LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/4/9   新宿 Pit-INN

   John Zorn Special Night
出演:ジョン・ゾーン+巻上+大友+オルーク
 (ジョン・ゾーン:as、巻上公一:Voice,theremin,etc.、大友良英:g、ジム・オルーク:g,synth,etc.
  飛び入り:天鼓:vo)

 ひさしぶりの来日公演、東京では当夜のみ。各セット入れ替え公演の両方がソールド・アウト、当日券も出なかった。1stセットの椅子席は6列ほど。2ndセットに向けてドラムセットが後方に幾つか並ぶ。ステージに向かって右手がオルーク。一番左が巻上、大友の順。そして中央にゾーンが立つ。
 時間通りに客電が落ち、ミュージシャンが現れた。ゾーンは髪を短く切り、昔の精悍なイメージにもどった。

 ゾーンはすっと左足を、椅子へ乗せた。その腿にベルを押し付け、アルトでピアニッシモのロング・トーンを始めた。いきなりフラジオだったかな。循環呼吸で、喉と頬が大きく膨らんではへこむ。
 大友はエレキ・ギターを構え、俯いてドローンを。おそらくオルークも音を重ねたと思う。巻上はテルミンに手を載せつつ、低く軽快に唸り始めた。

 おそらく全てがインプロ、4〜5曲やったろうか。ゾーンは椅子に置き、左足を乗せたまま吹く。アンコールの数分以外は、全て乗せっぱなしだった気がする。よく疲れないな。冒頭でかなり長いドローンを。やがて猛烈に吹き始めた。

 ある意味全員が、並列で自分の音楽を提示する趣き。それぞれに個性あって面白かった。
 大友はきっちりと世界感を出す。エレキギターを使って、ドローンや倍音を綺麗に響かせた。クリップや金属板をときおり弦に挟み、びりびり響かせたりフィードバックを引き出す。幾度かは弓で弦を大きく弾いた。
 機材はエレキギター1本のみ。
 たしか2曲目の冒頭で、大友は膝にエレキギターを置いて弓でじっくりこする。それを横から、ずっとゾーンが見つめていた。

 逆に巻上は全体像を見据える視野の広さを感じさせた。テルミンをセットし、上にカオシレイターらしきものを置く。
 喉や唇を巧みに操り、独特のボイスを奔放に響かせる。強烈にシャウトしないかと期待したが、全般的にダイナミクスは控えめ。
 ゾーンの音世界と調和しつつ、独自の音楽性を見せた。いっそもっと、派手に暴れて欲しかった。
 
 テルミンはスピーカーからの出音が小さく、ちと聴こえづらい。ボイスを繰り出しながら、小刻みにカオシレーターの打面を指先で打ち鳴らしてた。
 腕の鋭い振りでテルミンを操るさまもかっこいい。ステージングは見ててもっとも楽しかった。

 オルークは逆に、完全マイペースを見せ付けた。ギターの前にシンセ(EMS?)を起き、横にさまざまな機材を色々。
 シンセが影になり、何を演奏してるかも良く見えなかった。フィードバックやエレクトロ・ノイズを出していたらしい。
 強いチョーキングや、素早いストロークも見せていたが、いかんせん音がいまいち聴こえない。

 ギターは持ち続けず、シンセと格闘する場面も。ハーモニカにマイクをつけ、ノイズを出す場面も。その楽器変更も実に鷹揚。演奏のスピード感に頓着せず、ゆったりなそぶりだった。
 何曲目かではスネアの響き線を出す。構え終わったところで、演奏終了。ところが慌てず、次の曲冒頭で無造作にそれを使っていた。しかもイントロのソロ的な場面で。
 音像との調和とか流れを、あまり意識せずに自らの音楽を提示した。

 オルークはどこか演奏冒頭で、シンセをあちこちいじってノイズを出す。それが失敗なのか意図的かも不明。
 それをゾーンがおどけた顔で「おいおい・・・」と大友らに肩をすくめて見せる。気づいたオルークが視線を投げると、ゾーンはにやりと笑うシーンも。

