LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/4/18 新宿 Pit-INN
〜大友良英 3 DAYS "5つのトリオ":ENSEMBLES
2(休符だらけの音楽装置)開催予告イヴェント〜
出演:大友良英+Incapacitants、大友良英 + 梅田哲也 +
毛利悠子
素晴らしく楽しい。CDや映像では体感が不可能なパフォーマンスだった。
全ての日、かつ各セットが異なる組合せな編成で披露する企画(最終日2set目はカルテット)。今日は初日。
椅子は通常の数出てたが、立見でいっぱいの動員だ。場内に入ってびっくり。
中央通路は立ち入り禁止。4メートルほどのロール紙が床に這わされ、客席後方の床にあるカラープリンターへ繋がっている。
紙の反対端へは小さなスピーカーが置かれ、静かに音程が上下するノイズが流れた。ロール紙の隅に貼ったコンタクトマイクから、音を拾っていたのかな?
トリオ1:大友良英 + 梅田哲也 + 毛利悠子(楽器名表記不能)
20時10分頃、3人がステージに現れる。
「45分くらいやるはず。なにが起こるのか、ぼくらもわかってません」
大友が挨拶して、パフォーマンスの開始。そもそもステージ・セッティングから変わっていた。
ステージには毛利が座る。梅田は客席の右側中央、観客に囲まれたスペースに。机の上へ各種の機材を置いた。
大友は客席右後方、トイレ前に座る。大きな太鼓とエレキギターを置いてたようだ。
すなわち満席状態だと、物理的に全てのパフォーマンスを体感不可能。見えないから。
多分今日は150人くらい入ったはず。だが一体何人が、演奏する全てを観察できたろう。
もっともそんなに欲張らず、発生する音場を素直に楽しんでたみたい。
全てが同時進行。しかし時間軸で記すのも難しく、奏者ごとに書きます。
最初に音を出したのは毛利だったろうか。もっとも彼女は楽器は一切無い。ノートPC一台と、横に置いたスキャナのみ。
スキャナの読み取り部分へ、スナック菓子をばら撒いた。フォークでスキャナの読み取り部分をつつくと、スピーカーから小さなノイズが出る。微妙に音程感あって面白かった。
菓子を食べながら、スキャナを読み取らせる。蓋を押し付けた。スナック菓子が乗ったまま。
PCを操作。プリンターが動いた。前へ。ずずっと。
仰天した。観客がどよめく。こういう仕掛けか・・・。
プリンターは台車へ乗せてあり、張り渡した長いロール紙が牽引道具となる。
つまりプリンターが印字し紙を吐き出すにつれ、長い紙の端に向かって、中央通路をプリンターが進行する仕組み。
印刷されたのはスキャナーの画面。菓子がばら撒かれた画面がカラーで表示された。面白い。
途中で毛利は幾度も、プリンタの様子を見にきた。たぶん、うまく操作しなかったんだろう。しかしチェックする行為そのものも、パフォーマンスと受け止めていた。
そして印字された紙。そのものが、ドラマを見事に作った。
印刷された画面は2回ほどうまく行った。菓子がばら撒かれた構図、次は上に人形が乗ってたかな。3回目は途中で止まってしまう。
しばらくして毛利が誤動作に気づき、プリンタを再起動。いったん、印刷済の部分を切った。はさみとともに印刷済の紙は、通路へ置かれたまま。
なおもプリンタはうまく動作せず。紙の同じ箇所を執拗に印刷し続けた。
毛利の再調整で、再びプリンタは前に進む。
吐き出された紙は、繰り返し印字され続けた特定部分のみ、表面にインクがべっとりと垂れ落ちた。妙になまめかしい風景だった。
時間が立つにつれ、黒光りするインクが次第に乾いてゆく。時間の経過を見事に表現していた。
おそらく狙ってはいない。しかしその光景は、きれいだった。
毛利はプリンターの上へレタスみたいなのを次にぶちまけ、フォークで食べてゆく。操作はスキャナと印刷指示のみのようだ。
次はイチゴを並べたのかな?スキャナの蓋をぐいぐい押し付け、潰してるさまを読み取る。残念ながらこれらの場面は印刷風景を見られなかった。
スピーカーへともあれプリンタが近づくにつれ、ノイズが高まっていく。紙につけられたコンタクト・マイクで振動を増幅してるのか。
途中で、スピーカーごと落ちてしまう場面も。首をかしげるそぶりで、あれこれ操作。 梅田や大友が音を出していたが、それでも毛利のスピーカーが回復するまでは、"無音"の雰囲気を強烈に感じた。
彼女のスピーカーが演奏前から音を出し続け、ドローンで意識に刷り込まれていたためか。
最期に2画面ほど印字。チップスの撒き散らされた画面に、人形を幾つか配置した構造をスキャンしていた。
まるで落ち葉のなかを歩く人のよう。鮮烈なイメージに惹かれた。
さて、梅田のパフォーマンス。なおぼくの位置では梅田が何をやってたか、いまひとつ見えませんでした。
置かれた機材は水の入った大きなボウル。横にキャンプ用コンロ。大きな空き缶を高く繋げたもの。そこへワニ口クリップを挟む。
小さなファン。その上に風船をぷかぷか浮かべていた。
あとで見たらウズラの卵の殻や小さなビンなども転がっていた。なんに使ったかは不明。
梅田は毛利に輪をかけて楽器とは違うものを操作した。子供が理科の実験をしてるかのよう。ときおり響く音はPAを通してたのかな?
