LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/12/20   大泉学園  in-"F"

出演:吉田+小森+壷井
 (吉田隆一:bs、小森慶子:ss,as,cl、壷井彰久:e-vln)

 「(即興のお題と)全然関係ない音楽になりそう」
 「いつもでしょ?」
 あれは後半セット終盤。吉田が呟き、小森がなにげなく返す。壷井は冷静に見つめてた。このやりとりが、さりげなく今夜の演奏を象徴してたかも。

 今夜で数回目になるセッション。吉田がひっきりなしに喋り続け、小森と壷井が応える合間に即興演奏が繰り広げられる。
 MCもその場の即興のひとつである・・・とは言いすぎだろうか。

 特に前半セットはあえて強引に壷井あたりが、喋りから即興のキーワードを即座に決め、演奏へ雪崩れた。
 ぜんぶアドリブと承知してても、何箇所かはきれいに話から音楽のお題へスムーズに導かれる。
 録音ものだと、台本あるみたいに聴こえそう。微妙な整然さが爽快だった。
 各セット1時間強でそれぞれ5〜6曲くらい。演奏と喋りは6対4くらいの比率。

 まずは"レゲエ"。演奏前に盛り上がってた話題がそのまま1曲目に。すったもんだを越え、結局このお題となった。
 表を聞かさず裏拍だけを演奏するという縛り。冒頭のみ吉田が足で表リズムを提示し、バリサクで単音を裏で吹き続ける。始まった瞬間、表と裏がわかんなくなって聴いていた。
 
 吉田がほぼ同じシンプルな2連のフレーズ。小森はソプラノでスケール的なフレーズと硬質な音列をランダムに挿入する。かなりかっちりと演奏した。
 壷井はメロディを奏でるが、ちょっと音量バランスが低めで音が聴こえづらい。
 ちょっと長めの即興。10分くらいかな。

 淡々と吹いてた吉田は演奏がコーダらしき雰囲気へ到達したとたん、いきなりマウスピースを口から離し豪快に終わりへ導く。
 そのまま即座に喋りだした。
 
 特にリーダーを決めてなさそうだが、流れの結果として吉田が主導権を持ちがち。
 喋りもさりながら、演奏もバリサクが芯となるケースが多い。バリサクがすっと引いた瞬間、音像ががらり変わる。
 ある曲ではいったん壷井や小森が終わりを感じさせたが、吉田が吹き続ける様子を見て、演奏が復活する場面も。
 
 逆に喋りのタイミングは小森や壷井が切れ目を作る。ずっと喋り続ける吉田の合間に、「では、***をテーマに」と区切りへ。
 小森はMCがマイナーな話題に進むたび、丁寧にまとめや背景を説明していたなあ。

 彼女は演奏でもっともダイナミック。曲ごとにアルト、ソプラノ、クラリネットを吹き分ける。今夜はバスクラ無し。
 吹いてる途中もステップ踏んだり姿勢を頻繁に変え、視覚的にはもっとも見ごたえあり。

 さらに吹いてる途中でベルの先端を動かすスタイルを多用する。
 後半のある曲では、背を向けるようにぐるりと身体を回す場面も。ベルの先を動かすたびに、音が辺りをふうわりと流れ、ダイナミズムを生む。

 ちなみに今夜はサックスがPA無し、壷井はエレクトリック・バイオリンを。
 どの曲か忘れたが、足元に並んだエフェクターを使って、ミニマルなループを操る場面がかっこいい。単音のディレイとフレーズを重ね、幅広い世界感をさりげなく披露する。
 ソロを弾き倒さず、全体調和を意識した即興が多かった。

 途中で合コンがMCの話題になり、小森のなにげない一言から「数合わせ」が即興のお題に。
 音楽は壷井対、吉田と小森の構図となった。
 演奏はグルーヴィなリフをバリサクが執拗に重ね、アルトがジャズをたんまり吹きまくる。
 横で冷静な面持ちの壷井が「数合わせ」に通じる5音のフレーズを、淡々と弾いてて可笑しい。
 前半だけで70分程度。喋りがいっぱいだったせいもある。

 後半は吉田が持ち込んだ田原俊彦の"哀愁でいと"(1980)のB面曲で口火を切る。聴いたことが無い壷井のために、わざわざ入手したそう。
 たのきん三人が音楽をバックに舌足らずな短いポエムをシャウトする、凄まじいしろもの。
 即興へつなげようとしたが、壷井も吉田も「何をやろう」と苦笑状態だった。

 喋りは後半セットも奔放に展開する。ニュートリノの話題から壷井がスーパー「カミオカンデ」と発言。吉田がツボに入り、それがお題になった。
 イントロで壷井がスペイシーな電子音をエフェクターから引き出す。
 かまわずバリサクは商店街のファンファーレ風のテーマを吹き、音の方向性はそちらへ。壷井が苦笑してバイオリンを構えなおした。
 最期は小森のクラリネットも含めて、チンドン風に盛り上がった。

 後半セットで演奏された即興で、その他のお題は"イカの姿焼き"、"経堂がマレーシアに"など。
 前者では3+5拍子の符割で壷井が、後者は小森が、即興の途中でタイトルにあわせたフレーズを几帳面に挿入していた。

 最期は2曲を続けて。ひとつはエスカレーターに関するエピソードがお題だったろうか。壷井がかがみこんでエフェクターをあやつる。
 中間でバリサクのソロに。循環呼吸で吹きまくった。

 終わるなりアンコールの拍手。それに応えてしばらく雑談というかMCが始まる。
 結局、壷井の提案で"合コン"へ戻った。
 
 吉田が即興で語りをいれる。ひとしきり喋り、バリサクを金属質に鳴らした。
 サックスとバイオリンは穏やかに入って、音楽はきれいなアンサンブルに。

 ボリュームたっぷり。笑いが絶えない喋りと、クールでアヴァンギャルドな演奏の落差が愉快なライブだった。
 三人の真面目さが刺激的な音となって広がった。シビアな音楽は調和性を保ちつつ、変化を模索するよう。曲ごとに違うスタンスのサウンドが、次々に生まれて興味深かった。

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