LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/5/29  西荻窪 Binspark

出演:不破大輔セッション
 (不破大輔:eb、立花秀輝:as、鬼頭哲:bs、斉藤良一:eg、岡村太:ds,しも,ふる,たかこ:舞踏)

 Binsparkにて月一ペースで行ってた、"不破大輔の日"。この日が最後になるはず。地底新聞には出演者が「うんじゃらげろ」としか書いておらず。ここではさまざまな組合せでライブをやっていたので、どんな音楽か楽しみに行った。
 店に入る前、看板見てびっくり。予想以上に多い人数だ。

<セットリスト>
1. ?
2.股旅
3.犬姫
(休憩)
4.サリー
5.リトル・ウィング
6.ナーダム
7.仙頭

 まず岡村のカウントで曲が始まる。PAを通してでかい音を出す。フロント2管でも体感は分厚い響きだった。
 ちなみにいきなり曲が中断。不破がモニター・スピーカーの音を消すようスタッフへ頼み、仕切り直して始まった。
 (1)は鋭くシンプルなメロディをサックスが奏でる。聴き覚えあるような気もするが、タイトルが頭に浮かばず。
 フロアはスタッフがこまめに照明を操作する。ストロボ効果やライト色の変化を素早く変え、ドラマティックなステージ空間を演出した。

 今夜は小編成を生かし、たっぷりとソロが紡がれた。この曲では立花のソロ。最初はメロディアスにぐいぐいと旋律がスピーディ展開し、最期はフラジオで軋ませる。しょっぱなからスリリングなソロが飛び出した。
 鬼頭、斉藤とソロが続く。鬼頭はリフやフレーズを生かしつつ、じわっとフレーズを解体するような感じ。ちょっと短め。
 斉藤はペダルを踏みながら、音色を歪ませ奔放に弾き倒した。
 猛然とドラムも疾走する。ハイハットはまったく叩かない。しかし強く踏み続ける。岡村のペダル操作で、二枚のハイハットがまるで波のようにゆらゆら揺れ続けた。

 これらアンサンブルを、この曲だけでなく全ての曲で、強靭に支えたのが不破のベース。凄まじくかっこよかった。
 片足をいつの間にか靴下姿で、せわしなくリズムを踏み続ける。エレキベースを足に乗せ、おもいっきりグルーヴィに弾きまくった。

 岡村の刻みよりも、不破のリズム感が耳に飛び込む。リフを繰り出し、さりげなくフェイク。さらに高音部を軽やかにはじいたと思えば、再びリフの連発へ。
 自由にベースを操り、音数の多少にかかわらず、常にノリをがっしり確保する。
 だからこそ、ときおりブレイクでベースを弾きやめるときの浮遊感がひときわ効果的だった。

「"股旅"をやりましょう」
 不破がメンバーに告げ、岡村が5拍子のカウントを。このあともその場で不破が曲順を決めていたようだ。
 スピード感はあるが、涼やかな印象のアンサンブル。今度は鬼頭が最初のソロだったかな。滑らかなフレーズを重ねる。
 やがて入り口から、ふるとしもが現れた。しもがふるを背負って、だったか。
 演奏は続く。背負っていたふるを降ろして、しもは身体をダイナミックにくねらす。二人とも白塗り。毛もじゃのウィッグをかぶり、ふるは下穿きのみ。しもは目に隈取り、何枚か羽織っていた。

 鬼頭のソロが続く。ふるは降ろされた姿勢のまま、動かない。
 ステージ中央で、端に置かれたビール瓶の上で。しもは激しく踊り続けた。にこやかな笑みを顔に貼り付けて。
 
 ソロは社長に代わる。鬼頭はカウンターのほうへ身体をずらし、パンディロを手に取っていた。今度はクリーンな音色でソロを。
 舞踏はふるも踊り始めた。笑顔を中心に大きく表情筋も動かした。
 しもとふるはステージ中央で絡み合う。互いのウィッグをかきあげ、まきつけ、女性が鏡の前でヘアスタイルをいじるような仕草で。女性的な動きをデフォルメして、異様な存在感を表現した。

 "股旅"は思いっきり長尺で演奏。舞踏とソロを存分に楽しめた。
 エンディングがスパッと決まる瞬間、舞踏も見得を切るようなしぐさ。そのまま袖へいったん消える。
 曲は"犬姫"に。演奏前にコード進行を斉藤が確認してたのがおかしかった。

