LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/12/30 大泉学園 in-"F"
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc,etc.、翠川敬基:vc、太田惠資:vln,voice)
ここ数年すっかり恒例なin-"F"年末最終日、黒田京子トリオのライブ。観客はぎっしり、音楽は充実たんまり。
3人の即興が見事に結合し、高まった。
<セットリスト>
1.イッツ・チューン
2.20億光年の孤独
3.ワルツ・ステップ
4.May.3rd
(休憩)
5.ガンボ・スープ
6.オール・シングス・フロー
7.ホルトノキ
8.ヒンデ・ヒンデ
9.オブリヴィオン
(アンコール)
10.ベルファスト
富樫雅彦の"イッツ・チューン"で幕開け。
黒田はさりげなく鍵盤から音を膨らませ、初手から太田がたっぷりとバイオリンを響かせた。
翠川が弓から指へ右手を切り替え、異なる鳴りを操る流れが楽しい。この曲ではアルコよりも指ではじく場面が多かった気がする。
この曲じゃなかったかもしれないが。弓で弾きながら左手で弦をはじく、びよんっと鈍い響きがキュートだった。左手は素早く動き、超高音やフラジオもなめらかに溶け込ます。
黒田の曲、"20億光年の孤独"はアレンジがとても良かった。
即興で降り注ぐアンサンブルは、小節線を曖昧にする。リズムの頭を三者三様させ、不安定に揺らがせた。
ダイナミズムも強烈。イントロは翠川のピアニシシモから。
翠川がまず、弓を動かす。確かに動いているのに、音は何も聴こえない。かすかに弦をこする空気の振動へ、耳をそばだてる。太田も小音で応えた。
やがて、じわりと。チェロからかすかな音が響いた。
太田はぎしぎしと軋み音を弓で絞る。弓の毛が次々に千切れた。
アコーディオンを引き寄せ、黒田が構える。チェロの倍音とかぶさるように、静かに鍵盤を押さえる。メロディではなく、単音で。
片手でピアノの鍵盤も、そっと押さえた。アコーディオンを静かに置き、リコーダーへ静かに息を吹き込む。
やがて。ゆったりと、ロマンティックにピアノが鳴る。
三人の音が漂い、おもむろにテーマの登場。すぐにアドリブのうねりへ溶けてゆく。
ひそやかに、さんざめく。相反する言葉が頭をよぎる。
リズムの頭がわからない。三人の音が折り重なる。
即興の渦から、テーマのフレーズへ。バイオリンが、チェロが、ピアノが。時にユニゾンで盛り上がる。
そして、高まった瞬間にエンディング。テーマを弾ききって、幕を下ろした。
いさぎよく、逆転発想のアイディアが素晴らしかった。
「1stアルバムからです。曲名を言わずに弾きましょう」
太田の前置きで、やはり小音のイントロから。しばし混沌が漂う。全員が常に音を出し続け無い。時に楽器を止め、互いの音へ耳を傾ける。
全てが即興ながら、段取りがあるかのごとく。三人がどんな音を出してもアンサンブルは破綻せず、無造作に高みへ登った。
テーマを崩しながらバイオリンが富樫の曲、"ワルツ・ステップ"のメロディを提示した。
エンディングはチェロ。たしか完全無伴奏で、ピチカートを柔らかく操った。
1stセットは翠川の曲"May.3rd"でしめた。イントロは黒田がそっと鍵盤を抑える。クラスターっぽい響きでも、タッチは柔らかい。
バイオリンとチェロは力強くテーマをかき鳴らし、インプロへ突入した。
太田が弾きまくる一方で、翠川も左手が忙しく動き続ける。すっとさりげなく役割交代で、音の主体が変わるさまはかっこいい。
曲の途中でテンポが変わろうとも、アンサンブルは一切ぶれない。
黒田がじっくりとピアノ・ソロを。華やかに盛り上がった。
