LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/6/21 西荻窪 音や金時
出演:太田+Nicholson+田中
(太田惠資:vln,Todd
Nicholson:b,田中徳崇:ds)
初顔合わせ、太田惠資の仕切りによるトリオ。選曲も太田のようだ。太田が仕切るジャズは、意外と珍しいかも。
田中徳崇はシカゴで活躍。Todd
Nicholsonはニューヨークのハードコア・ジャズで活躍と、サイトに記載、って演奏前のMCで紹介する太田。ぼくは二人を聴くのは初めて。ニコルソンはビリー・バングらと競演歴があるそう。
曲とインプロ、ほぼ半々の構成。MCの感じから、太田は継続性ある活動を視野に入れてそう。ぜひ続けて欲しいユニットだ。
ライブはまず、ニコルソンの曲から。太田は青いエレクトリック・バイオリン、ニコルソンはウッドベース。田中は1タムのシンプルなセットだった。ライド・シンバルはリベットつき。
初手は、いきなりフリージャズ。パルスのようなビートが溢れた。
<セットリスト>
1.Dream(Something)?
2.即興#1(first
contact)
3.Oriental Shuffle
4.即興#2(Blue violin in
Istanbul)
(休憩)
5.即興#3
6.Masarascope
7.即興#4
8.Capital
hill
田中はリズムを刻まぬドラミングが持ち味だろうか。ハイハットは踏むが、手では叩かない。最初はブラシ、途中からマレット、そしてスティックに持ち替えて、スネアやタムをせわしなく鳴らす。
4拍子とうっすらわかるが、混沌が突き進む。ニコルソンはアルコを使ったかな。拍の頭が掴みづらい。
やがて太田がテーマ。とたんに柔らかく優しいメロディが奏でられた。
フリージャズの切りあいとも違う。フロントをバイオリンがつとめ、リズムは疾走。鈍く力強くニコルソンが弦をはじき、休み無く田中が叩き続ける。
ソロ回しも派手に無く、太田のソロがじっくり披露された。一曲目は短め。数コーラスの太田ソロから、滑らかにテーマへ戻った。
中盤やエンディングでフリーなのに、テーマでいきなりスムーズな世界感へ移るのがユニークだった。
2曲目は太田の提案で即興。またパルス状のビートがドラムからばら撒かれる。
しかしベースもバイオリンも素直にリズムへ絡まない。ニコルソンは独特のタイム感で弦を震わせた。バイオリンはドラムが拍子の頭を曖昧にするぶん、むしろくっきりとフレーズで流れを作り出す。
3人のグルーヴが成立する一方で、なんとも不安定で面白いサウンドが提示された。
田中は休み無く叩き続けるが、パワープレイ一辺倒ではない。バスドラが鳴り響き、ハイハットが揺れる。最初はせわしなくタムやスネアを叩きまわっていた手も、シンバルやリムをうまくかみ合わせた。
大きなウッドブロックらしきものをスネアに乗せ、叩いたのはここだったかな。
ドラム・ソロではとたんにリズムがつっこみ倒す。前のめりで激しいスティックさばき。
しかしテーマを常に意識させ、フィルで歌わせてる気がした。確かにラッシュするソロだが、基本のテンポには、すとんと元へ戻った。
ちなみに即興#1と#2のタイトルは、演奏後に太田が命名したもの。
(3)はジャンゴ・ラインハルトの曲。太田の前置きから始まった。
「これ、お二方が好きかわからないけど・・・色んな曲をやってみたいので」
それまでフリーに軸足置いてたニコルソンが、どうアプローチかと思いきや。とたんにオーソドックスなランニングで音楽を膨らませた。田中もハイハットの刻みを混ぜる。
アドリブはバイオリンから。ニコニコしながら、太田は楽しそうにソロを紡ぎ続けた。
ソロがニコルソンへ回る。骨太のタッチで、音数は少ないながらふくよかなメロディを提示した。
1stセット最期の即興は、太田のリフから。ディレイを使って、ほんのりパターンをループさせる。様子を伺うニコルソンと田中が、すぱっと二人で同時に切り込むさまがかっこよかった。
こんどは一転、スペース広く空間を使ったアンサンブル。太田はバイオリンを弾きながらアラビックに歌っていた。
オリエンタルな即興が心地よい。田中は大きなカウベルを持ち出し、リムにこすり付けていた。
休憩挟んだ後半セットは、即興から。スティックでリムを連打するビートを使ったのが、ここだったかな。細かい記憶があやふや。
太田がアコースティック・バイオリンに持ち替えたソロも、この曲だった気がする。
「この顔ぶれなら、どんな曲でもできそうな気がします」
微笑んだ太田が選んだ次の曲は、自作"マサラスコープ"。これが面白かった。
太田の軽快なイントロに、田中とニコルソンは様子伺い。アイコンタクトで促したベースが入ると、とたんにサウンドの足元が不安定になった。
この曲、暖かい安定感の和音だけれど。ベースはあえてはずし技で加えてる様子。
どこまでもアンサンブルの響きが落ち着かず、ふわふわと漂った。
ソロが回るとベースは一転して落ち着いた響きに。中盤で太田がテーマを崩しながら再び戻ると、またもや音像は軽やかに宙を漂った。
次の即興はどんどん濃密に鳴った。即興#3あたりから感じてたが、音を重ねるにつれ三人の呼吸が合ってゆく。
スペースの取り合いが滑らかになった。冒頭からのポリリズミックな展開は残したまま。
太田とニコルソンはあえてドラムのパルス状なビートにあわせず、独自の進み方をする。正確に言うと太田はときおりあわせようとするそぶりあり。しかしアドリブが盛り上がるにつれ、立会いが微妙に揺らぐ。この緊迫感が醍醐味か。
即興#4は、エンディングのバイオリンが凄まじかった。赤バイオリンに持ち替えた太田は、そっと弓を弦にあててディストーションの効いた響きを搾り出す。ベース・ソロのときだったかな。
ボリュームは抑えたまま。不定形のノイズがかすかに店内へ漂う。せっかくなら耳をつんざく轟音で、音を出して欲しかった。
太田がときおり出すハーシュ・ノイズのアプローチが、ドラムとベースのグルーヴに混ざって、とびきりスリリングなひとときを提示する。ぼくにとって、あの瞬間が今夜のベスト。
最期はもういちど、ニコルソンの曲を。やはりフリーな展開が、テーマでは一転、くっきりなメロディに変わる。これがニコルソンの個性か。
前後半、即興と曲の両面から充実したライブを披露した。貪欲にさまざまな要素を飲み込み、即興を貫いたジャズと感じた。
太田が手ごたえを掴んだならば、ぜひまたトリオでライブをやって欲しい。太田流のジャズが、明確な形になるのでは。