 ゆったりしたギターのイントロから。小さく、ベースとドラムのみが音を重ねる。
 しみじみと、メロディは崩されながら元へ戻ってくる。センチメンタルで、どこかトロピカル・ラウンジっぽい。クリーンな音色のせいか。安定感って意味じゃなく、異世界を思わせる不思議な風景だった。

 たっぷりとギターのソロとも言える、イントロ。
 ホーンも加わる。ふるが黒いワンピースを着て、袖で表情をせわしなく変える。何かを語りかけるかのように。
 立花の鋭いアドリブが宙を切り裂いた。
 不破が合図し、一気にブレイク。無伴奏で、アルト・サックスのソロが響き続けた。

 2ndセットはいきなり不破がリフを。訥々と繰り返される。
 テーマを2管が朗々と吹く。てっきり観客だと思ってた女性が、いきなりステージ前で踊りだす。すっごく驚いた。
 私服のまま、ゆったりしたワンピースで顔をすっぽり覆う。ソロが続く中、静止と躍動を組合せ、激しくたかこは舞った。やがてビールケースの上で身体をくねらす。
 
 鬼頭のソロが素晴らしかった。メロディとフリーク・トーンの両方をハイテンポで噴出させる今夜の立花とは対照的に、鬼頭は穏やかな印象。丁寧にテーマを吹きながら、和音を解体・再構成するように、じっくりとアドリブを展開させた。
 メロディを積上げ、スケール大きな世界をバリサクで鬼頭は表現した。

 たかこの舞踏は一曲で終わり。不破が紹介し、そのまま観客として演奏を聴いていた。 曲は"リトル・ウィング"に。切なげ、しかしパワフルに。
 不破のベースがサウンド全体を、確実に引っ張っていく。岡村のドラミングが激しさを増すたびに、ベースの力強さがひときわ明らかになった。

 ふたたびしもとふるが登場。布をかぶったしもは客席スペースまで踏み込んで、笑顔を張り付かせたまま歩いていく。しもはベールのように顔の前へよしずの切れ端を垂らした姿で舞った。

 ソロは斉藤が大爆発。歪ませた音色で疾走し、最期はストロークの連発。げらげら笑いってひっくり返りそうになりつつ、ソロを強引にまとめた。
 すかさず不破のベース・ソロが始まる。もっとも今夜はドラムとベースのソロは少なめ。
 どの曲か失念したが、岡村のソロは1曲あり。ロールともパターンともいえるようなドラミングを無伴奏で聴かせた。
 不破は完全な長尺ソロは、ほぼ無し。ただし曲の途中でメロディをぐいぐい叩き込む、刺激的な場面は存分にあった。高速速弾きこそなかったが、ベースがどの曲でも活き活きはじけてたのは確か。

 熱演たっぷり。曲が終わったときは、全員が息たえだえ。
「次は"ナーダム"かな、と思うんだけど。"火男"と言っちゃいそうな自分がいる」
「どっちにしても、また汗かきそう」
 不破の呟きに応えたのは斉藤だったろうか。

 朗々と"ナーダム"のテーマ。2管なのに勇ましく広々と響いた。立花と鬼頭のなせる技か。
 下穿き姿になったふるとしもは片足を上げバランスを取る、同じポーズで見得を切った。この曲では同じ動きと、別々の舞を混ぜる振り付けが混在し興味深かった。大きな動きをする二人の背には、汗が一面に噴出していた。

 "ナーダム"でもソロ回しはたっぷりと。立花が、鬼頭が、社長が。ソロが終わるたびに2管はフロントへ戻って、テーマをもう一度繰り返す。華やかに。
 弛緩する間もなく、濃密にアドリブとテーマが奏でられた。

 大きな拍手の中、不破がメンバー紹介。そして、"仙頭"を。いったんギターを置いた社長が、慌てて構え直した。
 客席のたかこも含めて舞踏の三人がスピーディに舞台前を走り回る。
 ストロボ照明のなか演奏が炸裂し、エンディングへ。

 渋さチビズやマン2での渋さ劇場とも違う、小編成でのアンサンブルの魅力にやられた。音数が限られてるのに分厚く、小編成ゆえの長尺ソロを堪能できる。さらに舞いもダイナミックで聴覚だけでなく視覚でも大量の情報量を提供する。間近で舞うさまの刺激は凄かった。
 この編成での"リトル・ウィング"もすっごく良かった。素晴らしく素敵でグルーヴィなライブだった。またこういう顔ぶれでのライブもぜひ聴いてみたい。

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