LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/2/12   西荻窪 Binspark

出演:不破+呉+南
 (不破大輔:b,ag,per、呉一郎:脚本、朗読、南加絵:dance、朗読)

 Binsparkで月一回、不破大輔の日。何をやるかまったく知らず聴きに行った。
 ステージにはウッドベースとアコギ、ジャンベなど。おもむろに不破がステージへ向かう。チューニングをしたあと、無言でいきなり弦をはじいた。

 今夜は呉一郎が脚本の芝居形式。あちこちへ物語世界がジャンプする、象徴的な舞台だった。

 不破は静かに弾く。フレーズやグルーヴへ行かず、ゆったりと弦を震わせた。ウッドベースのみ、PA経由。ずしんと低音が鳴る。
 すっと呉が舞台へ現れた。現代世界の情景描写を語り始める。

 呉は朗読と言いつつ、ほとんど台本を見ずに喋っていた。即興要素は薄く、かなりきっちり決まっていそう。
 一方の不破は、おそらく全て即興。ただしある程度の段取りは決まっているのか、場面ごとに楽器を使い分けていた。

 物語は現代世界から、大胆にドンキホーテの世界へ。一人二役で呉はくっきりと、ドンキホーテを語り継ぐ。ときおり客席へずずいと歩を進め、観客と絡みながら舞台は進行した。
 不破はもくもくとベースを弾く。フレーズらしきものが現れ、抽象的な音列へシフトした。
 グルーヴはかすかに。ベースがしぶとく強く唸った。

 ふいに南が現れた。腕をしっかり振り、高く上へ上げて。くるくると舞台のあちこちを舞う。
 呉は喋り続ける。三人が互いの世界感を平行提示した。
 
 場面ごとに呉は衣装を変える。ジャケット、パーカー、そして水中眼鏡やニット帽。
 服装を変えることで、異なる世界への変換や違うキャラクターを表現した。

 衣装がえもこの会場ならでは。ステージ横に置いた服を無造作に持ち上げ、羽織っては別の上着にそっと着替える。衣装換えの動きすらも、表現の一つにした。
 時には袖へ消える方法も使う。つまり舞台の出入りもメリハリつけていた。

 呉がステージ横へずれたとき、中央のスペースへ南が踊りこむ。床へ寝転び、ダイナミックに身体を舞わせた。
 
 呉の芝居が高まったとき。一声、不破がなにか声をかけた。台詞だろうか。残念ながら聴き取りそびれた。
 不破が声を出したのは、この一瞬だけ。なめらかに呉を次の世界へ誘うきっかけとなった。

 あれはドンキホーテの場面だったろうか。不破がウッドベースを横に置き、ジャンベを引き寄せる。
 右手で床起きの大きなジャンベを叩きながら、ベースのボディも合わせて左手で叩いた。

 南はいったん袖に消え、服装を変えて現れる。口に赤い花びらのようなものをくわえ、鳥のようにあちこちを舞いながら歩を進めた。
 呉は幾度も服装を変え、朗読を続ける。台本らしき本を手に持ってはいるが、ほとんどページをめくらない。

 ジャケットを着た呉は、ポケットからさいころを出す。2個を床に振り、出目を合計。
「1にならない・・・」
 呟き、ポケットからさらにもう一個。床へ振って出目を足す。
 同じ台詞を繰り返しながら、床に投げられるさいころは4個、5個、6個と増えていった。
 南がウィッグをかぶって現れ、激しく横で踊りだす。
 呉と南の世界はひとつの舞台で混じらずに平行で進んだ。

 次に南が衣装がえで現れたとき、物語世界はゆっくりと太平洋戦争の特攻隊に移った。
 銃後で手紙を受け取る少女が南、特攻へ向かう男を呉が演ずる。
 南が手に持った筆書きの手紙を朗読。
 ここで、そこまで互いに表現していた南と呉の世界が、ひとつに融和した。

 不破はベースを置き、アコギへ持ち替える。
 南が朗読する後ろで、呉がコートの腕や額に布を巻きつけ喋る背後で、抽象的な音列のガットギターをかき鳴らした。
 指弾きで弦をはじき続けているようだ。ばらばらとせわしなく音が撒き散らされる。
 ときおりフレーズが出てきても、すぐさま無作為な音列に切り替わった。

 呉が「うさぎおいし、かの山♪」と"故郷"を歌いだした。次に南が歌い継ぎ、最期はそろって歌う。
 不破のアコギは曲へ寄り添いつつも、単純な伴奏にはならない。あくまでアグレッシブに弦をはじいた。
 途中で3弦がぶち切れるが、かまわず不破は弾き続ける。

 南が袖へ消え、呉の朗読へ。不破はウッドベースに持ち替えた。
 さりげなくチューニング・メーターを見ながら調弦を。舞台は中断せず、チューニングそのものも音楽のひとつとしていた。
 足元のジャンベをいったん横へ置き、改めてベースを弾く。
 音の無い空白も、間延びせず緊張を保っていた。

 呉はステージ横へずれ、不破のソロに。猛烈な勢いでベースを弾き始めた。
 激しいベース・ソロが続く中、呉が舞台へ戻ってきた。
 舞台は現代に、冒頭の世界へ戻る。

 すっとポケットからタバコの箱を取り出し、フィルムを引き出し唇にあてる。声を震わせ、警官がメガホンで喋るさまを表現するアイディアが面白かった。
 つと、南が現れて横の椅子へ腰掛けた。ペットボトルをひと飲み。足を椅子に上げて、無言で呉を見つめる。

 不破のベースは穏やかに流れてゆき、終焉へ。
 約1時間強のステージだった。

 不破がメンバーを紹介した。
「あんがい、長くやってたな」
 時計を見てつぶやく。尺は特に決めず、即興的にやってたのだろうか。

 楽器を演奏したのは不破だけ。呉や南が歌う場面もあったが、基本は朗読とダンス。
 にもかかわらず、濃密な空気感を感じた。
 不破の即興性で空気を収斂し、呉と南の存在感を存分に魅せる、興味深いパフォーマンスだった。

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