LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/2/10   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、喜多直毅:vl、早川岳晴:b、石塚俊明:ds)

 月例ライブは今月がフルメンバーでの演奏。前月はスケジュールの都合で早川が欠席していた。
「結成して何年になるか、わかりません・・・今回が今年初めて、全員そろってのライブです」
 なんだかしみじみした口調で翠川が開演の挨拶をした。

「頭はフリーからね」
 喜多へ翠川が指示。しずかなストリングスの連なりで演奏が始まる。

<セットリスト>
1.Tres
2.Full-Full
3.Seul-B
(休憩)
4.タコヴィッチ
5.Bisque
6.para cruces
7.West Gate

 早川はウッドベースを弾く。"Tres"では全員がアルコ弾き。PAの出音も大きめで、ずっしりとリバーブをまとって響いた。
 うっすらとハウリングのような余韻。翠川は視線を上げて音に耳を傾ける。
 おもむろにテーマを喜多が奏でた。

 今夜はポリリズミックな展開と楽器の絡み合いが絶妙で、素敵なアンサンブルを生み出した。特にトシと早川のプレイが鮮烈。
 "Tres"ではトシがプラスチックのブラシから、マレットやスティックにさりげなく持ち替えた。
 ゆったり漂う"Tres"の音像の中、トシが静かに着実なエイトビートを。ときおりフィルをいれ、シンバルを強打する。弦とドラムの対比がめちゃくちゃかっこよかった。

 早川はリズムやリフを刻まず、音数少ないフレーズで豪快に低音を操った。
 "Tres"では確か全てアルコ弾き。バイオリンとチェロがアドリブを交わす中、別のラインで常に存在感を示した。

 フロントは喜多が熱っぽいアドリブから。早々に弓の毛をほつれさせ、フレーズの合間に素早くちぎっていた。
 翠川にソロがするりと移ってゆく。超高音できゅいきゅいと左手を滑らす奏法を織り交ぜつつ、チェロは丁寧にメロディを紡いだ。
 なんとなくなソロ回しはベースにつながり、冒頭からロマンティックに高まった。

「いきなり、"Full-Full"にいこうか」
 ぺらっと譜面帳をめくるなり、翠川が曲を決めた。喜多と早川に指をふり、二人のインプロから。
 早川のウッドが冴えていた。テーマに行ってフリーな展開に向かったとき。
 指で音数をそぎ落としたフレーズが、ぐさぐさと音を際立たす。ポリリズミックに弦をはじき、ぐいぐいとうねらせた。オスティナートでなく、平行してソロを取り続けてるかのよう。

 トシのキュートなビートが着実にグルーヴをもたらす。
 翠川と喜多の即興がフロアに轟いた。

 "Seul-B"の前に、ちょっと出音が下げられる。リバーブも減らされたか。
 さらにサウンドが締まった感じ。個人的にはこのくらいの出音が好み。

 即興構成のアレンジではこの曲が1stセットで抜群だった。
 テンション高めに喜多や早川が弓を操り、一呼吸。
 しずかに翠川が、たっぷりと旋律を歌わせてテーマを奏でる。クロスフェイドのように。

 トシは叩かず、喜多と早川も耳を傾けた。
 無伴奏でチェロはしみじみとテーマを取る。とても美しかった。
 おもむろに全員のアンサンブルへ。チェロはソロと刻みを使い分ける。
 たっぷりとメロディのアイディアをどんどん膨らませたのが、この曲だったろうか。

 この曲だったか自信ないが・・・インプロがぐんぐん高まり、静かに着地をしかけた。
 余韻を残して終わるかな、と思ったら。バイオリンがすっとテーマへ戻る。翠川はすっと視線を投げ、弾かずに耳を傾ける。
 そして、幕。ステージに流れる呼吸感が興味深かった。
 
 後半セットは"タコヴィッチ"から。スリリングな弦の交錯が聴きもの。明確なソロ回しでなく、短い旋律が自然と主導権を渡しあうような感じ。
 演奏そのものだけでなく、アンサンブルの呼吸間も小気味よかった。
 テーマの強いアタック、即興フレーズからするりと譜面へ戻る瞬発力のスリルが良い。

 "Bisque"はトシのアプローチで大胆に曲が展開した。三人の弦がたおやかにアルコでテーマを弾く。しっとりと音楽は膨らみ、柔らかな即興に流れた。
 ところが途中、トシがマレットでスネアを鼓笛隊のように叩き始める。静かに、しだいに音量を上げて。

 このマーチング・ビートがサウンドにすんなり馴染み、いつしか主導権をとった。響き線を使ったトシのかっちりしたリズムに乗って、ぐんっとアンサンブルのテンション自身が高まった。
 ついにバイオリンとチェロが熱っぽく弾きまくる。さらにトシは無伴奏で豪快なソロも聴かせた。
 ムードは再び静かに。しっとりと幕を下ろす。今夜の"Bisque"はダイナミクス激しい、痛快な演奏だった。

「これか、これをやろうよ」
 譜面台をめくって翠川へ早川が提案する。んじゃこっち、と翠川。カウントでのスタートを喜多へ投げる。
 曲は"para cruces"。黒田京子トリオへ書き下ろした曲だ。緑化計画で聴くのは始めてかも。

 バイオリンのフレーズが黒田トリオで聴き慣れた展開と異なり、新鮮だった。テーマからして違う。もしかしたらチェロ譜で翠川とユニゾンかな?
 次第に高まりテンション高く疾走する曲ってイメージだったが、今夜はバイオリンがパワーを溜めるかのよう。

 いったんテーマをまわして、再びバイオリンはテーマを弾きだす。しかし翠川がフリーに向かったとみたか、喜多はすぐさまフレーズをフェイクさせた。ソロは収斂するように低音を多用した。
 トシは逆にこの曲では煽らない。早川もしかり。テンションは高いが、刻みは少ないユニークなアプローチだった。しかし中盤ではスティックで叩きのめす、豪腕ソロをかました。

 エンディングはすぱっと翠川が切らせたが、喜多とトシが零れてしまう。
 すかさず喜多は弓を上げてまとめたが、トシがタイミングを逸した。間を空けて叩く、数音。最期はすこすこと鼻を鳴らして締めた。

「"West Gate"をやろう。短くね」
 時計を確認して翠川が告げる。

 弦の響きが心地よい。早川が力強く低音を膨らますと、喜多はバロックのようにくるくる上下するアドリブで応える。
 トシはフロアタムをスティックで16分音符のロールを。アクセントを各所につけて、メリハリをつけた。
 そして翠川は目を閉じ、どっしりチェロを奏でた。

 きれいな演奏で今夜のステージは幕を下ろした。聴きどころいっぱい。個々のフレーズが同時進行で盛り上がる。ぜひこのメンバーでのレコーディングが実現して欲しい。

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