LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/5/1  大泉学園 in“F”

出演:黒田京子+鬼怒無月
 (黒田京子:p、鬼怒無月:g)

 心地よい。一言でまとめてしまうけれど。そんな、演奏だった。
 このデュオは数年ぶりらしい。今夜は黒田が鬼怒へオファーした形、のようだ。

 コンセプトは鬼怒が弾いた事がなく、メロディがきれいな曲、と開演前に急遽決まったそう。一曲を短めで、各セット6曲づつの構成だった。
 今夜のレパートリーはほぼ、黒田が選曲。速いテンポの曲はほぼ無い。でもアドリブを取るときも、鬼怒が譜面をずっと見ながら演奏していた。

 MCはほとんど無し。曲紹介もあえて割愛する場面も。たぶん、スタンダードがずっと続く選曲だったから。とはいえメロディが聴き覚えあるのに、タイトルを思い出せない・・・セットリストは割愛させてください。

 なお今夜はスタンダードを手馴れたソロ回しで演奏、とは逆ベクトル。テンポもゆったり、メロディは滑らか。しかしスリルに満ちている。
 なぜかと聴きつつ考えてたが、わからない。テクニックなのか、解釈なのか。改めてジャズの魅力に惹かれた夜だった。

 一曲目からタイトルを告げずに、黒田は鍵盤へ指を落とす。ピアニッシモの静かなフレーズから、ゆったりと世界が広がる。今夜のピアノは表面を薄くデコレーションで飾るような、繊細で暖かな響きだった。
 ピアノのイントロはやがてコード進行を明らかにする。響きを聴いてて、あ、聴いたことある・・・とタイトルに頭をめぐらせていた。

 ピアノのテーマからギターにメロディが受け継がれる。エレアコを構えた鬼怒はピックを口に咥えて、指弾きから。ふんわりした響きは、ピック使いのくっきりした輪郭に変わる。
 改めて鬼怒のセンスにやられた。ピックと指弾きをばっちり使い分け、多彩な表現を示す。
 1曲目はほんの少し鬼怒がソロを取った程度で、あっさり終わってしまう。
 あとで曲名紹介があった。ジョビンの"コルコバード"。

 2曲目はMCを挟まず、鬼怒のイントロから。エレアコのまま。冒頭の和音使いがやけに日本風味。アドリブ部分ではブラジルっぽい風景も頭に浮かんだ。
 この曲はソロ回しを数度、じっくり互いのソロを聴けた。ピアノがぐいぐいフレーズを歌わせる。
 ヘンリー・マンシーニの曲。タイトル紹介したが聴き取りそびれた。

 黒田のダイナミックなピアノは、とても魅力的だ。もとより黒田はギター・ソロのときでも単なる伴奏は弾いてない。
 ギターがソロを取ってるとき、ピアノの符割ががつっと絡む。その瞬間のスリルが素晴らしかった。

 鬼怒の伴奏はボリューム調節から。音数を減らしや、ピックから指弾きに変えたり。
 後半セットでエレキギターのカッティングとピアノのアンサンブルも凄かった。

 続いてモンクを2曲続けて。どっちもメロディ聴き覚えあったが、タイトル思い出せず。こればっかだ、今日は。
 鬼怒はエレキギターに持ち替えた。今度はエフェクターも使って、表現力に幅がさらに増える。

 3曲目はチョーキングの多様にしびれた。ぐいっと豪快なチョーキングがしみじみきれいだ。
 4曲目のイントロは一転して硬派。クリムゾンを連想するアプローチだった。
 アドリブではディストーションやディレイ、ペダルを使い分け響きにバリエーションを持たす。ツッコミ気味なテーマの符割解釈が、硬質なムードを強調した。

 3曲目のピアノは特に、表現の幅が楽しかった。冒頭は高音部の鍵盤を強く叩き、ブギっぽいビート感覚。これがスインギーに変わり、次第にジャズの年代変遷を辿ってゆく。
 中盤ではクラスターめいたフリーな速弾きも登場。身体を大きく揺らし黒田はピアノを弾きまくった。

 ほぼどの曲も、黒田が曲の進行をさりげなく合図していた。アイコンタクトやハンドキューを使い分けて。
 ギターの独奏は何曲かのイントロやコーダであったのみ。ピアノは常に存在感を保つ。
 ピアノはグルーヴを保ちつつ、フレーズや和音をさまざまに浮遊させた。
 繊細なタッチはフォルテッシモでもキープ。寛ぎつつ、油断させない。
 ソロ回しはギターの比率が高し。もっとピアノのアドリブも聴きたかったな。

 5曲目がエリントンの"Prelude to a kiss"。鬼怒はエレアコへ持ちかえる。
 黒田からイントロ独奏を提案され、「はいっ?」と尋ね顔。そのまま弾かず、黒田が笑いながらイントロ弾いたのは、この曲だったか。

 弾きなれない曲だとやりづらいのか、鬼怒が奔放に弾き倒すって方向性とは違う。速弾きもほとんど無し。じっくりとフレーズを紡いだ。
 一方の黒田は譜面をほとんど見ない余裕こそあったが、同じくどこか緊張感が漂う。
 溢れてくる音楽はとてもリラックスして寛ぎを感じるのに。不思議だ。

 1stセット最期のみ、鬼怒が持ち込んだ。フォスターの"Hard times come again"。以前よく弾いていた、好きな曲だそう。
 エレキギターに持ち替え、初めて立って演奏した。
 ブルージーなギター独奏から。黒田が耳を傾ける。テーマのあたりで、ぽおんとピアノが加わった。
 ギター・ソロはたっぷりと。チョーキングとビブラートの使い分けで、メロディを饒舌に揺らした。

 後半セットはほぼ全て曲目紹介を割愛。どんどん演奏を披露した。
 まずチャーリー・へイデンを2曲。"Silence"と、あともう一曲。後半セットも鬼怒はアコギとエレキを曲で使い分けた。
 豊潤なメロディをじっくりと二人は膨らませた。

 次にエリントンを3曲、かな。有名曲ばかりなはず。メロディは聴き覚えあった。
 たぶん"In A Sentimental Mood"も演奏したと思う。エレキギターのビブラートで表現する、メロディの溜めがいかしてた。

 最期はしずかに締めた。鬼怒はアコギかな。黒田がアドリブをじっくりとる中、ハーモニクスをぽおんと響かせる静かなタッチのギター伴奏が記憶に残る。
 ラストは爪先でぎぎぎっと、弦をこすりあげた。
 
 もちろん、アンコールあり。ちょっと相談した二人は演奏に戻った。
 鬼怒はエレキギターで、"ダニー・ボーイ"を。鬼怒のリクエストらしい。
 しみじみと演奏された。カントリー調なギターと、ジャズを感じさすピアノのからみが興味深かった。

 「よいお休みを!」
 大きなボディアクションで、黒田が挨拶。しかし拍手は止まない。
 奏者はいったん店外へ向かったが、さらにアンコールへ応えてくれた。

 曲調が似てるかも、と黒田が前置きして選んだ曲が、オスカー・ピーターソンの"Hymn To Freedom"。
 エレキギターは高らかに弾き、ピアノが穏やかに受け止めた。

 静まり返った店内に、ジャズがたゆたう。美しいソロと、奔放に動き続けるバッキング。
 明確にどちらかがソロのときも、相方の演奏は油断ならない。スリリングだが、流れる音楽は常にグルーヴィで穏やか。
 とても、素晴らしい演奏だった。

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