LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/7/18   新所沢 Swan

出演:山口コーイチ+磯辺潤
 (山口コーイチ:p、磯辺潤:ds)

 もともとの告知は「渋さ4」。行きがけにネットで見たら辰巳光英はトラで横浜らしい。もしかしたらピアノ・トリオな渋さかな、と楽しみに行った。

 店に入るとウッドベースが置いてない。・・・あれ?
 時間を押して山口コーイチと磯辺潤がステージにスタンバイした。ハンドマイクを山口が持つ。
「ええと・・・辰巳さんは今夜は出られず。連絡がこちらへ届いてませんでした。
 不破さんはトラブルで吉祥寺に。今夜は到着するかわからず、『デュオでやって』とのことでした」
 
 なんとまあ。無造作にアップライト・ピアノの前へ座った山口がいきなり弾きだす。
 決して激しくはないが、グルーヴィに。やがてうっすらと"犬姫"のテーマが浮かび上がった。
 不破が不在のセットながら、律儀に渋さのレパートリーを演奏した。

 磯部のセットは1タムシンバル2枚。シンプルなセットでおもむろに叩き出した。
 ステージを引っ張ったのは、全編を通して山口。みるみる額に汗が噴出し、顎からすべり落ちる。しまいにはまつげからも汗を滴らせた。

 きれいに和音を響かせるピアノ。音を埋め尽くさず、スペースを作って緩急を出す。
 磯部がいわゆるリズムを刻まぬため、独特の空白が生まれた。
 ごつっと粘っこいピアノは、やがて柔らかく変貌する。しかし叙情へ立ち止まらず、フリーに向かった。さまざまな表情をピアノで山口は表現した。

 磯辺は対極的に奔放なドラミング。にこやかな表情だが、リズムとは別ベクトル。改めて彼の個性が興味深かった。山口の音を聴きつつ、即座に音数を変える。バスドラやハイハットを踏みつつ、いわゆるビートは刻まない。かといってパーカッション的なアプローチでもなく、太鼓で歌うのとも微妙に違う。
 どう表現したらいいんだろう。単音楽器をまとめて演奏、だろうか。ソロ的なフレーズではドラミングが融合するが、無造作に叩いてるときは、ユニークなアプローチだった。

 それだけにひときわ、山口の真摯さが際立つ。背を丸くしてピアノへ向かい、次第にクラスターも混ぜ始めた。
 あえて渋さのレパートリーを弾きつつも、それに寄りかからない。いつしかアドリブに突き進んだ。音数少ない和音をフレーズで飾る。コードの響きが気持ちいい。
 無節操に疾走せず、ときおりテンポをぐっと下げて。山口は黙々とピアノを奏でた。

 やがて磯辺のペースが上がってくる。派手なソロへ。山口は手を休めドラムに委ねた。
 しばらくでかい音で叩きのめすドラムに。やがて鍵盤へ指を落とす山口。かまわず磯辺は叩き続け、するりとマレットへスティックから持ち替えた。
 山口のソロが再び。指先や手首を使ったクラスターを頻繁に打ち出す。しかし常にメロディアスで情緒を残す。ファンクなグルーヴィ一辺倒でもないジャズを聴かせた。

 各ステージ、メドレーで1曲。ソロを奏でていたピアノのフレーズから、うっすらと"ナーダム"が浮かんだ。けれども山口は明確にテーマを提示しない。
 あくまで即興の味わいのひとつとして、テーマの旋律を滲ませるにとどめた。

 磯部はブラシに持ち替え、強打を混ぜる。このバランス感覚で、ぐっと二人のアンサンブルが近づいた。
 スティックに持ち替えても、サウンドは一体感を持つ。ときおり刻みを入れる磯辺のドラムとピアノが向かい合った。

 山口のピアノが高まったところで、唐突に切れる。ピアノの蓋へひじを乗せ、山口は磯辺を見つめた。
 そのままドラム・ソロへ。くっきりとグルーヴをもって、磯部が盛大に叩きだす。小節感覚が希薄なドラミングだが、シンバルとタムを組み合わせた一直線なドラミングがかっこよかった。
 1stセットはそのまま幕。休憩へ。約50分くらい。

「・・・ええと、二人です」
 後半セットの冒頭、山口が苦笑して挨拶。結局不破は来れないみたいだ。

 今度も山口が口火を切った。丁寧に音を出してゆき、いきなり"ひこーき"を。ドラムの静かな響きを踏まえ、ときおり和音や飾りのフレーズを入れつつ。ゆったりしたテンポで、美しく山口は"ひこーき"を奏でた。
 しかしソロはすぐに違う世界に向かう。"ひこーき"はイントロだけ、みたいな感じ。
 すぐにアグレッシブなクラスターが放出された。

 とはいえクラスターも一要素。本質的に山口のピアノは旋律を大切にしていた。
 パーカッシブな強打のときも、フレーズ感が常に残る。
 ダイナミズムの表現のひとつにクラスターを使っていた。後半では数度、ざらりとグリサンドも混ぜた。
 あっというまに汗が吹き出す。

 磯辺のドラミングは後半、柔軟さを増した。明確にパターンを刻まぬスタイルは保持しつつ、タムとシンバルを組み合わせた響きが繋がり始める。
 山口の音を聴きつつ場面ごとに、がらりドラミングを変える瞬発力はそのままに、独特のビートを提示するときも。

 中盤でピアノが猛烈に盛り上がる一方、別のタイム感で磯辺も強烈なドラムを。
 二人の即興が同時進行で疾走するさまがスリリングだった。今日のライブでベストの瞬間。

 山口のフレーズはテーマを感じさせず、あちこちに向かう。常に歌わせつつ。
 途中で一瞬、渋さの曲らしきフレーズを匂わせたが、タイトルを思い出せず。

 ピアノの独奏になる場面も。磯辺はにこにこしながら山口を見つめる。やがて、再び叩き出した。

 たっぷりと激しいデュオを聴かせたところで、ふっと山口のピアノが柔らかくメロディを奏でた。
 "本多"だ。
 バラードのように、柔らかく、優しく。
 ときおり、フレーズを崩して。
 磯部も静かにシンバルを叩く。そのままピアノの音が消え、そっと着地した。

 思わぬ編成のライブとなったが、面白かった。改めて山口の無骨でロマンティックなピアノの魅力を堪能できた。

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