なお、今夜のフロアは基本的に暗闇。毛利が使うプリンタのうえに大きな白熱灯が乗せてあったのと、客席後方の大友へスポットライトがあたるくらい。梅田にはときどきランダムに、スポットがあたっていた。
まず梅田は蝋燭を出す。火をつけて横に置いた。びりびりと響くノイズは、小さなスピーカーを水の入ったボウルに漬けてるためのようだ。
横に置いた缶へ挟んだクリップから、ときどき青白い火花がばちっと飛ぶ。
無造作に風船が、ファンの上で浮かんでいる。よく飛んでいかず、絶妙の動きで風船が浮かんでるなあと思いながら見ていた。
なんだか細長い棒を使って、ボウルの中をかき回したりしてたみたい。何をしてたか、よくわからず。ぷうん、となにやら説明しづらい匂いが漂ってくる。
コンロに火をつけて、缶を梅田は熱し始めた。中に何か、入っていたのかもしれない。 きちんとパッケージされた機材じゃなく、手作りな感じ。
すなわち、微妙なスリルがあった。
何をしてるか、わからない。何が起こるか、予想も理解も出来ない。
音を出す、とどこまで意識してたかも不明。ワニ口クリップの火花もランダム。水没スピーカーのノイズも操作を試みていたのだろうか。
そして、大友。彼も非常にユニークなポジションを取った。ぼくの位置だと大友はほとんど見えず。
まず、太鼓の音。ずどん、と鳴らした。
次にエレキギターを構え、フィードバック。小さな音でドローンを出し、やがて音量アップ。しかしまた、静寂に。
間をゆったりとりながら、大友は電子音を操った。
譜面台の楽譜を見つつ、マイクへ口を寄せる。
大友は呟き声をのせた。合間に、ギター。訥々と弾き語りが始まった。
最初の声はほとんど聴き取れず。ちょっと歌を聴かせた部分は、フォーク・ソング。
歌もほんのしばらくの間のみ。かがみこんでエフェクターを操作(?)し、ノイズを出した。
このあいま、フロア右後方から鐘の音が幾度も聴こえた。鉄琴かな。
一体誰の操作だろう。スタッフかな。
音楽らしきアプローチは大友のみ。もちろん旋律や構成は皆無に等しい。
一度大友はギターを抱えて、客席右後方へ。生音で少し、弾いた。観客に囲まれて、立ったまま。
とても面白かったのが、観客のほとんどが大友へ注意を払わなかったこと。
みな、毛利や梅田・・・いや、特定の奏者ではなく、場の雰囲気に集中してたようだ。
大友が客席左後方で演奏してるのに、すぐ近くの観客すら大友へ視線を投げない。あるいは見ないように、だれかから指示でもあったのか?
