LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/29   明大前  キッド・アイラック・ホール

出演:I.S.O.
 (一楽儀光:perc、Sachiko M:sine waves、大友良英:tt,etc.)

 開場時間前から観客の列がずらり。会場は立見客もずらり。70〜80人ほど入ったか。
 フロアにびっしり椅子が並んだ。腰掛けると奏者の手元が見えづらく無念。かといって立ち詰めで聴くのも辛い。悩みどころだが、なんとか腰掛けることが出来た。

 I.S.O.はライブ聴くの初めて。JAMJAM日記によると東京の単独ライブは数年ぶりらしい。
 開演の18時を15分ほど回り、メンバーの3人が無言で姿を現した。それぞれのポジションに座る。
 中央に一楽、向かって右がSachiko M、左に大友。大友とSachikoは足元のスピーカーで音を出し、それぞれ自分のミキサーで調節してたのでは。

 機材に興味あったが、Sachiko Mは小さな箱とミキサー?のような機材で電子音を操る。
 一楽は鐘をスタンドにつけ、弓で縁を引いて倍音を響かす奏法を多用した。他に木の板へ金属の丸棒をつけたものも数個。あと幾つかパーカッションを使ってたようだが、よく見えず。
 大友はターンテーブル1台にもうひとつトーンアームを外付け。横にトイピアノを置いて上蓋をあけて、鉄琴を仕込んでいたかな?コインやU字金具も使ってたようだが、よく見えず。

 客電が落ちて、静寂が広がる。空気が張り詰め、観客の身じろぎの音。
 静かにちりちりとノイズが出る。大友のターンテーブルだろうか。きいんっと空気を震わす甲高い音が、一楽の弓だろう。ぶつっ、ぶつっ。いくどかはじける、鈍いノイズ。
 おもむろにふわり、とサイン波が現れる。一楽の出す倍音と、溶けた。 

 もっとも動き的に面白そうなのが大友。見えなくて残念。
 最初はリード線をターンテーブルに近づけ、小刻みにゆっくりとノイズを出した。

 とても高い音波が聴こえる。空気が震える。耳に聞こえているのか、それとも幻聴なのか。
 外を走る車の音。I.S.O.が出す音と溶けて、混ざる。
 全ての音が、耳に飛び込み情報となる。外から洩れ聴こえる音も、音楽のひとつに間違いそうになる。

 Sachiko Mは背筋をきりっと伸ばし、目を閉じて機材へそっと指を乗せる。激しい動きは無く、厳かにサイン波を操った。
 ときおり鈍い雑音を混じらせつつ、左手で別の機材を操作。音程感は希薄で、ただ電子音が膨らむ。身体を動かすと、音程は一緒だけれど微妙に音の味が変化した。

 唐突に鈍い超低音。大友だろうか。ドローンのごとく、空気がみりみり振動する。
 音量は決して大きくない。しかし、凄みが伝わった。
 断続的な低いノイズ。ターンテーブルのアームを持って動かし、別のノイズを響かす。

 一楽も動きは静か。そっと弓で鐘の端をこすり続ける。みりみりと超高音が刻まれた。
 三人ともリズミックやメロディを意識したアプローチは無い。たんたんと持続性を持った響きを多用した印象あり。
 観客席に音波が染み出し、じっとりと覆ってゆく。
 
 ころんっ、と派手で軽やかな音。
 唐突にでかい響き。
 きりきりと小さな断続音。
 さまざまな音は大友のほうから聴こえてくる。賑やかな音はおそらく、トイピアノへ何かを落としたんだろう。持続音はターンテーブルかな。
 でかい音は、結局どうやって出してたかわからずじまい。

 変化は薄い。が、気がつくと音の風景が変わっている。
 モアレのようにSachiko Mと一楽の音が絡み合い、大友の出すパルスと混ざってゆく。
 陶然な味わいが天井高いキッド・アイラック・ホールのフロアに広がった。
 でかい音は大友がたまに出す程度。聴いてて、朦朧としてくる。

 Sachiko Mは時に右手を機材から離してしまう。左手で微妙に操作しつつ、右指もそっとその上に重ねた。
 わずかな動きがサイン波へどう影響を与えてるのか、耳を澄ましてみる。

 一楽が木の板に丸い金属棒がついたものを手に持った。弓で弾くと、倍音成分が強烈に響く。
 鐘の縁と金属棒、一度に弓で弾く。それぞれの共鳴が強く膨らんだ。
 さらに金属棒を宙に掲げた。弓はこすり、さらに一楽は丸棒をふわふわ動かして、響きを空中に練りこんだ。

 大友はもくもくとターンテーブルと格闘。ごくたまに、ちらりと奏者へ視線を投げる。
 途中でトーンアームを横へ置いてしまい、別の操作をターンテーブルへしていた。ぷつぷつと持続音は、ターンテーブル上に何か載せてたのか。見えなくて残念。
 さまざまな機材を操りつつも、めまぐるしさは感じさせない。鷹揚に大友は演奏をした。

 ふっと大友が音を弱めた。一楽も、Sachiko Mも手を止める。
 空気の密度が濃くなってたのを、改めて実感。
 充満してた音波がフロアからゆっくりと消え去り、静寂が辺りを占める。
 しばらくたって、三人が体から力を抜いた。

 拍手。約1時間、一本勝負のライブだった。

 静かな熱狂。ストイックでシンプルな構成で、細部を丁寧に紡ぎあげた。

 大友が軽く告知。今年は東京で幾つかI.S.O.やイベントがありそう。 
 帰りにI.S.O.のライブ盤を聴き直した。CDでは変化が多く、ポップに聴こえるほど。今夜のライブは音の純度を、きりっと研ぎ澄ませたように感じた。

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