LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/12/18   西荻窪 BINSPARK

出演:川下直広トリオ
(川下直広:ts、不破大輔:b、岡村太:ds)

 今月の不破ナイトは川下トリオ。昨年5月のピットインぶりに聴く。どっぷり痛快な音楽に浸れたライブだった。
 川下はテナー・サックスのみを吹いた。客電が落ちるのを待たず、無伴奏ソロを始める。冒頭から太い音が響く。
 ステージが明るくなり、3人を照らした。岡村と不破は静かにテナーへ耳を傾けた。
 やがて岡村が、マレットの持ち手部分でシンバルを軽くはじいた。 すごく小口径のバスドラを中心に1タム3シンバルのセット。

 不破がウッドベースを構える。そっと鳴らした。テナーのイントロが高まり、テンポが加速する。
 "ウメロック"のテーマを。アドリブ突入のとたん、グルーヴが溢れた。

(セットリスト)*Thanks to やんてら様
1.ウメロック
2.ヴィエンナ
3.YOU'VE GOT TO HAVE FREEDOM
(休憩)
4. ?
5.レイディーズ・ブルーズ
6.ナーダム
7.ニュージェネレーション

 のっけから凄まじい。1曲目は20分以上。
 しゃにむにテナーが吼える。ドラムとベースが猛然と、しかし優しく音を重ね、濃密でアグレッシブなサウンドが吹き荒れた。
 一曲目だけベースの音が聴こえづらかった。バスドラとテナーの奥で、低音のうねりのみ感じる。ぎらぎらした迫力が痛快だった。

 スタッフがライティングを巧みに操り、ソロの切れ目やテーマの場面などで、すぱっとライトを変える。数度、もろにジャストのタイミングで決まり、ぞくっときた。

 "ウメロック"でテナーは軋み音をほとんど出さない。低音域を生かした、野太く滑らかな旋律が奔出する。
 不破がぶおんっと弦を一瞬滑らせた響きが耳に残る。ぐいぐいと前のめりに弦が震えた。

 ひとしきり吹きまくったあと、川下はカウンターへ向かう。不破も手を止めて、岡村のソロに。
 つっつくようなスティックさばきで、連打中心に爽快なソロだった。スネアは響き線なし、ハイハットも叩かない。バスドラとハイハットを両足で一定のビート提示、跳ねるように両腕はシンバルやタムを動きまわる。
 パワー・ドラミングではないが、休み無くスティックは動いた。片手の連打を繰り返す奏法を多用した。軽くスネアをスティックでミュートしつつ音程を変える。

 ソロの終わりを告げる仕草に、川下がステージへ向かう。テーマを吹き鳴らす瞬間、不破が低音を滑り込ませた。

 テンポをぐっと落として"ヴィエンナ"を。切ないテーマはたちまちテナーのソロへ溶ける。
 川下トリオは曲ごとにアプローチを変えた。特に岡村はシンバル・ワークやスティック捌きを曲ごとに個性付けていた。
 あるときはシンバル多用、あるときはスネアのタム回しを中心に、みたいに。

 "ヴィエンナ"では不破の無伴奏ソロへ。テナーが吹きまくるなか、岡村とパターンを生かしたベースを吹いていた。
 テナーがすっと吹き止めベースソロに行った冒頭は、まだそのリフが残る。崩れてゆくなか、リフのイメージが断片的に感じられ、やがて完全なフリーに。
 唸りながら弦を激しくはじく。グルーヴがずぶずぶに溶け、ねっとりと低音がうごめいた。

 ベース・ソロからアンサンブルへ戻る瞬間の力強さは、前曲同様。 
 1stセット最期が"YOU'VE GOT TO HAVE FREEDOM"。
 ここでついにテナーからフラジオが現れる。テーマでも高音を鋭く連ね、アドリブでは軋ますフレーズがふんだんに登場した。
 
 再びドラム・ソロ。今度はソロの後半で、フィルを強調。同じパターンでフロア+ライドの組合せから、タム+スネア、ハイハット+タムというように、くるくるとシンプルなセットでも、バリエーションを出した。

 ちなみに他の曲ではハイハットのみを叩きのめすパターンも。どの曲だったか記憶が定かでない。
 ハイハットの上下からスティックを叩いたり、片手でミュートしつつ響きを調節も。このバリエーションで、ライド・シンバルを叩きながら、ミュートで操る場面もあった。

 さて、後半セット。冒頭1曲目は聴き覚えが無い。音数少ないコケティッシュなテーマからドラム・ソロへ。
 テンポはゆったり気味。ベースのフレーズがメロディアスだった。
 リフ中心のリズム・パターンで膨らんだのが、この曲だったろうか。
 
 川下が後ろを向いて不破に曲名らしきものを告げ、"レイディーズ・ブルーズ"に。
 濃密で優雅なベースの動きが、とにかくかっこいい。
 テナーはテーマをアドリブの合間に、幾度も感じさせるアプローチを取った。
 川下に続くソロはベース。フレーズを歌わせ、スケール大きく不破はベースを操った。
 岡村がベース・ソロの最期に、ブラシをそっと重ねた。
 サックスが加わる。循環呼吸で川下が吹きまくった。

 曲は"ナーダム"。MCは皆無、終わりと最初にメンバー紹介するのみ。このトリオで"ナーダム"もレパートリーだったんだ。
 まず重厚にテーマを。テンポアップするが、決してリズム隊は煽らない。岡村はシンバルの比率を高め、隙間の多いビートを出す。
 不破も音数を控えてフレーズを生かした。テナーも含め、貫禄あるさまを見せた。

 たっぷりのサックス・ソロのあと、ベースとドラムのコンビネーションに。
 落ち着いた二人のアンサンブルから、次第にベースのテンションが上がってくる。
 弦がせわしなくはじかれ、単音連打な"ナーダム"のベース・リフへ。思い切り前のめりに切り替わった。
 川下がステージへ戻ってくる。一気にテーマへ。華やかに盛り上がった。

 最期は"ニュージェネレーション"。"ナーダム"も含め、2ndセットは1stよりも落ち着いたムード。その空気を、軽快にこの曲で締めた。
 4バーズでドラムがいかしたソロを、いくども決める。川下はテナーを激しく吹き鳴らし、不破も力強くベースを弾きまくった。

 がっつり大満足なライブ。1stセット後の余韻、2ndセットが終わったときの充実感。
 トリオ編成でさまざまなアプローチを繰り出し、ソロではアイディアが次々と現れる。豪快なジャズのパワーを見せ付けつつ、新鮮さを追求する。とにかく、とても楽しかった。

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