LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/14  入谷 なってるハウス

出演:明田川荘之Solo+広沢哲
 (明田川荘之:p,オカリーナ、広沢哲:ts)

 ピアノの単音が、ゆっくりとオクターブづつ下がってゆく。D、だったろうか。
 4オクターブ下がったところで、音が増えた。テンポをときおり崩し、メカニカルに。
 次第にグルーヴが混ざって、インテンポに向かった。

 今夜は明田川荘之ソロに、広沢哲がゲストで加わる名義だった。
 ステージ左側に、広沢用の椅子がひとつ。ふたりともノーマイクでの演奏。

 明田川は一曲やるたび、しきりに「熱い、熱い」と連発する。ちなみにTシャツ一枚のシンプルな格好。
 ライトのあたる位置をずらしたり、暗くしても効果が薄いらしい。
 途中から冷房が入る。ぼやくたび、どんどんフロアの温度が下がっていっちゃった。

 冒頭の1曲目はピアノ・ソロで。すぐに唸り声が飛び出す。
 粘っこくテーマを弾いてはすぐに崩した。左手のランニングがサウンドを引っ張りつつ、ぐわっとテンポを揺らす。初手から熱っぽい演奏だった。

<セットリスト>
1.アローン・トゥゲザー
2.クルエルデイズ・オブ・ライフ
3.侍ニッポン・ブルーズ
4.アフリカン・ドリーム
(休憩)
5.ナウ・ザ・タイム
6.テツ
7.アルプ
8.メニー・ア・ボッサ(?)
9.エアジン・ラプソディー

 オリジナルを中心に明田川の名曲をずらり並べた選曲。2曲目から広沢を呼ぶ。
 もっとも今夜はソロ回しみたいなお約束は、ほぼ無し。二人のソロが平行疾走する、豪快なステージだった。

 (2)の前で簡単な曲成立の話を。ちなみにりぶるのマスターは最近、見つかったそう。よかった。
 イントロはピアノ・ソロから。テーマが盛り上がったところで、ワン・フレーズだけテナーがメロディをなぞるが、吹きやめてしまう。あれっと思ったところで、そのままピアノ・ソロへ突入した。

 ひとしきりソロのあと、明田川がちらり広沢を見る。
 とたん、テナーが斬りこんだ。
 すごくかっこいい。豪放にテナーが吼え、長いソロへ。
 最初は伴奏風のフレーズだったピアノは、ぐいぐい手数は多くなる。そのままソロとさほど変わらぬ音使いに。
 しまいには2曲目からいきなり、クラスターがしばしば炸裂。テンション上がって盛り上がった。

 休まずテナーが吹き続け、止まった所でコーダへ。ソロ回しせず、平行進行で終わりに向かう。

 広沢はどの曲でもソロの入り方が抜群。ブルージーかつ大胆に、太い音で吹きぬく。
 曲によってはタンギングをほとんどせず、流れるようにフレーズを歌わせた。
 フリーク・トーンやテクニカルな音の跳躍に飛ばず、メロディアスなソロをたっぷり聴かせる。
 あくまでブルーズやジャズの香りなソロ。ふと思ったが、ロックンロールのソロをやっても、すごく巧そう。

 (3)はイントロがオカリーナのソロ。途中で持ち替えたかな。
 吹いてから間をおかず、ピアノへ。
 明田川がテーマを弾く中、広沢がぱちぽちとタンポを鳴らす。マウスピースを咥えず、無造作にテナーを持ったまま。
 なんとなく刀の鯉口を切るさまを空想した。
 
 この曲でもピアノのソロがひとしきりのあと、テナーのソロに。
 テーマをあわせて吹くシーンもあったかな?ちょっと記憶あやふや。
 日本情緒どっぷりなメロディ・ラインだが、ソロではブルーズがたんまりと、ピアノとテナーから溢れた。
 広沢はどの曲でも吹かぬ時はピアノへ耳を傾け、実に嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 前半圧巻が(4)。これもオカリーナのイントロあり。途中でもちかえたオカリーナは、倍音成分をたっぷり含む。
 ピアノの中へ指を入れ、ピアノ線をざらっとはじく。さらに手のひらで低音部をずしんと叩いた。

