LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/15   表参道 月光茶房

  〜月光茶房の音会 (第11回) 桜月のふたり〜
出演:太田惠資+ 矢口博康
 (太田惠資:vln,voice,etc.、矢口博康:bs,as,ss,b-cl,g、
  飛び入り:吉田隆一:bs)

 月光茶房の音会も11回目。開演時間を10分ほどまわり、二人がステージへ向かう。向かって右側が矢口のスペースで各種楽器がずらり並ぶ。
 向かって左が太田。マイクが一本立ち、太田はアコースティックとエレキ二種類、計3挺を持ち込んだ。

 今日のライブ仕切りも吉田隆一。二人は競演、ましてデュオでは今回が初めてだそう。 なんとなくの司会役を太田がつとめ、セットリストは数曲の即興などを除いて、矢口の作品を演奏した。
 前半4曲、後半5曲かな。メモを取りそびれたため、セットリストは割愛させて下さい。

 冒頭はミニマルな感触でメロディが漂う。矢口がバリサクで力強く打つメロディは断片ながらポップ。太田はエレクトリック・バイオリンを静かに白玉中心で奏で、エフェクターで多重ループさせ膨らみを出した。
 なんとなく"鉄腕アトム"みたいだな、と思いながら聴いてたが、曲が終わったところで太田が軽くMC。プレスリーの曲だそう。タイトルは言わず。"Teddy bear"かなあ?自信ない。
 ちなみにカバーはこの1曲のみ。どういう脈絡でカバーしたのか、MCで喋ってくれたら面白かったろうな。

 矢口は一曲毎に楽器を持ちかえる。続いてはソプラノ・サックスを吹いた曲だったかな。
 タイトルを告げ、生バイオリンの太田とデュエット。予想以上に今回は譜面的なアプローチが多い。二人の演奏が途中で即興に向かったとしても、ロジカルな符割のフレーズが飛び交った。
 かっちりまとまりつつ、メロディアスな雰囲気。

 次に矢口はアコギを構えた。チューニングの合間に太田が場つなぎ。ちなみに矢口がギターを人前で弾くのは、今日が初めてだそう。
 今日のライブのためにバイオリン用の譜面を起こした、って曲だった気がする。
 アコギはもっぱら刻みに。太田がフレーズを滑らかに奏でた。親しみやすい曲ながら、コード進行は相当凝ってるらしい。
 すいすいと太田のバイオリンが空気を転がる。矢口は訥々と着実に刻みを入れた。

 前半/後半、一曲づつのインプロ・コーナーがあり。
「インプロビゼーション、という曲をやります」
 さりげなく太田が、生真面目に紹介した。
 バスクラを構えた矢口を、エレクトリックで太田は受け止めたかな?じわじわとインプロが高まる。

 この即興もユニークに感じた。
 矢口のアプローチはまさに作曲をその場でしてるかのよう。グルーヴやフレーズが無造作に操られ、抽象的に膨らんだ。
 太田はボイスも入れたっけな?気持ちよく聴いてるうち、いつのまにか曲が終わった。前半は45分ほど。
 
 短い休憩を挟み、後半セットへ。生バイオリンとソプラノ・サックスで矢口のオリジナル、"鉄の船"を。
 矢口の父の思い出を曲にしたそう。
「そう聞くと、弾くの緊張しますね・・・」
 太田が呟く。すぱっと始まったら、途中でサックスの出来に満足いかなかったか、矢口自らストップ。仕切り直しの一幕も。

 矢口の曲はどの曲もきれいだ。キャッチーなメロディをひとひねりし、二人のアンサンブルで過不足なく、きっちりアレンジした。
 ライブを聴き進むにつれ、どのへんが譜面でどのへんが即興かを、あれこれ想像しやすくなった気がする。
 確か"鉄の船"で、バイオリンの速弾きが炸裂。弓の毛を数本ほつれさせつつ、吼えるように猛然たるフレーズが奔流のように荒れ狂った。
 
 東京中低域のレパートリー"UFO"をやる前に、矢口がなにげなくMC。
「昔はそこにいる吉田隆一と散々演奏した曲です。アンコールがもしあれば、吉田くんも楽器持って参加してくれるかな。・・・夜に仕事あるし、楽器あるよね?」
 にやっと笑う。吉田は手を振って遠慮してたが、思いっきり伏線になっていた。

