LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/21   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p、オカリーナ)

 アケタの店月例の深夜ライブ。0時15分ごろ、唐突にBGMが絞られ客電が落ちた。
 明田川はピアノへ向かい、無造作にオカリーナを構える。今夜は床へ小さな座布団を置き、4つほど各種オカリーナを準備した。

 軽くぽろんとピアノを鳴らし、オカリーナの独奏を。バロック風にフレーズを重ねた。
 ひとしきり吹いたあと、鍵盤へ指を落とす。身体を曲げて、そっとオカリーナを床へ置いた。

 今夜は全部で8曲ぐらい、80分弱のステージ。セットリストは失念。
 聴き覚えある曲もタイトルを思い出せず。初めて聴く曲も数曲あった。
 
 最初は"マジック・アイ"。ごつごつと、ロマンティックにピアノが鳴り、ずしんっとブレイク。またテーマが再開する。間をたっぷりとって、演奏が進んだ。
 どこか荒々しく、前のめりにグルーヴが高まる。明田川の唸りがかすかに聴こえた。
 ペダルをぐいっと踏み込み、ぐんぐん音がクラスター寄りになる。スニーカー履きの左足は、そっとリズムを取り続けていた。

 アドリブに入ると明田川に独特の、"歌うクラスター"が花開く。ごっつり鍵盤をひっぱたき、激しい指使いでも、音楽は歌っていた。
 フリーなソロからテーマに戻り、またアドリブへ。冒頭から20分近くに及ぶ長尺のソロが沸き立った。
 コーダもたっぷりと繰り返しを入れて、しみじみと盛り上げた。

 2曲目からエンディングまで、ほぼメドレー形式だった。
 まずはたぶん初めて聴く、猛烈なアップテンポ曲。左手が訥々とベースラインをランニングし、右手がめまぐるしくファンキーなフレーズを奏でる。
 テーマがいつの間にかソロに突入していた。
 こんどはピアノのペダル無し。それでも音が充満する。トップギアでピアノを弾きまくった。

 続いてぐっと日本情緒の世界へ。間をたっぷり置いたイントロでじらし、テーマに向かう。メロディ・ラインは聴き覚えあったがタイトルを思い出せず。"侍ニッポンブルーズ"とは違う曲だった気がする。
 一転して豊潤なソロが溢れた。ピアノがどんどん濃密に空間を満たした。
 指をピアノの中へ突っ込み、ざらりとピアノ線をなぞる。侍が刀を持った風景を、ふと空想した。

 次もアップテンポな曲だったと思う。曲が終わりに近づくと、明田川はピアノの上に置いたセットリストを眺め、そのまま次へ。緩急を効かせた構成だった。

 ふっとピアノが途切れ、明田川は大ぶりのオカリーナを持つ。ピアノのペダルで残響を作り、オカリーナをしみじみ響かせた。
 ときおり持ちかえるときも、決してあせらない。間も音楽の一部にした。
 次々と持ち替え、また大ぶりのオカリーナへ戻る。この曲も聴き覚えあったがタイトル失念。
 最期は2音をゆっくり繰り返し、終わりをきっちり演出した。

 そしてピアノに。情感的な曲が2曲続いた。一曲は"黒いオルフェ"だったかもしれない。
 いつしか唸り声は高まり、ピアノと混ざった。
 丁寧に単音でなぞるメロディ、重音で熱く広がるフレーズ。場面ごとに明田川はピアノをぐいぐいと弾く。陶然なソロだった。

 雰囲気はがらり変わって、クラスターに。一瞬、"ブラックホール・ダンシング"のフレーズが現れるも、フリーに呑まれた。
 高音部をめまぐるしく叩いて、低音部を鈍く数音。このパターンは曲だろうか。
 ひじ打ち、こぶし、激しい指先の叩き。数音はピアノ線がはじけ飛びそう。
 強靭なクラスターが連発した次の瞬間、明田川は高音部を超高速で弾きのめす。
 しかしどの瞬間でも、和音やメロディ感を常に感じた。

 顔を真っ赤にし、身を乗り出してひじ打ちを連発。
 普段なら、これがライブのエンディング。しかし今日は違う。
 世界は再び、冒頭に戻った。

 曲も冒頭の曲かな。改めて情感を濃縮した、暖かなピアノ・ソロ。
 テーマからアドリブへ向かう。さすがに今度は短めだったが、改めてじっくりと曲を聴かせた。
 コーダをゆっくりと奏で、指が鍵盤から離れると同時に。
 明田川はニッコリ微笑んで、立ち上がった。

 今夜も素晴らしく熱い演奏だった。特に中盤のオカリーナソロを挟んだ後半は、隙を作らぬ一気呵成さにのめりこむ。
 メロディアスなアドリブから、爆発するクラスターに。そしてエンディングでもう一度、曲。
 あの部分はCDにならないかな。とても充実したライブだった。

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