LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/12/25 西荻窪 音や金時
出演:太田惠資+吉野弘志
(太田惠資:vln,voice、吉野弘志:b)
66回目となるややっの夜。ゲストは"彼岸の此岸"を筆頭にさまざまなセッションで交流ある、吉野を向かえた。
喋りを曲間に挟みつつのゆったりした構成。MCは笑いが途絶えなかったが、全体を通じて、かすかな緊張感を漂わせるセッションだった。
吉野といえば、特徴あるベース。低音弦をツマミでさらに長い弦へ拡張するベースを操る。あの楽器についての音楽的な対話があるかなと期待したが、残念ながら叶わず。
MCでは演奏する曲などについての話題が中心。
実際の演奏でも、低音弦のツマミは回されず、通常のセッティングのみ。
けれどもジャズにとどまらず、トルコやモンゴル、インドなどさまざまな民族音楽の要素も加えた刺激的な音楽が溢れた。
完全即興は無く、曲を並べるセットリスト。ぼくが見てきたややっの夜では、珍しい構成かも。
<セットリスト>(不完全)
1.チンギスハーンと二頭の駿馬
2.(アンソニー・ブラクストンの曲)
3.(シンガーズ・アンリミテッドの曲)
4.(シンガーズ・アンリミテッドの曲)
(休憩)
5.半分の月
6.(イスタンブール・オリエンタル・アンサンブルの曲)
7.ザ・クリスマス・ソング
8.ヘイフン、ヘイファッ
(5)と(8)が吉野のオリジナル。
2曲目は"23K-16H"みたいな記号の曲。同名タイトルはブラクストンのディスコグラフィーに見当たらないので、ぼくが曲名を聴き間違えたな。
(3)と(4)はタイトルをMCで言わず。(6)はかなり詳しくMCあったが、タイトルを失念しました。すみません。
なお太田がエレクトリック・バイオリンを使ったのは(5)のみ。アコースティック・セッションを強調した。
"ややっの夜"のオープニングは太田の口上から。さっそく吉野がステージに呼ばれた。
二人とも譜面台へいっぱい楽譜を用意するが、事前に何も決めて無い様子。太田が吉野を紹介して、「吉野さんとのセッションでまずイメージした曲を」と告げる。どの曲をやるのか、横から吉野が覗き込んでいた。
"チンギスハーンと二頭の駿馬"は吉野が出演したライブで、よく聴く曲。個人的には明田川荘之が一時期、ひんぱんに取り上げていたことでも馴染み深い。
モンゴルの曲だそう。本当は別タイトルらしくMCでも紹介していたが、すっかり吉野のセッションでは本タイトルになっていた。
まずベースのソロ。太田が静かに耳を傾ける。アルコで吉野は広大なフレーズを奏でた。
一呼吸置いて太田が加わる。すっと吉野は指弾きに切り替えた。
太田のアドリブが滑らかに展開した。シンプルなリフでベースががっちりと支える。リズム楽器のない簡素なアンサンブルながら、強固なグルーヴがあった。
アドリブは吉野に受け渡された。すっと吉野が身体を曲げ、高音フレーズを弾く。歯切れよく力強い音使いだった。
アンソニー・ブラクストンの曲は、一転してアップテンポ。つんのめるようなフレーズを高速で二人は並べ立て、勢いよくバイオリンの即興へ雪崩れた。
小気味よい吉野のベース・ラインが、さりげなく後押しする。
めまぐるしい太田のソロが印象に残った。矢継ぎ早に音をばら撒く。無機質な感触だが、歌心が常にあった。
ベース・ソロを挟み、一気にエンディングへ。
二人のハイスピードな掛け合いと進行が爽快だった。
シンガーズ・アンリミテッドの曲は吉野が譜面を持ってきたみたい。意外な選曲だった。太田はめちゃめちゃ詳しいってわけじゃなさそう。メンバーは4人でしたっけ、と尋ねていた。
本来は四声で複雑なハーモニーのオリジナルながら、今夜は生バイオリンとベースのみ。てっきりループやディレイを駆使したエレクトリックで太田は弾くのかと思った。
いったいどうするんだ、と思ったら、ぐっとくる演奏だった。巧みなアレンジで、二声でシンガーズ・アンリミテッドの雰囲気をきれいに取り入れた。
演奏前に二人は丁寧にチューニングをしなおした。
