LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/1/26 大泉学園 in-"F"
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc、翠川敬基:vc、太田惠資:vln,vo)
「今日はどれも久しぶりに演奏する、カバー曲ばかりにします」
黒田の前置きでライブが始まった。ちなみに黒田が全て選曲したそう。
曲ごとにさまざまな表情のアンサンブル。かなりとんがった演奏だった。特に翠川のぶっ飛びぶりが、刺激いっぱい。
<セットリスト>
1.ラ・パッショナリア
2.ババヤガ
3.ソングス・マイ・マザー・トート・ミー
4.フーヴェリング
(休憩)
5.
スプリーン
6.ヘイズ
7.道に迷った小鳥
8.ホルトノキ
(アンコール)
9.アマルコルド
(8)のみ黒田のオリジナル。今までライブで幾度か聴いたカバー曲が並ぶ。贅沢を言うと、今回初めてカバーする曲も聴いてみたいかな。
ヘイデンの"ラ・パッショネリア"では翠川がひときわダイナミクスを振らせる。ピアニシシモを多用し、かすかに響かせた。フリーキーなアプローチが多かった気がする。
太田がソロをたっぷり弾いたあと、黒田が滑るような勢いあるアドリブを聴かせた。
続くチャイコフスキーを黒田がアレンジした"ババヤガ"では、翠川や太田が難しい、と譜面を見ながら呟く。さりげなく太田がピチカートでフレーズをさらってみせた。
翠川がイントロを無伴奏ソロで。
フリーからテーマへ繋ぐ。前曲とは一転して、たっぷりとメロディを紡いだ。
中盤でバイオリンとチェロによるグリサンドの交錯に。チェロは幾度も鋭く、指が弦の上を進む。
ラストは翠川が演奏にあわせ、「ぽんっ、ぽんっ」とコミカルに呟いた。
続くアイヴスの"ソングス・マイ・マザー・トート・ミー"は、かなり久々に聴いたかも。1stセットでは、この曲がひときわ素晴らしい演奏だった。
テーマから、フリーへ。和音の展開が音世界を、ぐいぐいと美しく力強く彩る。
途中で太田はピッチをずらしつつ、チャルメラっぽいフレーズを幾度も挿入した。
さらに独特のフレージングでヴォイスも挿入。曲のテーマと何らかのイメージをダブらせたのか。ぼんやり想像しながら聴いていた。
コードの感触はピアノがまず、懐深く膨らませた。フレーズが繊細に重なる。
さらにバイオリンとチェロが縦横無尽に動き回り、サウンドを色々とかき混ぜた。
三人の織り成す音楽は拡散しながら空気を埋めていった。
1stセット最期はデイヴ・ホランドの曲。
「ト音記号か」
翠川が譜面を見ながら、ハナモゲラな言葉遣いでフレーズを歌い出した。
そのままチェロが重なり演奏へ突入する。
テンポが曲の途中で変わってゆく。あるときは勢いよく、あるときは静かに。
前曲が多彩さを披露した魅力とすれば、この曲は即興の触れ幅を見せ付けるような印象。
互いの音が混ざりつつ、即興は進む。フリーに進みながらも、アンサンブルはしっかりと絡んでいた。
後半はガリアーノの"スプリーン"から。黒田はアコーディオンを弾く。
ピアノの椅子に腰掛けたまま、ふっくらと鍵盤を押さえた。たまにピアノにも指を伸ばし、そっと鳴らす。
この曲も和音の味わいがとてもきれいだ。
フリーになり太田がソロを紡いでるとき、黒田はすっと席を立つ。入り口へ身を寄せ、耳を傾けるそぶり。翠川と太田のデュオは互いの音が折り重なり、時に鋭く立ち上がる。
太田は比較的、メロディ志向。翠川は高音部も使った、即興アプローチだったろうか。
やがてアコーディオンがそっと鳴った。黒田は壁を向いたり、あちこち姿勢を変えながら弾く。最期は腰掛けてピアノと混ぜながら。
おもむろに曲の途中で、床へアコーディオンを置いた。
その弾みに指が鍵盤へ触れ、音がぷかーっと長く伸びる。あれはたぶん、たまたま。
でも、その一音が翠川と太田のやりとりに、重心軽く入っていくさまが面白かった。
後半セットで圧巻は、富樫の"ヘイズ"。
1stアルバム収録で幾度もライブで演奏されたが、今夜のアレンジはひときわ緊迫感に満ちた。テーマのテンポもかなり速い。性急なムードが加速する。
さらに翠川が猛烈な弓さばきを見せた。
弓で弦を縦にこする。力強く。弓の毛全てを、引きちぎらんばかりに。軋み音をいっぱいに激しく弓が動く。が、不思議と毛はしばらく切れなかった。
壮絶に弓が動くたびに白い煙が、ぱっとかすかにたなびいた。
黒田のピアノも抽象的な世界感へ向かってゆく。翠川の猛然たるアルコと重なり、インプロが鋭く疾走。
そこへ太田のバイオリンが、高らかに鳴り響いた。たっぷりとメロディを歌わせて。
3人の描き出す鮮烈さに、ぐいぐいと惹かれる。
2ndセットでは、この曲がとても良かった。
ちなみに翠川の弓の毛は、この曲の後半辺りからぽつぽつと切れて行く。
太田も強いボウイングのすえに、幾本も毛をほつれさせていた。
ピアソラ"道に迷った小鳥"は一転、メロディアスな方向性に。結果的にアヴァンギャルドさと玄妙な即興が順番に現れるセットリストになった。
ちなみに翠川は、冒頭から奇声を上げつつ演奏を。太田が韓国語みたいだ、と笑いながら応酬する。
黒田は立ち上がって詩の朗読を。すかさず翠川がヴォイスで茶々を入れ、黒田が大笑いしてしまう。
演奏はチェロがテーマを奏でたあと、ソロっぽい流れからバイオリンとピアノへ。
弾きやめた翠川は、二人のサウンドへ耳を傾ける。チェロを弾きそうで、弾かない。
無音ながら不思議な存在感を魅せた。
最期は黒田の"ホルトノキ"で締めた。この曲がライブへ投入当初は「難しい」とぼやいてたが、太田はすっかり涼しげに弾きこなす。
ピチカートから弓弾きへ。ドラマティックにテーマを奏でた。
黒田はぐっと力がこもったピアノで、音像をいっぱい膨らませる。
この曲もテンポやムードががらがらと途中で変わった。全員がすっとペースダウンし、静かに。
次の瞬間、いっせいにテンポを上げて進んでゆく。
ちなみにラストのテーマでタイミングがばらけて、黒田が歌いながら弾いてたような気も。
アンコールの拍手。何をやるか、その場で相談が始まった。
「すぐに他の曲の譜面はでてこないぞー」
翠川がぼやく。"Seul-B"かこの曲か、の選択となり、「さっと演奏しよう」と選ばれたのが、ニーノ・ロータの曲。
イタリア語(?)のタイトルを太田がむにゃむにゃむにゃっと紹介して演奏に。フェリーニの"アマルコルド"だそう。
タンゴっぽい印象を受けたかな。テンポ早く、前のめりにテーマを。これまでライブで聴いた記憶が浮かばない。
駆け抜ける勢いで即興につながり、あれよあれよとテーマへ戻った。
黒田京子トリオは今年、あえてさまざまな場でのライブ活動を行う年になりそう。さらなる変化の予兆ともいえる、とても興味深い選曲と演奏だった。
絶妙な調和性を持つアンサンブルがゆえに、さらなる即興の可能性を追求し続けて欲しい。今後の展開がますます楽しみな、聴きどころ満載のライブだった。