 豪快で強力なバリサクのリフが炸裂する"UFO"。単音をびしっと連打するフレーズが勇ましくかっこいい。
 太田のソロもぐんぐん力がこもる。後半セットは曲ごとの個性が、よりくっきり印象に残った。バリサクの歯切れ良く肉厚な響きが、見事に描かれていた。

 そして後半戦のインプロ。アルトを構えた矢口が、無造作に吹き始めた。今度はR&Bタッチの香りを漂わせて。グルーヴを積上げず、むしろ断片をいくつか。ノリが解体しそうで、ぎりぎり繋げる。
 太田は音を出さず、屈んで見えなくなった。無伴奏のまま矢口が音列を鋭く連ねてゆく。

 すっと立ち上がる太田。軽く身を捩り、エフェクターを踏む。とたん、ずっしりしたリズム・ボックスのビートが、店内を満たした。
 目を閉じたまま矢口が吹き続ける。アプローチは無伴奏のときと大きく変わらぬのに、とたんに世界感へはまる。
 太田はバイオリンを構え、ぐんっとグルーヴィさに軸足置いたフレーズで入った。
 二人のアンサンブルがリズムに乗って、みるみる音像が濃厚になった。
 太田は弓を譜面台へ置き、ウクレレ風にバイオリンを構えて、オクターバーで変調した低音を爪弾く。

 矢口は途中で楽器を持ち替えた。バスクラだったかな?記憶あやふや。
 メガホンを持った太田は、リズミカルに即興言葉を並べ立てる。
 サイレンをメガホンから鳴らし、ベルの先や位置に向きをさまざまに変えて、響きそのものを操った。

 矢口が太田のために書き下ろしたという曲も。まだタイトルすら無し。
 アコギで矢口はバッキングを爪弾く。単なるコードのカッティングでなく、アルペジオのようにフレーズを取り混ぜた。
 これはトラッドのようなアプローチで、ぞんぶんに太田のバイオリンが空気を揺さぶった。
 途中で矢口はギターを置き、ソプラノ・サックスを持ってすっくと立つ。
 ユニゾン的なアレンジで、スピードつけて二人はメロディを奏でた。

 最期はソプラノ・サックスで太田とデュオ。タイトルは言わず。幼稚園児の前で、先般に演奏したら盛り上がったと言う。
「今日はどうかな〜」
 呟いて、矢口が吹きだした。
 こんどはディキシー・タッチ。軽やかさにグルーヴが混ざり、上品ながらいかしてる。 涼やかに二人の音が絡み合った。

 後半は50分くらいやってたかな。いったんは楽屋へ去るが、アンコールの拍手はとまらない。もちろん、伏線も含めて。
 ふたりがステージへ戻ると同時に、吉田が楽屋へ飛んでいった。バリサクを掲げて、吉田もステージに。

 10年ぶりにやるという"UFO"の入り方を矢口と吉田が確認し、太田を挟んで二人のリフが炸裂した。
 中央に立った太田は、耳に飛び込む低音の強烈さにくすぐったそう。
 アイ・コンタクトで太田が吉田へソロを促した。

 どかんとでかい音で吉田のソロ。凄みを滲ませ、パワフルに。フリーキーな響きは押さえ、がっつり男気なメロディ使いだった。
 クロスフェイドのように矢口のソロへ。同じ音域ながら、こんどは鋭さを強調するようなアプローチ。すいすいとバリサクを鳴らしてゆく。
 太田はバイオリンを青から赤に変えつつ、リフを弾いていた。
 赤を構え直し、ディストーション効かせて勇ましいソロを。ハードなアプローチで進む。
 最期も威勢よくエンディング。アンコールにふさわしい、賑やかな演奏だった。

 矢口と太田のアンサンブルは、矢口が次々に楽器変更して華やかな印象あり。粘っこさよりスマートな仕上がりを狙ったか。特にアルトとバリサクの音色が良かった。
 まったく隙が無く、伸びやかに響く。アルトでの微妙なビブラートや音程の扱いが、ひときわ気持ちよかった。
 
 曲そのもので世界感を変えていく構成へ、太田はスムーズに馴染む。さらに独自の世界感を自然に滲ませた。楽譜は苦手とぼやきながら、曲世界に溶け込んで、わずかなスペースも見逃さずにソロを光らす。
 ある意味、プロの鋭さを見せ付ける、とても刺激的で聴き応えあるセッションだった。

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