LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/7/17  大泉学園 in-"F"

出演:黒田京子トリオ
 (黒田京子:p、翠川敬基:vc、太田惠資:vln)

 インエフでのライブは今夜で60回目だそう。1stセットはなんとなく張り詰めた雰囲気が漂った。
 前半は完全即興、後半は曲。黒田京子トリオの魅力を二つの側面でくっきり示した。

 1stセットは太田惠資が普段と位置を変え、鍵盤のすぐ横に座る。クラシックの弦楽三重奏だと、この配置が一般的らしい。
 ちなみに2ndセットはいわゆる定位置で、バイオリンがステージの中央へ。色々と試してたようだ。

<セットリスト>
1.即興#1
2.即興#2
3.即興#3
(休憩)
4.Link
5.valencia
6.道に迷った小鳥(LOS PAJAROS PERDIDOS)
(アンコール)
7.Walts step
8.With you

 (1)は30分近く、続く2曲は10分程度のインプロ。まずバイオリンとチェロの短いフレーズの重ねあいから。そっとピアノが鍵盤へ指を落とす。今日はピアノの演奏がよく見える位置に座ってたため、色々と興味深い点があった。

 1stセットの表現は振り幅大きく。フレーズやスペースの受け渡しも、ゆったりしてた。緊密なアンサンブルだが、瞬間を惜しんで切りあわず、優美に互いの音を踏まえた演奏だった。
 ハイテンションで疾走はない。かといってソロ回しとも違う。ときおり譜面物と思わす、さすがの構築度でメロディアスに進んだ。
 
 太田のさまざまなアプローチがまず耳を惹く。ソロをきっちり取る一方で、場全体の雰囲気に合わせ緩急を出す。さらに自らが場面転換を匂わす場合と、場を踏まえ音楽を変える場合、双方があった。

 (1)ではイントロが終わったところで、太田は何音かのモチーフをさりげなく奏でた。チェロが異なるフレーズで応え、ピアノは下から力強く支える。
 翠川敬基はエンドピンが一瞬ズレ、顔をしかめた。チェロを支え直しつつピチカートで進行。

 チェロの音量ダイナミズムは今夜も広い。なかなかソロを取らず、ベース的なフレーズが多かった気が。もちろん特殊奏法や高音の早いフレーズも交えつつ。
 途中でチェロとバイオリンのデュオとなり、弦の応酬も存分にあった。
 
 太田は場面によって素早く弱音器を着脱する。
 がっつりカントリー色強いアドリブで煽ったときは、そこから場面は一気にジャズっぽく変わった。
 黒田京子のタッチが、するり硬質に変わる。シカゴあたりのごつごつしたフレーズでグルーヴィに進んだ。チェロが音数少なめのベースで盛りたてる。

 ひとつのパターンが延々と続きはしない。誰かのきっかけで、場面はくるくると変わってゆく。
 ピアノのソロを全面に出し、弦の二人はピチカートやコル・レーニョに。
 太田は弓の背でリズミカルに弦を叩く。アクセントの位置や符割のパターンを意識的に変えていた。
 そのなかで太田の演奏は4拍子を明確に感じる。黒田はいくぶん、小節線を跨ぐようだ。翠川は拍子感から自由にフレーズを膨らませ、それでいて三人のノリは滑らかに一致した。

 (1)〜(3)まで、すでに記憶がごっちゃになっている。
 翠川の鋭いベース・パターンが聴けたのは、確か2曲目。1弦開放を指で強くはじき、すかさず残る弦をまとめて勇ましく刻む。あのひとときは、ゾクゾクくるかっこよさだった。
 ちなみに太田も複数弦を同時に奏でる場面が(1)でよく聴けた。

 (2)は重厚な雰囲気で。(3)はアグレッシブなアプローチだった。
 黒田は力強い旋律で場を引っ張った。バイオリンもチェロもぐんっと広がる。

 どの曲もエンディングが急転直下。たしか(1)と(2)は静かに、(3)がコーダのようなアレンジだった。即興で三人の空気が折り重なるにまかせ、音楽は着地した。
 (2)がとりわけ鮮烈ながら、どの曲も異なる濃密さの表現な即興だった。

 後半セットは翠川の"Link"から。太田が曲紹介、空白が生まれる。一呼吸置き、黒田が静かにイントロを奏でた。
 バイオリンとチェロがメロディを。なんとなくチェロの符割りが揺れてる気がした。

 1stセットより、ピアノが一段と輝いた。
 演奏するさまを見ていたら、右手と左手、低音と高音をフルに使ってフレーズ作りを改めて実感した。鍵盤のタッチはあくまでも柔らかい。指全体が鍵盤へ吸い付くよう。
 自由に、豊かにピアノが鳴った。ペダルを使い分け、残響を響かす場面もきれいだったな。

 鍵盤上に指があっても黒田が押さえるとは限らない。場面ごとに瞬時の選択がなされていた。
 リフを奏でる一方で、時に腕を交差させ旋律が展開。右手が和音を押さえて左手が低音でソロを取り、次には左のアルペジオを踏まえて右手が優美にメロディを紡いだ。
 さらに曲中で鮮烈なフレーズを投入し場面転換も。"Link"や"Valencia"中盤で、黒田が提示した風景が新鮮だった。

 ピアソラの"道に迷った小鳥"はイントロで弦の二人がたっぷりと、楽器の高音部で鳥のさえずりを聴かせた。
 即興部分では、翠川のフレーズがきれいだった。中盤でしずしずと、やがて力強いソロに。1stセットでは場面ごとにぐんっと全面に出る一方、後半セットは穏やかな立ち位置で、より記憶に残った。

 中盤を太田がきっちり緊張感漂わせつつ、場面転換する。メロディを吼えつつバイオリンを弾き続けたのはここか。
 エンディングは不協和音をチェロ中心に取り込み、転がるようにエンディングへ向かった。

 そのままアンコールへ突入。
「富樫雅彦さんの曲です。タイトルは、聴いてのお楽しみ」
 太田がMCの横で、すでに翠川はピアニッシモでフレーズを重ねていた。
 ロマンチックに即興が進む。エンディング・テーマで、ピアノとバイオリンの重なりが素敵だった。太田は二回目の繰り返しで、ぐんっと高らかにテーマを歌わせた。

 最期に、もう一曲アンコールを。
「2ndアルバム録音のときも、他の二人が弾いてくれないんです・・・」
 黒田がぼやくとそ知らぬ顔で二人が応える。
「いや、この曲はピアノがメインでしょう」

 滑らかに、しずしずと。ピアノがイントロを奏でる。キュートな旋律が、ふくよかに広がった。ワンコーラス終わったところで、黒田が二人を見る。もちろん、二人は楽器を構えてもいない。あーあ、って表情をして見せた黒田は、さらに曲を進ませた。
 改めて、黒田が視線を投げる。では、と太田がにやり微笑みながらバイオリンを構え、同時に翠川も音を出した。
 このやり取りは、ライブでないとわからないだろう。ピアノの独奏から弦二本のアレンジに、違和感は何もないから。

 太田から翠川へ。短いソロが受け渡され、テーマで着地した。22時半を軽く回る、たっぷりなボリュームのライブだった。

 黒田トリオの結成4年。長いのか、あっというまかはわからない。瞬時の展開と豊潤さは変わらない。しかし三人の音楽は変わり続ける。上手く言語化できないが、1stセットの即興を聴きながら、色々頭にイメージがめぐっていた。
 2ndの曲ものが、ひときわ安定と斬新さ、両側面の演奏だっただけに、1stセットの緊迫感が印象深い。

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