ギターを弾き、歌っている場面ですら、観客はほとんど大友へ視線を投げなかった。
毛利のパフォーマンスはどうクライマックスをつけるのか、興味しんしんだった。
梅田や大友が時間経過とは異なるベクトルの演奏をしていただけに。
大友は9時近くなると音を止めた。首を伸ばし、二人の様子を伺う。
毛利はある程度プリンタが進んだところで、そのまま終わってしまう。
ふと気づくと、彼女はステージから去っていた。
次に梅田がコンロの火を消して、舞台から消える。
それを見届け、大友が終了を告げた。大きな拍手。
(休憩時間)
1stセット終わった流れで、大友のMC。今年夏に予定されたイベントに向けた宣言文のA3コピーを配布した。200枚ほど準備したらしい。
ぐるっと客席を回って撒いていく。
「思ってたより大変だ・・・本当はライブ中に撒こうと思ったけど、雰囲気でもないし」と、笑う大友の声が聴こえた。
ちなみに今日配布は誤字等あり、2日目以降に撒くものとバージョン違い。レア物(?)だそう。
宣言文の内容はとても興味深い。文章も、企画の内容も。開催が楽しみだ。
「さて、片づけだ」
ひととおり宣言文を撒いた大友は、ギターを持って客席を通りステージに。
すでにインキャパの二人がセッティングを開始していた。
トリオ2:インキャパシタンツ(美川俊治 + 小堺文雄)+ 大友良英
9時半頃開演。まずインキャパがハーシュ・ノイズをばらまく。大友はエレキギターをかきむしった。小堺が大きく身体を揺らした。
思ったよりボリュームが小さい。あの倍くらい出して欲しかった。
インキャパはボルビトマグースのTシャツを揃いで着ていた。美川は野球帽を目深にかぶる。
機材はそれぞれ台にのせ、ひとまとめ。美川は先日聴いたデュオ・セッションと似た感じ。サンプラーなどかな?ごついLEDランプがピカピカ光る機材が目に付く。あとはコンタクトマイクらしきものへ声を叩き込んでいた。
小堺はずいぶん久しぶりに聴く。よく見えなかったが、機材にマイクやカオシレイターみたいなのを繋いでたようだ。
冒頭こそ手元の機材をいじっていたが、あとは長いコードを使って客席内も含めて徘徊する。あのマイクみたいに口元へ近づけてた箱は、なんだろう。昔のウォークマン並みにでかく四角い金属の箱。
咆哮をぶち込むだけでなく、二つを交差させノイズも出していた。
前述の通りPAはかなり控えめ。もちろん終了後に耳鳴りが残るくらいには大音量だが、高音、特に低音が物足りなかったのは否めない。
せっかくだから分離いい音が聴けるかと期待したが、鋭いハーシュの集合体は変わらず。
客席とステージにも正直、距離を感じた。お行儀よく皆がいすに座って、インキャパシタンツを聴くのは初体験で面白かった。
ちなみに客席の中央通路にも椅子を並べ、観客を座らす。いろんな意味で、これは気が効いていた。ノイズ好きの客が通路を突進、ステージに押し寄せないか少々心配だったので。
もっともノイズのライブ風の盛り上がりはほとんど無し。数人が立ち上がって踊ってたくらいで、あとはたまの歓声くらい。おとなしくゆったり聴けた。いいことか悪いことかわからないが。
したがって最初はいまひとつテンションがあがらない。小堺が身体を揺らし奮闘、美川は黙々と機材へ向かっていた。途中、静かに顔を上げて観客を見る。鋭い視線を感じた。
なお大友はエレキギター一本。ずっと座って演奏した。観客を煽るとか、無茶はせず。
ただしギターは相当派手に扱っていた。ディストーション効いたハーシュをばら撒くのみならず、アンプへ近づけフィードバックを引き出す。
さらに口元へギターを持ち上げ、ピックアップへ吼える。面白かったが、この場面がきちんとPAから聴き取れず無念。
ギターはコードやメロディはまったく意識せず、ノイズ・マシンと扱った。磁石などもピック代わりに使ってたみたい。
弦を引っかきながらペグをいじり、ついには弦を膝へ叩きつけ、鈍いノイズを幾度も出した。
大友もインキャパも起承転結とは無縁の展開。最初から音の質感は変わらず、楽器や機材の変更も無い。しだいにテンションがあがり、そのまま突っ走った。
小堺の動きが次第に前へ出てくる。コードを使いシャウトしながらステージ前方でうろついた。
だんだん美川ものめり込み、ふらふらと宙で手を動かす。マイクに注ぐ声は何を言ってるか、さっぱりわからず。さらにマイクを口に咥え、美川は白目をむいて身体を揺らした。
出てくる音はスピーディ。美川は再び機材へ向かう。
大友はひたすらギターと格闘。ワイルドなノイズを出し続けた。
小堺は幾度も客席の中央通路へ突入。観客へ咆哮し、周りの客がこぶしを突き上げ応えた。
最期のダイビングはどうするんだろ、と思ったら。小堺は自らの機材へ突入。全てをひっくり返して倒れ付した。
そのままハーシュ・ノイズは自然消滅。倒れ付した小堺をそのままに、大友がインキャパシタンツを紹介し、ステージを去った。
時間を置いて、小堺がむっくり立ち上がった。
大友のアプローチはストレートにインキャパに合致し、爽快なノイズ合戦に。
30分強のステージ。相性よく音が溶ける。音量が控えめなぶん、綺麗なハーシュを聴けた。最期の盛り上がりもばっちり。もっとロック系のハコでも、この組合せを聴いてみたい。