LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/12/6   渋谷 オーチャードホール

出演:菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
 (菊地成孔:ts、as、早川純:bandneon、藤堂昌彦:1st vln、楢村海香:2nd vln、菊地幹代:va、
  徳澤青弦:vc、鳥越啓介:b、堀米綾:harp、田中倫明:per、大儀見元:per、林正樹:p)

 昨年に続くオーチャード公演、今年は2daysで最終日は第二期ぺぺのライブ。広々としたステージに整然と楽器が並ぶ。
 今夜はロビーにいくつか展示あり。2ndジャケットの原画に始まり、クール・ストラティングの簡単な展示。「原画は販売する」とMCで言っていたが、売れたのかな。

 面白かったのが万年筆パーカーのスポンサードなブース。
 菊地のスケジュール・メモやセットリストの下書き、レストランの感想と思しき各種の直筆メモがいくつもあり。さらに"大天使のように"の直筆譜面が飾られていた。
 
 今年も菊地が選んだお酒をバーで販売。銘柄は本稿最期に書いておきます。酒は詳しくなくて、価値がわかってないけれど。
 そして入場と同時に配られたプログラムには、メンバー表などを丁寧に記載。そして演奏曲目を、終演後に携帯サイトで見られるURLも書いてあった。
 セットリストは終演後、ロビーでも掲示。山下達郎のライブを連想した。
 とにかくすみずみまで、刺激をばら撒く企画だった。

<セットリスト>
1.導入のインプロ(イスラム/カソリック/ヒンドゥー)
  〜夜の全裸
2.京マチコの夜
3.映画&CMメドレー
 〜バターフィールド8〜エアコン〜はなればなれ〜クイズ番組〜アルファヴィル
 (MC)
4.ソニア・ブラガ事件
(休憩)
5.導入のインプロ(ブーレーズ/ヴァレーズ)
 〜プラザ・レアル
6.大天使のように
7.航空会社〜儀式
8.バンドネオンソロ〜ルペ・ペレス
9.8 1/2
(アンコール)
10.メウ・アミーゴ・トム・ジョビン
 (MC)
11.ユードントノー

 パーカーのブースで飾られた、菊地の手書きメモ版のセットリストの表現を生かしたのが上記。即興で導入部分のコメントが面白かったので。
 終演後に掲示の正式タイトル・リストは本稿最期に書きます。
 菊地の肉筆版は、最初のセットリスト案も展示あったが、メモしそびれた。手書きメモ版は"最終"と書かれてたのをメモ。

 実際の演奏順は、メモ版ともいくつか異なった。
 "導入インプロ"後の曲が、メモ版では1stセットはまず"プラザ・レアル"にメドレー。"夜の全裸"へ続いていた。
 "京マチコの夜"は2nd setの"導入インプロ"の後が、手書き版リスト順。続けて"孔雀"とあったが、実演奏ではカットされた。

 開演時間を10分ほど押し、まずメンバーが。テナー・サックスを持った菊地が現れる。全員がスーツやシンプルなドレス姿。大儀見元もきっちりスーツとネクタイ姿が面白かった。

 冒頭のインプロはゆったり重たげな雰囲気。菊地は指揮に専念する。優雅に腕を振ってキューを飛ばした。この即興では「抜き」の演出。ふわふわと漂う音の中、ハープやベース、ピアノなどを菊地のキューで抜き出してゆく。
 腕が振られるたびに全体アンサンブルへ。ただしバンドネオンやパーカッションは弾かずに待機していた。
 菊地の合図で鳥越は指弾きからアルコへ切り替えた。
 弦楽器の抜き出しへ繋がる。ビオラだけ、やがてチェロだけが抽出された。

 菊地は1stセットだとテナー、中盤からアルトへ持ち替えた。正直、冒頭部分は代表曲にもかかわらず、音楽へのめりこめず。端正すぎて破綻がないため。
 ぺぺでミュージシャンの必然性はどのへんだろう、と聴きながら思っていた。ソロもあるが、基本はアンサンブル。ミュージシャンの個性がなかなか滲んでこない。
 ぺぺの音楽へのめりこめたのは、2ndセットまでかかった。

 菊地のサックスは滑らかに響き、アンサンブルへ溶け込む。フリーク・トーンを抑え、艶やかに鳴らした。
 "映画&CMメドレー"は、アンサンブルのメリハリをつけた印象あり。アルト・サックスを単独で抜き出したり、キューで指示したり。菊地はきびきびと音楽を進行させた。

 MCを挟んだ"ソニア・ブラガ事件"。このあたりから遅まきながら、自分の耳がぺぺに馴染んだ。
 たしか菊地はアルトを吹いていた。アンサンブルがうねり、突っ込んでいく。大儀見のパーカッションは田中とぶつかるようにリズムが揺らいでグルーヴを出した。
 演奏はスリリングにコーダへ。約50分の演奏。

