LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/4/12   新宿 Pit-INN

出演:Blacksheep
  (吉田隆一:bs、スガダイロー:p、後藤篤:tb)

 昼の部公演。中央に吉田が座り、ダイローと後藤が左右から挟む格好。
 開演時間を10分ほど押して、まずダイローが現れる。鍵盤の上で音を出さず、指を動かしていた。後藤はトロンボーンのバルブを抜いて潤滑油をさす。
 そして最期に吉田が水の入ったコップを手に現れた。

 吉田がメンバーを紹介、ライブの幕開け。まずダイローが静かに、鍵盤を奏でた。

<セットリスト>
1.切り取られた空と回転する断片
2.星の灯は彼女の耳を照らす
3.牧羊犬の夢の続き
4.時の触感
(休憩)
5.星の街
6.風を待つアスファルトの夢
7.すべて世は事も無し
8.アーク灯の夢
 
 全て吉田の作曲。繊細でクールなメロディ、ロジカルでグルーヴィ。独特の色合いで彩られた作品だった。
 このライブでは吉田が寡黙。前半は曲紹介のみ、後半もほとんどMC無し。なんだか意外。いつも喋るわけじゃないのか。
 
 ダイローもタッチは柔らかで、ときおりクラスター風に疾走はするが、基本は指弾き。ちなみに後半セットでスケールを高速で駆け抜けるフレーズあったが、ほとんど右手3本指のみで弾きこなしてびっくり。和音以外は薬指と小指をさほど使わぬ、独特の指使いだった。

 BlacksheepはCDのみで、ライブは初体験。ミニマルなグルーヴがCD(ライブ録音ではあるが)よりも生々しく感じた。
 展開は吉田が軽くサインを送る。バリサクを持ったままアイコンタクトだけでなく、さりげなく指を立てる仕草も格好よかった。

 (1)はいきなり20分弱の長尺。ピアノが静かに雰囲気を作ったところで、バリサクとトロンボーンがタイトにテーマを決めた。
 しゅっ、と鋭い音を後藤が出す。循環呼吸のように吹いてロングトーンを出してるようだ。

 一気にバリサクがワイルドに吼え、ソロへ突入。
 アドリブは微妙にソロ回し的な配置はあるものの、同時進行で動いた。
 ピアノがリフを作る横でトロンボーンがフレーズを奏でる。やがてピアノがフェイクを始めたらバリサクが低音の刻みに回る。

 さらにポリリズミックな要素も多分に感じた。ピアノとバリサク、時にトロンボーンも違うタイム感で動き多層性を作る。
 なおピアニッシシモの白玉で音がかすれ気味な場面、例えば2nd最終曲のエンディングなどは、もうちょい滑らかな音色が好み。

 CD収録曲とその後の作品が半々くらいのイメージ。
 (2)はその場で曲順を決めたのかな。1曲目が終わったところで、吉田が無言で譜面を取り出す。タイトルを言わずに、二人へ楽譜を示して演奏に突入した。

 (3)は"牧羊犬の夢"って曲の"続き"だそう。"時の触感"はリトアニアへツアー時に作った作品と言う。
 たしか(4)のイントロでピアノ・ソロ。クラシカルな展開に吉田が大きな笑顔で、手を振ってダイローを煽った。

 この曲ではピアノの無伴奏ソロが秀逸だった。和音がふわふわと漂い、リズミカルに重なった。ダイローは右足でステップを踏むように動かしながら、ペダルを踏む。
 コードが軽やかに膨らみ、右手指が高速でフレーズを連ねた。

 バリサクはテーマ、アドリブ、リフと場面ごとにくるくる表情を変えた。トロンボーンが比較的アグレッシブに動く一方で、バリサクはどこかクールさを残す。
 時に譜面をきっちり見つめながら、絶え間なく吹き続ける。どの曲だったかな・・・エンディングの高音域を使ったメロディは、フラジオで鳴らしてるように見えた。

 後藤はソロだと豪快にベルを震わす。一曲目から数種類のミュートなどを使い分けた。
 大きな吸盤のゴム部分を片手でベルの前でかぶせて音色を変え、次に大きなミュートを半挿しでバリバリと響かす。
 歯切れ良いフレーズをたくみにばら撒いた。

 前後半とも1時間くらいの演奏。(5)がポリリズミックな展開だったかな?降り注ぐ三人の音が積み重なってゆく。メロディはどこか切なく、物悲しい。SF的な風景を、なんとなく頭に浮かべながら聴いていた。

 リズム楽器がいないけれど、Blacksheepは完全フリーに拡散はしない。どこかがっちりとビートを念頭に置き、ミニマルに盛り上がる。酩酊感を微妙に覚えた。
 平たく言うと、時々うとうとしながら聴いていた。のめりこむほど、だんだん頭がぼおっとしてくる。フロアが冷房で寒かったせいかな。

 猛烈に盛り上がった(7)を踏まえ、最期は(8)でしっとりと。
 ふうわりと三人の音が膨らみ、柔らかく着地した。
 改めて思うに、曲タイトルに"夢"が多い気がする。これは何か、コンセプトに関係する意味合いを持っているのだろうか。

 ともあれBlacksheep独特の世界感をいっぱい味わえたライブだった。さらにセットリストはCD以降の作品も投入され、既に次のステップへ進んでいる。ピアノも含めて低音アンサンブルが持つ、太く豪快なパワーをミニマルに押さえ込み、ビートで開放する。
 かといってフロア対応のダンサブルさは志向せず、あくまでロマンティックな構築性を感じた。吉田の個性をきっちり凝縮、非常に興味深いサウンドだ。また聴きたい。

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