その勢いのままテーマへ。一呼吸足りないトリッキーなフレーズのエンディングへ滑り込んだ。
太田が最期にすっと振り上げたバイオリンの弓の毛は、ひとふさへ到るほどいっぱい切れていた。
後半セットは翠川の曲を2曲続けて。まず"ガンボ・スープ"はファンキーに。
イントロは広大な風景を表現する。太田が高音部で、鳥の鳴き声をしきりに出した。
展開が進むと太田のボイスも飛び出し、チェロとがっしり絡む。
黒田はタンバリンを片手に、打ち鳴らしつつピアノを弾いた。
"オール・シングス・フロー"は演奏前に、翠川が曲解説のMCを。
テーマでチェロが三拍子、バイオリンが四拍子のポリリズムだそう。幾度も聴いた曲だが、恥ずかしながらそんな構成とはまったく知らなかった。
さっそうと曲が始まる。短いインプロからテーマへ。気をつけて聴いてたが、バイオリンのフレーズを三拍子で聴いてしまい、ポリリズムの妙味を理解できず無念。
ピアノが静かに弾き場面転換。翠川は曲構成を勘違いしてたのか、その合間にコップへ手を伸ばす。
「いけね、飲んでる場合じゃないんだ」
急いで弾きはじめる翠川の姿に、黒田が弾きながら爆笑していた。
この曲では思い切って弦二本を前面に出すアレンジ。黒田はポイントのみの演奏にとどめ、たっぷりとバイオリンとチェロが合わさった。
ピアノの無い弦二本のストイックな対話は、ソロの交錯とアンサンブルの二要素を存分に出した。
黒田の曲"ホルトノキ"はテーマでの雄大な世界感に、心が震えた。
ピチカートと弓を使い分ける二人の弦を、ピアノが深く包む。
中盤でチェロのソロが抜群だった。書き譜のようにくっきりとしたメロディを掴んだ翠川は、どっしりと存在感を見せ付けた。
エンディングも翠川が見事に導いた。インプロからふっと、テーマをソロで弾く。主旋律はバイオリンが取る曲だが、ここではごく自然にチェロが奏でた。
一呼吸置いて、バイオリンが着いてゆく。するりとアンサンブルへかわった。
どの曲も濃密ながら、演奏時間は短め。次は"ヒンデ・ヒンデ"。
前のめりに疾走し、三人の音が息つく暇ない応酬を。
バイオリンが中盤で伊福部昭"ゴジラ"を連想させる音列を、しゃにむにチェロへぶつけたのが記憶に残る。
この曲かは記憶があやふやながら。最期にバイオリンがそっとピチカートで、丁寧にメロディを綴った。1コーラスはピチカート。早いフレーズは音が曖昧に。そして2コーラス目を弓で。早いフレーズも当然ながら、豊潤に奏でられた。
アンコールのような感じでピアソラ"オブリヴィオン"を。久しぶりに聴く気がする。
ブラ・プロの最期を思い出した。
黒田がとびきりふくよかにピアノを弾いた。
アンコールの拍手が止まない。ステージ上でそのまま相談する3人。譜面を太田が探してるあいだに、黒田が挨拶をした。
さらにそのあと、翠川の一言で曲目が変わったらしい。
「三人の意見が一致しました」
太田がニッコリ笑い、曲名を告げた。本当に久しぶり。この曲、大好き。
梅津和時の"ベルファスト"。バイオリンが高らかに変拍子の嵐なメロディを紡ぐ。
ピアノとチェロはバイオリンを包み、インプロへ雪崩れた。
さほど即興部分は長くなく、あっさりとエンディングに。
チェロがテーマを朗々と提示し、バイオリンがピチカートでテーマを受け止める。
最期まで濃密な演奏をどっぷり味わえた。
年末を意識してか、2nd発売を踏まえてか、1st/2ndから満遍なく選んだセットリスト。ある意味オーソドックスな選曲だが、なんだか新鮮な気もする。新曲の投入も期待してしまうのは、贅沢というものか。
活動が続き、黒田京子トリオのインプロはますます進化した。柔軟な自由度と安定した構築性が同居し、真剣さとユーモアが混在する。
さらなるステップが本当に楽しみなユニット。09年はどんな活動になるだろうか。