LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/1/17   大泉学園 in-"F"

出演:shezoo+壷井彰久
 (shezoo:p、壷井彰久:E-vln)

 初の競演。仕切りはインエフのマスターだそう。shezooは生ピアノのみ、壷井彰久は2挺のエレクトリック・バイオリンを使い分けた。
 なんとなく壷井がMCの仕切り役へ。微妙な毒の笑いが飛び交う比較的長めのMCをはさみつつ、にこやかなライブとなった。

<セットリスト>
1.First Greeting
2.Lotus Flower
3.Memory Of India
4.Baraccone 2
(休憩)
5.Baraccone 1
6.Under the Red Ground
7.The Dream Above The Heavens
8.Left Window
(アンコール)
9.砂漠の狐

 shezooの曲が中心の選曲で、(1),(6),(8)が壷井がEraに提供したレパートリー。shezooはソロ・アルバム"Nature Circle"とQuipuの"天上の夢"から、満遍なく選んだ。
 数日前にリハを一度やったのみで今夜のライブへ臨んだという。
 曲から完全に離れた即興へはむかわず、きれいに曲世界を膨らます演奏だった。
 どれもきっちりアレンジ版と思いつつ聴いていたが、あとで伺うと、ほとんど決め事無しだったそうで、びっくり。

 初競演な人と必ずやる曲だ、と壷井の紹介で"First Greeting"から。バイオリンがゆったりとメロディを奏で、3拍+2拍と5拍子のリズムをピアノが静かに。抑えた音量で、そっと鍵盤が鳴る。
 テーマの旋律を丁寧に扱い、即興であまり弾きまくらず。バイオリンがちょっとソロを取るくらい。アンサンブルを重視した。

 "Lotus Flower"ではテーマをバイオリンとピアノで分け合う。バイオリンがテーマの前半を弾いてピアノへ受け継ぎ、またバイオリンがテーマを、といったように。
 穏やかで寛いだ雰囲気を漂わせた。ピアノの音量がふっと上がり、バイオリンがつややかに大き目のボリュームで。
 バイオリンにメロディを任せたピアノは、フレーズを軽やかにからませた。
 
 "ロータス"の日本語訳を思い出せなかった壷井は、"Memory Of India"のタイトル紹介をして「これなら、わかりますよ」と、胸を張る。そのあと、さりげなく「あってますよね?」とshezooを見る表情が可笑しい。
 この曲では、ほとんどバイオリンを弾かなかった。ループを幾つか作って流す。
 メロディや旋律はピアノが刻み、壷井はエフェクト処理へ集中。
 かがみこんでツマミを操作しながら、壷井の目は譜面をシビアに追う。ごう、ごう、と電子音が膨らみ、拡大した。

 1st set最期はshezooの"Baraccone 2"、Quipuの"天上の夢"に収録曲。
「"薔薇食おうね"、でしょうか」
「ちがーうっ!」
 タイトルはshezooの造語だそう。

 アンサンブルのメリハリをひときわくっきりつけた演奏だった。
 テーマが展開したのち、shezooはふっと鍵盤から指を離す。ペダルを踏んだまま。
 すかさず壷井が無伴奏ソロへ。リバーブをたっぷり効かせ、さらに途中で生音風に切り替えた。
 激しいボウイング。ここまでほつれなかった弓の毛が、たちまちプチプチとざんばらになった。

 ひとしきり無伴奏のバイオリン・ソロ。壷井がふっと視線をshezooに投げ、弾き終わる。
 shezooは軽やかにピアノのボディを数度、手のひらで叩く。そしてピアノのソロへ向かった。ころころ音符が弾む。
 最期はテンポをぐっと上げ、二人でコーダへ疾走した。
 shezooが身を翻すように、すぱっと鍵盤から腕を振り上げ、演奏を終えた。
 
 後半セットは"Baraccone 1"から。1st setよりもデュオが寄り深まった気がした。
 切ないメロディを、バイオリンは意志強く朗々と表現する。芯の強さが滲んだ。
 ピアノは真摯に音を紡いでゆく。ドラマチックな趣きを、シンプルなデュオ編成で作り上げた。

 "Under the Red Ground"ではバイオリン・ソロが瑞々しい。ピアノが前面に出る場面では、バイオリンがひたすら刻む。
 テーマや曲調を踏まえた演奏で、メロディがくっきりと強調された。

 ちなみにこの曲の演奏前にMCで、shezooが仕事での失敗談を語る。キーボードにアサインした音を、本番で間違えてしまったそう。
 そしてこの曲、イントロで。違うコードを冒頭で出してしまい、壷井が苦笑する。
 まったく偶然だろうけど、妙にMCと符号してておかしかった。

 "The Dream Above The Heavens"、確かこの曲でだったと思う。
 shezooのピアノがひときわ繊細に響いた。
 中盤でバイオリンが、たっぷりとソロを取る。幾つかの音をぱらぱらと重ねたピアノは、音の流れが微妙に変わった。
 同じフレーズを重ねる感じでも、一音を抜いたりダイナミクスを変えたり。和音を爪弾く響きは、どれも違う。さりげなく玄妙なさまが、とても美しかった。

 最期は"Left Window"。ライブ中、もっともアンサンブルが溌剌とした。
 アドリブも長め、爽快に広がった。バイオリンは弓の毛を散らばせながら、ここぞとばかりに弾きまくった。

 間をおかずアンコール。"砂漠の狐"を、最期はコンパクトにきっちり決める。
 和音の響きが心地よかった。

 和音の響きが気持ちいい。どの曲だったか失念したが、テーマの途中から音同士がぶつかるように重なり、ぐっと拡大する。
 ライブが進むにつれアンサンブルは濃密になり、自由度と構築性が共存してゆく。とても素敵な演奏だった。

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