(3)は即興はたぶんほとんど無し。譜面を丁寧に踏まえた短い演奏。ベースとバイオリンのフレーズが重なる響きが、スタイリッシュに鳴る。
あいだで転調するんですよね、と曲のあとに譜面を見ながら太田が喋る。ぼやきとも感想ともつかぬ口調にて。
続く(4)は太田が提案で、かなり即興要素ありそうなアレンジ。
すっとバイオリンのメロディがふくよかに転換した。ベースのソロは比率が低め、ほぼバイオリンが弾きまくるかっこうだ。
中間では太田がアラブっぽい歌声を響かせた。バイオリンのフレーズとユニゾンで、こぶしを効かせて粘っこくメロディを紡いだ。
最期で豪快にテーマへ戻り、華やかにまとめた。
後半は吉野がインドのラーガにインスパイアされて作った曲という。分数和音のキーみたい。
「まず、ドローンを作りますね」
エレクトリック・バイオリンへ持ち替えた太田が、静かに弓で長いフレーズを奏でた。ピアニッシモで、ときおり途切れる。いくつかの音を重ねてループさせたパターンは、風がかすかに漂うような、さりげない響きだった。
太田がループを作ってる最中から、吉野が太く弦をはじく。ドローン・ループが流れる頃合に、すっとテーマへ移った。
ドローンへまとわりつくように、バイオリンとベースの旋律が流れる。くっきりとしたメロディながら、とらえどころの無さも漂わす。
後半で太田はループをすっと切って、転調したかのような感じ。空気の色合いがふっと変わった。
(6)は伝承曲のアレンジらしい。譜面は太田が持ち込んだ。
作曲者は先日来日のミュージシャン(名前は失念)で「これから皆さんへどんどん知られていくと思いますが」と、太田は大プッシュな紹介っぷり。トラッドだけでなく、若いミュージシャンともセッションしている人だそう。
強烈なこぶしがまわるメロディ。素早い弓使いで旋律をひねってゆくバイオリンがすごく気持ち良い。太田がこのタイプの音楽へ馴染むのは不思議じゃないが、吉野のベースもまったく違和感ない。
トリッキーなフレーズやあえてアラブっぽさを意識とは感じなかったが、ごく自然にアンサンブルは成立する。
バイオリンとベース、シンプルな編成なのに、聴こえる音楽は深みがあった。
続くMCでクリスマス・ソングを弾くのはなんだかなあ、とひとしきりぼやいたあと。
せっかくクリスマスだから、と太田が提案した曲が"ザ・クリスマス・ソング"。吉野とも選曲で意見一致したそう。
「スタンダードを弾くように・・・」
太田が呟いて、無伴奏ソロのイントロを提示した。
メロディへバイオリンが移り、メロディを素直に奏でてゆく。リズムを揺らして旋律を歌わせるが、大きくは崩さない。
オーソドックスな符割のベース・ラインで吉野も応えた。
アドリブを太田が弾き始めても、上品さは続いたまま。一転してムードが落ち着いた。
最期は吉野のオリジナルで締める。タイトルになったアイヌの掛け声をアイディアに作曲したという。
曲紹介を吉野がしてるとき、"ヘイフン、ヘイファッ"と何度か繰り返す。
ずっとやってたらどうしようかと思った、と手に持ったワインを吹き出し気味に太田が微笑む。曲が始まると、
「では、責任もって掛け声を・・・ヘイフン、ヘイファッ」
おもむろに太田が語りだした。ベースがアドリブからテーマへ移る。
4拍子だと思うが、ところどころでリズムが引っかかるようなさまが興味深い曲。
太田が唸る掛け声を素地に、吉野はのびのびとフレーズを膨らませた。
バイオリンを構えた太田が、音を重ねる。途中でパーカッション代わりに指先でバイオリンの胴を叩く。
ちなみにバイオリンのアドリブのときに、ホーメイも登場。がらり音像の風景が変わる。
そのうえ楽器をウクレレ風に構え、音程をスライドさせつつ三味線のような響きを引き出した。これがユニークな魅力で、耳が引き寄せられた。
エンディングはきっちり着地した。
拍手のなか、吉野がステージを去って太田のエンディングテーマに。
暗転。太田は深々と礼をした。
今夜もばっちり充実なセッションだった。バイオリンとベースの素直な絡み合いが聴き応えいっぱいだった。
来年もややっの夜は続く。毎回、ゲストとの交流がとても愉しみ。そういえば最近ラッパ・バイオリンを聴く機会無い。たまにはあの楽器もいっぱい聴いてみたいな。