LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/12/23   西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、喜多直毅:vln、早川岳晴:b、石塚俊明:ds)

 緑化計画の月例ライブ。今年の7月ぶりに聴く。今夜はゲスト無し、フルメンバーでのライブとなった(来月は早川が別件で不在、トリオ編成の予定)。
 いつもの時間にのんびりとライブが始まる。

「カウントからね」
 翠川の合図で、"TAO"が始まった。喜多がバイオリンを鋭く鳴らす。
 チェロも低く鳴る。早川も含めて、三人の音は深くリバーブがかかっていた。

<セットリスト>
1.TAO
2.Seul-b
3.West gate
(休憩)
4.ゴホン
5.メノウ
6.Full-Full

 今夜の緑化計画はリズムやテンポが自在。拍をほとんど意識させず、柔軟にテンポが変化し、互いの音も時にポリリズミックに交錯した。小節感覚からときはなたれる。
 意識的に変拍子なアプローチではなく、興の趣くままに音楽を変化させた。

 一曲目はうっすらとソロ回しな感じ。喜多がメロディを操る横で、翠川がカウンターのフレーズを強く挿入する。
 翠川は左の指先を巧みに操り、フラジオや複数弦を同時に鳴らし、奔放で穏やかなチェロを存分に膨らませた。
 フリーなフレーズだけでなく、美しいメロディもチェロはたっぷりと。リズム隊も含めてふっと音がチェロだけに留まり、無伴奏で奏でるときも。

 早川は4弦のフレットレスのエレベを弾く。一曲目から楽器を構える位置をさまざまに変化させつつ弾いた。足のあいだに立てたり、ぐっと持ち上げたり。
 ベース・ラインはたちまちにぼやけて、抽象的なフレーズでアンサンブルを煽った。高音を鋭く提示する場面も。
 トシはプラスティックのブラシを使って、刻みとは別次元のビートを提示する。
 "TAO"のエンディングでは翠川が喜多へ合図を飛ばし、テーマを幾度も繰り返した。

 続く"Seul-B"はバイオリンとチェロのデュオから。
「最初はこの二人でね」
 翠川の指定に基づき、早川とトシは様子を伺う。弦が織り成すテーマの断片がすぐさまフリーに変貌し、まずトシがさりげなくシンバルを叩いた。

 ソロ回しは無く互いの音が重なり、自然と音の主導権が移り変わってゆく。
 テンポは1曲目ほどダイナミックに移らず、緩やかにうねった。
 最期はピアニッシモで。翠川と喜多がゆっくりと弓を弾いてゆく。翠川が弓を使いきったタイミングで、すっと音楽が終わった。

「似たような曲調かもしれないけれど」
 前置きする翠川。しかしフリーな展開は、大胆だった。リズムは途中で曖昧になり、4人それぞれが音を重ねては、すっと引く。
 無伴奏でチェロが、たっぷりとソロを取ったのはこの曲だったろうか。

 早川がピックを取り出し、ほんの少しのあいだだけ、鋭く弦をはじく。
 途中でストラップが外れてしまい、腿にエレベを載せて弾いた。そこまでたんまりフリーだったが、わずかにテンポを意識したプレイに。
 トシはブラシやマレット、スティックを使い分けて飄々と叩き続けた。

 短い休憩を挟んだ後半は"ゴホン"を。4ビートの曲でソロ回しの様相がほんのちょっと。
 喜多が弾きまくった後、翠川が飛び切りきれいなソロを紡いだ。

 トシがマレットでフロアタムを軽やかに連打したのがこの曲だったろうか。
 片手でミュートしながら叩くマレットが、勢いあまって上のシンバルを軽く一打ちした。
 どの曲か記憶が曖昧だが、トシのバスドラ連打とシャッキリしたビートへ、ベースががっつり絡んだグルーヴのひとときも良かったな。

 早川のベースが音像をがらりと変える。フリーな雰囲気ではじいてた弦が、すっとリフを弾いたとたん、きゅっと音が締まった。
 喜多がアドリブで弾いているときに、早川は口笛でテーマを静かに吹いた。

 "メノウ"はひさしぶりに演奏するらしい。今度は翠川の指定でベースとチェロのデュオから。
「気を使わなくてもいいのに」
 早川がにやりと嘯く。

 フリーのイントロはテーマの音形を予感させつつ、曖昧に膨らませたまま展開した。
 チェロが鋭いアルコ弾きの後ろで、小さくベースが音を重ねる。

 トシはスティックでそこらじゅうを叩いた勢いで、エンディングでは壁を派手に叩く。
 早川がそれを真似したところで、雪崩れるように曲が終わりとなった。

 翠川の年末挨拶のあと、最期は"フルフル"で締めた。
 ドラム・ソロでのスタートを翠川が提案する。いきなり派手にトシが叩き始めた。
 ひとしきりワイルドなドラミング。
 唐突に叩きやめて、どうぞ、と翠川に合図。その間が面白かった。

 全員アンサンブルが始まると、途中でリズムの頭がふわりとぼやける。
 スローなペースでは、バイオリンとチェロが互いにフレーズを歌わせながら、かぶせ合う音の流れが心地よい。
 アップテンポでも疾走までテンションをやたらに上げず、貫禄のムードが漂う。

 さっくりとライブは幕を下ろした。それぞれの瞬間はふっと掴んだら溶けてしまいそう。
 全体の流れはつかみどころ無く自由に展開して、けっして破綻はしない。滑らかに収斂する。
 穏やかで刺激的。さまざまな要素をたやすく咀嚼し、美しく広がる。とても楽しいライブだった。

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