 20分の休憩を挟んだ2ndセット。冒頭の即興から菊地は狙いを変えた。
 今度はパーカッションとバンドネオンに弾き続けさせ、菊地のキューは単音を呼び出す。菊地が床を指差すように腕を一振り、二振り。そのたびに、ハープがバスンッと強く弦をはじく。
 この単音はウッドベース、ピアノと音が厚くなってゆく。途中からストリングスもドローンに加わった。

 菊地は客席へ背を向けリズミカルに、しかし十分な間を取って、幾度も床の指差しを振り下ろす。客席を向いて譜面を見ながら、もっと繰り返した。
 重層リズム構造の"キャッチ22"のライブを思い出す。楽器編成も音楽性も違うが、DCPRGと同様のずらしを取り入れたグルーヴが、ぺぺでも下敷きにありそうだ。

 早川のバンドネオンは、思い切り大きく蛇腹を開く。
 そのまま全員が音を止め、"プラザ・レアル"に雪崩れた。

 だんだん音楽に引き込まれてゆく。圧巻が"儀式"だった。
 ポリリズミックなパーカッションのやり取り。大儀見と田中のリズムが力強く空気を揺らす。
 きゅっと締まったアンサンブルが、思いっきりダンサブルに動いた。
 菊地はサックスをおろし、身体を揺らす。この瞬間が、もっともDCPRGと通低するムードを漂わせていた。
 観客は素直にこの曲が終わったとたん、威勢の良い拍手を飛ばした。
 
 バンドネオンの無伴奏ソロがたっぷりと響く。林が淡々と指を鍵盤へ落とす、"ルペ・ヴェレスの葬送"に。
 ライトが強くあたり、背後の壁に幾人もの影が照らし出される。おそらく大儀見、林、菊地あたりの影。
 重なり合い拡大された影の動きは、ジャズクラブでの汗まみれなハード・バップを間近で見ているよう。そんな幻想が頭に浮かぶ。今、聴こえている音楽とは違うのに。
 
 菊地はテナー・サックスを、ついにフリーキーに軋ませた。
 
 最期はしっとりと、アルトを吹いたと思う。これまでのテンションを包み込むようなムードで。
 "8 1/2"が終わると菊地は胸に手を当て、小粋に幾度も頭を下げてステージを去った。

 全員が現れ、アンコールは無言のまま始まった。"メウ・アミーゴ・トム・ジョビン"。演奏が弾む。
 菊地のMCはこのあと、軽妙に。メンバー紹介を初めて行う。最期のサイン会メンバーに菊地幹代と大儀見を、その場で指定。菊地が戸惑い顔で笑ってた。

 最期の曲が"恋とは何か貴方は知らない"。サックスを足元に置き、菊地は歌へ専念する。感想でストラップを首からはずし、素早く丁寧に畳んで譜面台へ置いた。
 あまり分厚くせず、しずしずと演奏が盛り上がる。
 菊地はスキャットを。あまりメロディをフェイクさせず、シンプルに。サックスの流麗さをスキャットでは見せない。
 なぜか"エリナー・リグビー"を、思い切りメロディをフェイクさせて口ずさんだ。

 後半セットは70分ほどか。ボリュームたっぷりのライブだった。
 終わってみると、個々のソロは驚くほど印象に残っていない。"儀式"での鮮烈さ、各セット冒頭での即興パターンのスタイル。それらが強く、光景として浮かぶ。
 ぺぺのアルバムを改めて聴きなおしたい。そう、思わせるライブだった。

(Set list:携帯サイトに掲示版のセットリスト)
■ソニア・ブラガもメドレー形式で掲示されていた。
1.即興〜夜の全裸
2.今日マチコの夜
3.映画音楽メドレー
 〜映画「バターフィールド8」バターフィールド8のテーマ
 〜エアーコンディショナーのTVCMの悪夢
 〜離ればなれ
 〜クイズ番組のTVCMの悪夢
 〜映画「アルファヴィル」悲しきワルツ
 〜ソニア・ブラガ事件
(休憩)
4.即興〜プラザ・レアル
5.大天使のように
6.航空会社のTVCM
7.儀式
8.バンドネオンソロ
9.ルペ・ヴェレスの葬送
10.映画「8 1/2」〜それから・・・(ワルツ)より
(アンコール)
11.メウ・アミーゴ・トム・ジョビン
12.恋とは何か貴方は知らない

<当日に販売したお酒>(パンフレットより転載)
マストロベラルディーノ・タウラージ・ラディーチ04年/テタンジェ・ノクターン・セック/フェッラーリ・スプマンテ・ペルレ/トレント・メトッド・クラシッコ

(おまけ:12/5 ダブ・セクステット公演セットリスト)
■実公演との差異は不明ながら、同じ携帯リストに記載を転載。
1.Dub Liz
2.Susan Sontag
3.Caroline Champtier
4.(I've lost my)Taylor Burton
5.Invocation
6.Dub Sorcerer
(encore)
7.Koh-I-Nur
8.Monky mush down
<当日に販売したお酒>(パンフレットより転載)
 翠露大吟醸中取り/フェッラーリ・スプマンテ・ペルレ/トレント・メトッド・クラシッコ

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