 テーマはテナーも加わって。ソロでいきなり、広沢がすっくと立ち上がって吹き出した。
 ピアノとテナーの格闘が始まる。互いの音に反応してそうで、してない。しかしデュオはきっちりと成立。
 互いがフリーに動き、明田川は没入して鍵盤を叩きのめす。広沢もピアノのラインにこだわらず、ぐいぐいテナーを吹いた。
 
 明田川が唐突に叫んだ。唸り声とは別、まさに叫んだ。
 鍵盤を叩く手は止まらない。ひっきりなしにピアノの中へ手を突っ込み、低音部を連打する。この曲では珍しいアプローチだ。
 ひじ打ちからクラスターの駆け上がり。ホームではないためか、かかと落しまでは行かず。
 クラスターながらメロディ感を備えた、独特の連打が爆発した。いくつかの音が、調律崩れのように聴こえた。
 唐突に音が消え、休憩を告げる。約1時間のセット。

 休憩中に明田川が丁寧にピアノの調律をしていた。
 
 後半セットは最初から広沢もステージに上がった。
 明田川は立ってオカリーナのソロを。静かにテナーで広沢が一音を載せる。
 素早いパッセージで明田川がアドリブを取る。テーマがやがて顔を出した。
 ピアノに切り替えると、テナーの音数が極わずか増えた。しかしロングトーンを主体。テナーでベースラインを表現してるかのよう。
 ピアノからすぐにテナーのソロへ。この曲はあっさりめ。ピアノに戻ったが、いきなり終わってしまった。もうちょい吹くと思ってたようだ。

 (6)も簡単に前置きを。ほぼどの曲も曲紹介を入れていた。
 雄大なピアノのテーマに広沢は耳を傾ける。朗々たるピアノのソロは、テナーへ受け継がれた。
 ここではじっくりと互いのソロが同時に進行する。テンポはあまり揺れず。
 明田川は唸りながら鍵盤へのめりこみ、テナーが休み無く音を出す。

 (7)の演奏はイントロほとんど無し。ピアノがさらり弾いたところで、すぐにテーマを広沢が吹いた。
 ほぼピアノとユニゾンで、単音風に旋律を奏でたのがこの曲だったかな。新鮮な解釈だった記憶あり。広沢はテーマの後半をオクターブ下げて鳴らした。

 ソロ回しってほど形式ばらぬが、この曲ではテーマからすぐに広沢のソロへ向かったため、最期をピアノのソロでまとめる。
 広沢のソロがテーマの世界感を押し広げた。

 (8)が最近良くやってて、いまだにぼくがタイトルを特定できない曲。"メニー・ア・ボッサ"と今日は聴こえた。そのうちCD化されないかな。
 ちなみに藤川義明に教わったボサノヴァで、オリジナルじゃないそう。

 奔出するインプロのイントロから、熱っぽいテーマへ。音数いっぱいに埋め尽くされ、テーマの段階ですでに明田川の世界感へどっぷり浸かってた。
 歌うクラスターの特性がこの曲でもいっぱい。連打され吹き上げる音の塊は、常にメロディアスで情感溢れていた。
 おもむろにテナーがソロで加わる。

 (8)が終わって拍手が止まぬうちに、明田川は"エアジン・ラプソディー"に突っ込んだ。
 テーマはテナーもスパッと加わる。力強く吹き、鍵盤が鳴る。シンプルなデュオ編成ながら、分厚い響きとリズム隊がいるようなビート感に溢れた。
 ソロのテンションも天上知らずに盛り上がる。明田川のクラスターが激しさを増した。
 テナーが吹きまくり、明田川のアドリブが同時進行で燃え立つ。
 メロディがぐいぐいフェイクされ、ピアノはひじ打ちも混ざっていった。

 最期はクラスターまみれのピアノが盛大に鳴って、終演へ。後半セットは1時間強。
 冷房効いて寒いくらいの温度設定だったが、演奏もりがってる時は、確かに空調を忘れてのめりこんだ。
 
 ピアノとテナーのデュオ、とは確かに違う。セッションでありデュオではあるけれど、互いのソロをぶつけ合うさまが、単なるソロ回しのデュオとは明確に違う。
 巧く表現する言葉が浮かばない・・・。興味深く一風変わった、面白く熱い競演だった。

目次に戻る

表紙に戻る