LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/1/15  西荻窪 Binspark

出演:不破大輔
 (不破大輔:b)

 月例の"不破大輔ナイト"。地底新聞へ参加ミュージシャンの告知が無く、どんな編成か、楽しみに行った。
 店内へ入ると、置かれてるのはウッドベースのみ。ちょうど、不破がセッティングしている最中だった。
 楽器が乾燥して調子悪く、今夜は短く1セットのみ。あとはゆっくり寛いで欲しい、とライブ前、すまなげに告げられた。どうやら体調もいまひとつに見えたけれど。

 BGMが消え、客電が落ちた。白いスポットに照らされた不破がウッドベースを構える。靴を脱ぎ、靴下姿での演奏。無造作な立ち姿でベースを操った。
 スタンディング・スタイルでの演奏は一年ぶりとか。彼のベース・ソロ演奏は、数年ぶりにぼくは聴く。
 
 ゆったりとロングトーン。しだいに音数が増え、音楽のスピードが速まった。
 完全即興で一本勝負。フリーではあるが、特殊奏法はほとんど無し。真正面からウッドベースと向かい合う、ストイックな演奏だった。

 楽典的には不明だが、ある程度は曲を意識して演奏していたようす。
 ときおり、野太い3音のフレーズがゆったり弾いた。あとで教えてもらったのは、"Going home"ってタイトルだったかな。
 テーマが無造作に挿入されると、新たな即興へ向かってゆく。

 ライティングはシンプル。ときおりふっとスポット・ライトに色がついた。ミラー・ボールは無し。
 赤いスポットライトがつき、静かに不破を照らす。

 アレンジはブロック的な転換を意識して、弾いてるように見えた。
 場面ごとにサウンドは表情を変える。速弾き。中低域のポジション多用。強靭なファンク。
 赤から青へ。スポット・ライトは音楽に沿って変わった。

 ときおりごく僅かの空白を挟み、次の展開に向かう。
 チューニングを演奏中、無造作に変えていた。かすかに音を確認してペグを捻る。
 その仕草すら、音楽のひとつへ自然に溶け込んでいた。

 今夜はリフや単音でぐいぐい押す展開は無し。ダイナミクスもフォルテ中心で、小音へは向かわず。なおさら数日前のライブで聴けたピアニッシモが貴重と感じる。
 メロディを弾かずとも、ひとつながりの流れは常に感じた。
 
 改めて3音のモチーフを、数度奏でる。
 ライティングは白一色に戻った。

 音楽はテンポやリズムが希薄。拍子や小節感覚、テンポは揺らしながら独自のグルーヴを構築した。
 けれどもダンサブルさとは逆ベクトル。音を鋭く、柔らかく弾み連ねてゆく。

 唸りながら両手で猛烈な速弾き。弦をぶいぶい唸らせた。弦の振動そのものでビブラートをかけるかのよう。
 奏法ではフレーズの末尾で、たまに不破はビブラートを使った。軽く、手首を揺らして。

 ステージはまた赤く染まる。そして青も混ざった。
 不破が矢継ぎ早に弦をはじく。
 激しい一音。4弦がはじけ飛ぶようなピチカート。
 ぱたぱたと、かすかに音がする。
 靴下履きの左足で、床へリズムを刻んでいた。

 フレーズがぐいぐいと盛り上がり、解体され漂ったあと。
 また3音のモチーフが現れた。

 演奏は滑らかに終わる。ふっと時計を確認する不破。
 一礼すると、拍手がぱあっと飛んだ。
 
 約40分一本勝負。スリリングで懐深い演奏がとても面白かった。
 音色は輪郭が丸く、浮遊感もほんのり漂う。
 緊張を強いるストイシズムや、強引に盛り上げるあざとさ。それらと異なる方向性を、不破のソロに感じる。
 ただ指が、力強く弦をはじく。
 不破の心に浮かぶ即興を、ぽおんと観客へ提示した。その無造作さも、楽しい。

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