LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/31   西荻窪 音や金時

出演:太田惠資+吉田隆一
 (太田惠資:vln,Voice、吉田隆一:bs)

 今夜の"ややっの夜"のゲストとして、一週間ほど前にブッキングされたという。
 "ややっの夜"の趣旨をたちまちに把握してすごい、とMCで太田が驚いていた。
 ハナシガイ状態でMCがほとんどのライブかな、と楽しみに予想して行った。

 ちなみに今夜は太田が開演時間を過ぎる頃に慌しく登場。セッティングを手早く済ませる。どうやら打ち合わせまったく無しで始まった。
 
 前口上の前から、吉田はステージに上がってる。太田は説明しかけたが、結局そのまま客電が落ちた。
 太田にピンスポットがあたり、手に持った小さなラジカセのスイッチを入れる。今夜もグラッペリの曲が流れ、幕が開いた。

 まずは演奏を促す太田。
「えー、おしゃべりしましょうよ」
 と、ハナッから楽器へ手を伸ばさず、喋りモードの吉田。まずは一曲、と即興から。
 ちなみに今夜は前半4曲、後半が3曲かな。全て即興。合間にたっぷりと喋りが入った。

 ほとんど止まらずに吉田が喋りまくる。太田は途中で唖然としてて可笑しかった。気を使ってか、ときおりチラッと太田は楽器に視線を投げるが、吉田のMCはまったく止まらない。
 前半セットは雑談があちらこちらに。血液型の話から8月のライブのブッキング相談まで、とっちらかり状態。客席から笑いが絶えず。
 後半では先日の月光茶房でのセッションの話から吉田の音楽観、そして自らのバックボーンなど。MCはシリアスで聴き応えある、興味深い話にも広がった。
 なお吉田曰く、母や祖母は自分よりもっと喋る、とてもついていけない、とか。

 1stセットは演奏が終わったら間をおかず、太田が喋りを続けるって構成。拍手を挟む余地無し。ひとつながりに喋りも含めてセッションが続いた。
 後半セットは一転して、曲の終わりに拍手のスペースあり。

 喋りと笑いが止まらぬMCと対照的に、演奏はがっつり濃厚なインプロが連発だった。

 1st最初は青のエレクトリック・バイオリンで、太田はディレイかサンプラーでたちまちループを重ねてゆく。おもむろに吉田がバリトン・サックスをひと吹き。
 ぼぉん、ととてもきれいな響きが、残響を持って店内に広がった。

 特に1stセット前半の演奏で聴けた、バリトンの音色が美しくて好きだ。芯があって、ふかふかしてる。
 1stセット最初の曲はバイオリンにメロディ・ラインを委ね、リフをバリトンは着実に刻んだ。

 次の曲は冒頭にフォルテッシモでバイオリンがひと吹き。太田がびくっと身体を動かす。
 炸裂するバリトンの響きが、次第にリフへ変わってゆく。そこへ確かアコースティック・バイオリンで太田が絡んでいったと思う。
 前半2曲は互いの立ち位置を確認しあうような印象。メロディをバイオリンがほとんどつとめた。

 一転して3曲目はバリトンがメロディへ。赤エレクトリック・バイオリンに持ち替えた太田は、オクターバーで低音を出してループさせる。
 バイオリンが刻みを多用し、今度は吉田が前面に出て吹きまくった。今夜はほとんどフラジオやトリッキーな奏法を使わず、ストレートにバリトンを鳴らす。
 立ち上がって長身の身体を使い、バリトンをダイナミックに操りながらかっこよく吹いていた。

 1stセット最期は、すたすたとステージの後方へ。
「しまった、何も考えてない」
 ぼやいた吉田は、音を出さずバリトンを左右へ大きく振り回し始めた。
 バイオリンが弾き出したころマウスピースをくわえた吉田が、断片的に吹く。
 ときどき単音を響かせ、ほわんっと残響を空中へ残した。
 この即興ではメロディをバイオリンに任せ、それこそバリバリと吉田が吹きまくった印象あり。

 いったん休憩を挟むが、吉田は観客の一人と話し続ける。結局15分かそこらで、客電がついたままなし崩しに2ndが始まった。
 喋りながら吉田が身体を動かすと、腰掛けてた椅子がキイキイと音を立てる。
 それをきっかけに、その椅子に捧げた曲をやろう、ということになった。

 これが、抜群に素晴らしい名演。聴いてて、ぐいぐい心を揺さぶられた。
 ステージの中央に、腰掛けてた椅子がひとつ。それを太田と吉田は見つめながら演奏する。コミカルな絵面だが、流れるメロディはとてつもなく美しい。
 ほんのりブルージーで切なく。途切れずに柔らかなメロディがバリトンからあふれ出る。
 いったんは終わるかと見せかけて。太田がすかさずアドリブを引き継ぎ、充実した旋律を溢れさす。エンディングの間をおかず、店内に大きな拍手が轟いた。

 2ndセットの2曲目、もしくは3曲目は、すみません、記憶を辿っても出てこない・・・。喋りが面白くて引き込まれたのと、1曲目の印象があまりに強烈だったせいか。
 なんとなくロジカルで硬質なアンサンブルだったような気がする。

 最期は太田の提案で、アラビックな世界を。エレクトリックを持って、太田がソロを始めた。
 軽くペダルを踏んで、リズム・ボックスのビートを店内に広がらす。吉田は興味深げに耳を傾けていた。
 リズムに乗ったメロディが高まったところで、太田がさらにペダルを踏む。

 無音。
 どうやら機材トラブルらしい。太田が慌てて機材をいじる。リズム・ボックスが調子悪く、別のエフェクターからはノイズが轟く。いきなり調子悪くなったらしい。
 吉田がビートを保持するかのように、大きく掛け声をかけ始めた。
 
 太田は幾つか機材をいじるが、あきらめて別のアプローチを取った。
 掛け声を吼える吉田がバリトンでリフをばら撒く。太田はアラビックな即興歌をうなりだした。
 バリトンはメロディに軸足を置き変える。バイオリンとインプロのぶつかり合い。吉田はトライバルなファンクを猛然と吹きまり。この曲もすごかった。

 エンディングも太田のリクエストで、吉田がステージに残ったまま、クロージング・テーマを。
 大きく礼をして、静かに暗転した。

 なお。ライブが終わったらそのまま吉田は客席の中央に座り、観客全員を相手に喋りの続きを。アンコールというのかな、こういうのも。
 喋りもたっぷり、演奏じっくり。理論を感じさす場面と、場の赴くままイメージを膨らます場合と。インプロの立ち位置もさまざまで楽しい。すっごく寛げ、味わい深かった。

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