 そしてジョン・ゾーン。さすがの貫禄。他のメンバーの音をかまわず、それでいて破綻しない。きっちり全体の音楽を構築する。
 ステージ後半の数分以外は、メロディはほとんど吹かない。アルトサックスから悲鳴をあげさせ続けた。しかしメロディ感覚はぎりぎり残す。
 
 1曲目が約10分。ドローンを数分やった後は、激しい出音に。循環呼吸を駆使し、タンギングの嵐に呆然となった。
 テクニックを惜しまず即興を組み立てる。ぶかぶか、と唇全体でタンギングするような鈍い響き。指使いをさまざまに変え、フラジオを高らかに。彼のフラジオはとても綺麗だ。ぼくにとって数少ない、滑らかな響きを出せる一人。

 舌を回転させてるのか、高速タンギング。指使いとあわせて、超高速のフレーズが噴出す。息を吸うようなそぶりで、甲高い音を搾り出す。
 奏法にぶっとんだのが、低音の倍音を出しつつ、高音フラジオでフレーズを組み立てたとき。2曲目の終わりくらいだったかな。
 あんなことがサックスで出来るのか。一人アンサンブルを平然とゾーンは提示した。しかも数分くらい、みっちりと。

 ちなみに1曲目が終わったところで、ゾーンはリード交換を。古いリードを横において、ケースから抜いたリードを無造作にマウスピースに指す。リガチャーを締めておしまい、みたいな大雑把さ。ほんとかよ、と思って見てたら。

 演奏は他のメンバーに任せる。ゾーンはその横で椅子に座って、神経質にマウスピースとリードの位置を合わせ続けてた。やっぱりなあ。
 とはいえマウスピースはネックに刺したまま。指先でリードの先端を押し、マウスピース先端との位置関係をあわせ続けてる。硬いリードかな?なんか、すごい。
 しばらくしてゾーンも演奏に加わる。まずはロングトーン。そしてハイテンションの吹きまくり。ここでも僅かにフレージングを感じさせた。ひとしきり慣らしたあとに、フラジオの奔流へ突き進んだ。

 3曲目あたりでデュオに。ゾーンと巻上、大友とオルークで1曲づつ。
 ゾーンと巻上は鋭い視線が飛び、巻上のボイスとテルミンが冴え渡る。
 一方の大友とオルークはシューゲイザー・スタイル。もくもくとドローンを作った。

 4人揃っての演奏に。ドローンの全員イントロから、ゾーンのメロディアスなサックスに。マサダほど激しくは無いが。さまざまな自らの魅力を、1時間のセットで全て見せ、なおかつ即興の鋭さや方向性にブレを感じさせない。
 演奏だけでなくステージ構成力の見事さを、今夜のゾーンではつくづく思った。

 最期の曲で飛び入り、天鼓を客席から呼び出す。
「邪魔だよね」
 日本語で言ってゾーンはマイクを横へ置き、天鼓をステージ中央に立たせた。
 
 まずゾーンと天鼓のデュオから。低く声を絞り出した天鼓は、次第にシャーマニックに盛り上がる。高らかに吼えはじめたあたりで、全員の音が加わった。
 ゾーンはマウスピースをはずし、ネックへ直接唇をつけて鳴らした。

 巻上はボイスでなく、口琴。せわしなく幾つかの口琴を持ち替えてた。
 聴きたかったので嬉しい。こういうツボをきっちりはずさないところ、ゾーンと同じバランス感覚が素敵だ。もっともPAのからみで口琴は聴こえづらかったが。

 きっちり1時間のステージ。高らかにゾーンがメンバーを紹介した。
 アンコールの拍手にもきっちり応える。静かに始まり、スピーディなインプロを数分。
 爆音や即興が破綻するほど傍若無人なステージじゃない。豪華な顔ぶれをずらりそろえたコラボであり、ある意味で期待にきっちり応えた即興だった。予想外はオルークの奔放さくらい。
 しかしスリルはきっちりあり。ゾーンのサックス技術もたっぷり披露。濃厚で味わいいっぱいのライブだった。

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