LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/30   大泉学園 in-"F"

出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p、翠川敬基:vc、太田惠資:vln、飛び入り:出口煌玲:龍笛)

 2ヶ月ぶりに聴く黒田京子トリオ。開始時間は20時を軽く回った。
 2月に体調を崩してた翠川は70%くらい復活したそう。
 チェロは時にボウイングを強く、ビブラートをさほどかけず演奏してた印象あり。

 冒頭はいきなり、即興から幕を開けた。
 穏やかなスタートから、次第にテンションが高まる。ついには激しいフリーの応酬。ひしゃげた響きの高速テンポで3人が同時に疾走する。猛然たる幕開けだった。
 黒田は大胆に高速フレーズを鍵盤の上から下まで使って弾き倒す。
 いきなり太田の弓は毛が幾本も切れていた。

<セットリスト>
1.即興#1
2.リンク
3.あの日
4.Check I
(休憩)
5.ゼフィルス
6.即興#2(+出口煌玲)
7.ベルファスト
8.May 3rd
(アンコール)
9.For you

 1stは翠川の作品を固めうち。"Link"はしっとりと始まる。太田は冒頭でちぎれた弓の毛を使って、弦を静かにこすった。
 黒田が鍵盤へそっと指を落とす。滑らかな音楽が広がった。いわゆるソロ回しは無いが、場面ごとに音の主役が移り変わる。
 チェロがふくよかにメロディを紡ぎ、バイオリンは高らかに旋律を奏でる。そしてピアノはしっかりと、しかし丸い音色でフレーズを取った。
 テーマは崩され、やがてもういちど繰り返された。

 "あの日"はチェロが無伴奏でイントロを取る。やがてピアノが加わった。
 太田と翠川がデュオで音楽を重ねる。メロディをバイオリンが取り、チェロは下から支えた。黒田は鍵盤の上で、音を出さずにゆっくりと手を振る。
 1stセットではこの曲がもっとも、しみた。胸が熱くなる。ゆったりしたテンポで美しいメロディが奔出する。バイオリンが、ピアノが、チェロが、優しく寛いだアンサンブルを紡ぎあげた。
 
 そして1stセットはテンション高く"Check I"で締めた。バイオリンが強烈にメロディを崩して疾走する。ごしゃっと不協和音のように三人の音が、粘っこくぶつかり合った。
 この日のトリオは輪郭が骨太。いつになくハードなアプローチで、野太いよじりあわされたロープを連想した。
 バイオリンのソロがたっぷりと。そしてエンディングのテーマも奔放に進んだ。

 後半セットは黒田の"ゼフィルス"から。弦の短めなイントロへピアノがそっと、ピアニッシモで和音を乗せる。テーマが折り重なり、バイオリンはビブラートを響かせてソロを取った。
 チェロもおもむろにスペースを取って、大胆で力強いアドリブを披露する。
 ポイントで翠川は、くいっと指を振ってビブラートをかける。普段より少なめ。ちなみに今夜はリフを中心に、特殊奏法も多用せず、おとなしげだった。体調が本調子じゃないせいかな。
 
 2曲目で観客だった出口煌玲が飛び入り。彼の演奏は初めて聴く。太田とはレコーディングで一緒だったことがあるそう。龍笛を操る。この楽器も見るの初めて。木製の横笛だった。
 完全インプロで、まずは出口の無伴奏ソロから。音楽の印象は和楽器の笛。旋律を粘っこく膨らませる。ときおり高音の倍音をたっぷり響かせた。しかし流麗さを常に滲ませるプレイ。
 ひとしきりソロが続く。吹き口だけでなく、指穴にも唇をあてた奏法も使用に見えた。

 トリオの三人はじっと耳を傾ける。おもむろに翠川がチェロを構え、強烈なピチカートを一発。それを合図に太田と黒田も加わった。
 出口は2本の笛を使い分ける。立ち位置は邦楽な感じだったが、一方でどす黒く濃厚なチェンバー・プログレな趣きも。テンション高く出口が吹き続け、ピアノとバイオリンがかぶりつく。
 奔流のようにアドリブのフレーズが絡み合った。

 3人に戻って、梅津数時の"ベルファスト"を。このトリオで聴く、この曲は格別だ。
 太田が変拍子のテーマを滑らかに、たっぷり間を取って歌わせる。一呼吸置いてチェロも加わった。よりゆったりと間を取って。
 中盤の即興では太田の独壇場。ぞんぶんにソロが広がった。

 2ndセットは翠川の"May 3rd"で幕を下ろす。イントロは黒田が鍵盤高音部を軽やかにクラスターっぽく鳴らす。一呼吸置いて、ずしんと低音部を弾いた。
 この曲もアンサンブルの響きが骨太だった気がする。最後は一気に駆け抜け、余韻の一拍を場に残した。

 アンコールの拍手が沸いた。準備してなかったそうだが、黒田の提案で"With you"を。
「その譜面を、今からおれに探せと言うのか・・・」
 分厚い譜面の束を抱えた翠川が苦笑する。太田が手伝い探す間に、黒田のMCで今後の活動を紹介。
 
 やっと太田が譜面を見つける。タイトルが書いてないじゃないか、とぼやく翠川。
 どうやらレコーディングのあとでタイトルが決まり、譜面に書いてなかったようだ。

 まず黒田のイントロから。穏やかで柔らかな雰囲気が、ピアノからたちまち広がる。
 翠川と太田は弾かずに耳を傾けた。おいおい、と黒田が苦笑。おもむろに翠川が、そして太田がテーマを奏でた。

 この曲ではソロ回しっぽい展開。ピアノ、そしてバイオリン。
 いきなり無音になる。
「あ、おれだった」
 慌てたそぶりで翠川が弾き始め、爆笑を呼んだ。

 穏やかなムードで幕を下ろす。そして鋭く熱く優しさがからみ合う即興。
 さまざまな要素を凝縮させ詰め込んだライブだった。

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