LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/1/13 大泉学園 in-"F"
出演:小森+太田+不破
(小森慶子:cl,ss、太田惠資:vln,vo、不破大輔:b)
この3人でのセッションは珍しいはず。仕切りは小森。ほぼ全編即興で、さまざまなアプローチを見せた。
前後半セット、30分以上にもわたる長編インプロを一本、比較的短めの即興をもう一本、という構成。
小森がソプラノ・サックスとクラリネットを持ち替え、太田はアコースティック・バイオリン一本。不破はウッドベースのみ。若干エレキ要素もありかと思った。ちょっと意外。
冒頭はソプラノ・サックスのロングトーンから。静かに音が伸ばされる。太田は聴きに回り、不破が静かに低音を重ねた。
ぶわっとエコー感が、店のスピーカーから響く。ユニークな音像だった。かなりサックスの音を、太田が立てたマイクが拾ってるようだ。さりげなく太田がミキサーへ手を伸ばし、リバーブをわずかに絞る。
一方、不破のアプローチも新鮮。アンプで音を出してるが、ピアニッシモも多用した。顔の前へ拝むようにウッドベースを立てる独特の構えから繰り出す豪快な低音と、唸りながらの高速指さばきも、もちろんあり。
その一方、指先で軽く爪弾く場面もいくつか。アコースティック感を活かした奏法も取り入れた。不破は特殊奏法はほとんど使わず、ストレートに弦をはじく。強烈なスラップ、左手で弦をはじくゴムのような響き、左指を滑らせ音を上にグリスなど。
パワフルなベースの中で、さりげなく挿入される繊細さが効果的だった。
1stセット、最初の冒頭は固いムードから始まった。サックスは硬質に鳴り、抽象的なメロディが漂う。太田は爪弾きからリフに。ベースもリズムに回り、二人の刻みの上で小森が吹き続ける。
全編を通してソロ回しは無い。不破のソロは2セット目最期の即興で、ちらりあったくらい。意識してか、小森のひっぱりに委ねた印象を受けた。しかし空気を読んで、すかさずバイオリンが雪崩れる風景も、もちろんあり。
最初の即興では太田が一歩引いた印象。
不破が激しい弦さばきで揺さぶるなか、ふっと小森のメロディがクレツマーを思わせる色合いにかわった。
太田に受け継がれたアドリブは、メロディアスに展開する。
小森は途中でクラリネットに持ちかえる。やがて即興はストレートなスイング調に変わってびっくり。この三人でか。
極太の低音を不破が休み無く叩き出す。
刻みと旋律を合間ごとにバイオリンが奏で、クラリネットは果てしなくソロを膨らませた。
一過性のアイディアでなく、かなり長く三人のスインギーなセッションは続いた。
一曲終わったところで、さりげなく太田がMCで雰囲気を和らげる。
仕切りなおしで1stセット2曲目。小森はソプラノに持ち替えなおしたっけか。
たしか、バトルのような短い音の応酬をバイオリンとサックスで。ベースも加わり、勇ましく前のめりな即興から始まった。
スピーディな小気味よいサウンド。硬い緊張がほんのり漂った1曲めより、ちょっと角が丸くなった音楽だった。たとえ、アグレッシブだとしても。
太田と小森が互いにメロディを重ね合わせ、掛け合い状態で高まったのはこの曲だったろうか。
なにより印象深いのが、エンディング。小森が単音を刻む。時を確認するかのごとく。
淡々と単音。ベースとバイオリンがフリーな中、ときおり鋭く、小森がフレーズを吹く。再び単音。かなり間を置いて同じパターンを、すぱっと。
ミニマルな展開で、空気がピッと引き締まった。おそらく、長い奇数拍ごとにフレーズを吹いてたんじゃないかな。
規則性ある進行に「サックスは何拍子だろう」と、ふと思う。数え始めた。時、既に遅し。小森は単音をひたすら重ね、そのままエンディングに繋がった。
後半セットは短いMCが冒頭に入り、寛いだムードから演奏に。
小森のソロがイントロ。クラリネットからだったかなあ。記憶あやふや。
太田が弓の背で弦を静かに叩き、小さくリズムを刻む。ちなみにこの日は2本の弓を準備し、状況ごとに使い分けていた。
不破は指弾きのみ。目を時に鋭く光らせながら、どっしりとベースを操る。そういえば、視線の使い方も対照的だった。3人とも演奏中はほとんど目を閉じている。
不破がもっとも積極的に視線を使う。ぐっと大きく開き、展開やソロの流れを見つめる。小森は転換の呼吸あわせなどに目線をかわす。
太田はほとんど閉じっぱなしなのに、視線が飛ぶとすっと気づき目を開けるのがすごい。
2ndセットはぐっと寛いだムード。最初は曲をやっていた。小さな譜面をそれぞれ、小森と太田が見ながら演奏する。冒頭の小森ソロでは、バイオリンがほぼ刻み。
吹きながら不破へ小森が身体をむけ、呼吸をあわせるたびに、音の色合いが変わる。転調してるのかな?コード進行の耳ざわりが、とてもきれい。
滑らかなメロディがどんどん投入される、ブラジルあたりを連想する曲だった。
バイオリンへソロが受け渡される。太田はピアノの上に置いた譜面へ半身を向け、くっきりとメロディをふくらます。
クラシカルな味わいの即興旋律をたっぷりと。
そのまま演奏はインプロに突っ込んだ。フリーながらメロディ要素を残して。
不破がベースで単音を連ね、小森がテーマらしきフレーズをフェイクしながら繰り返す。渋さチビ〜ズっぽい展開に向かうかと思いきや、すっと音像が変わった。
ベースがぐいぐいとグルーヴをばら撒く。不破はリフに留まらず、奔放に弾いた。激しいスラップで弦をびいんと響かせた。弦がぶるんぶるん震え、振動が空気を揺らす。
小森はソプラノへ持ち替え。三人の弾きまくりが激しく展開、テンションが高まる。
エッジの立ったフリージャズで凄まじく盛り上がった。
後半セットも、もう一曲。間をおかず始まった。
ここも冒頭はバトルっぽくなったろうか。太田のヴォイスが登場し、北アフリカあたりの空気が漂う。
即興はやはりぐいぐいと押しまくる、熱い演奏。大きな拍手が飛んだ。
「では、短めに」
メンバー紹介のあと、そのままアンコールへ。クール・ジャズ的なランニング・ベースを不破が弾き続け、小森はソプラノでくねくねと捻ったメロディを奏でる。
フレーズを聴いて、太田が楽しげに笑みを浮かべた。
三人の演奏がつっこむ。短めといいつつ、じっくり即興合戦を聴けた。
長尺での移り変わりを丁寧に膨らます演奏。さらに曲ごとでアプローチや色合いを変え、バラエティに富んだセッションだった。
アヴァンギャルドさと親しみやすい熱気のインプロ双方で魅せる、バラエティさを持った。
三人が応答しあう息のあった瞬間に身体を揺らし、それぞれが独自路線で音を重ねる浮遊感に耳をすます。さまざまな聴き方で味わえ、かつ楽しい。素敵なライブだった。