一方で壷井は暗黒チェンバーが炸裂。Tシャツにジーンズ姿、明るい照明下ではあったが、ざくざくメロディを突き刺すハードな展開で進んだ。黒田がソロを取るとき、オクターバーで低音リフを廻したのもこの曲だったろうか。
二人とも即興のとき、奇数拍子や変拍子をあまり意識してなさそう。
アドリブの後半では壷井がディレイで音を残しつつ、強く別のフレーズで貫いた。
エンディングはバイオリンのソロが幕切れ。テーマへ戻らず、そのまま途中で終わる。この展開がとてもかっこよかった。
次も黒田の曲。作曲を続けるか考えてる最中の作品だそう。聴くのは初めて。
ちなみにある絵にインスピレーションを受けて作ったという。そこから作曲手法談義のMCに。壷井は同様の作曲手法を取らぬそうで、対比が面白かった。
「海外に行ったとき、美術館には行かない?」
「ええと、お土産屋に行っちゃいますね」
「美術館に行って、お土産買えばいいじゃない」
黒田のさりげない一言が、壷井にインパクト与える様子がおかしかった。
"割れた皿"は穏やかなムードで、旋律が重なるさまが頭にイメージとして残った。
しとやかに即興へ向かうが、全てが譜面のような構築度だった。
ここでも壷井はアコースティック・バイオリンを弾く。一曲ごとにバイオリンを持ち変え、かなり曲調を意識していた。
黒田は壷井のプレイを聴き、ときに独奏を渡す。
しかし、この曲だったか自信ないが・・・。ある場面で、ペダル操作をぱっとやめた瞬間が鮮烈だった。
壷井はアコースティックのときもリバーブをうっすらかけ、ピアノもペダル操作を多用し、音を響かせあった。ところがバイオリンがソロを弾いた刹那にピアノは、ぱっとペダルを踏まずコロコロと旋律を転がした。
それまでの場面から、すぱっと切り替わる音像が素敵だった。
1stセット最期は壷井の"First
Greeting"。初演者とはいつからか、演奏が恒例という。
5拍子を基本で活き活きと。エレクトリックに持ち替えた壷井は、ひときわ溌剌とメロディを提示した。
テーマは冒頭でピアノは音数少なく淡々と、続いてふくよかに広げる。
鮮やかなメロディをバイオリンが弾き、ピアノはダイナミックに受け止め膨らませた。
休憩を挟んだ後半も、黒田の作品を2曲続けて。まず"Casa
Batllo"はガウディのバトリョ邸をテーマに作った曲。ORTのレパートリーで、"Now's the time
workshop"(1990)へレコーディングした譜面そのままを持ち込んだそう。
前から黒田トリオで再演を期待した曲だけに、とても嬉しかった。
たしかエレクトリック・バイオリンで演奏。鋭さを強調する展開となった。予想より重たい展開に。黒田がピアノを連打する場面が痛快に響く。デュオのため、アレンジがすっきり。壷井がどういう風に譜面を解釈してたかよく覚えてないが、スケールの大きさはそのままに、せわしなさを感じさせずメロディを紡いだ。
アドリブは暗黒チェンバーへ再び行きかけた気がする。1stセットよりさらに、二人のアンサンブルは溶け合っていた。
最期にテーマへ戻り、黒田のピアノ連打がもう一度聴けて楽しかった。
続く"Spirits of the
lake"は、さほどぼくは耳馴染み無い黒田の曲。今夜のベストだった。個々のソロもさりながら、二人のロマンティシズムががっちり噛み合った。
ソロ回しを超えて、互いのソロでぐんっと引っ張るような場面も幾つか。この路線で純粋に聴き込んでみたい。
"予知夢"はin-Fでのみ演奏、今回が3回目という壷井の作品。
"Spirits of the
lake"に増して、重厚な雰囲気に。リバーブやディレイでぶあつい響きを出した。互いに明確なリズムを刻まず、フレーズの符割で流れを作るため、場面展開が柔軟に変わった。
最期は壷井の"Left
Window"で賑やかに。溌剌とソロを。
黒田がバイオリンからソロを受け取った瞬間、リフ中心のプレイから一気にメロディを雪崩れさすのがスリリングだった。
アンコールは止まず、壷井の"Ripple"。たおやかに演奏がまとまった。
黒田と壷井のアンサンブルは互いに破綻させず、じわじわと構築しあう。どちらも場を崩してまで爆走は無い。端正にまとまった。もっと疾走しあう場面も次は聴いてみたい。 互いの美しい世界感が折り重なる一方で、ダークなアレンジも平然と両立する。二人のテクニックがきれいに立ち上る、充実したライブだった。
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