LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/12/3   大泉学園 in-"F"

出演:黒田京子+miya
 (黒田京子:p、miya:fl)

 デュオで共演は初めてという。miyaのライブを聴くのは、04年2月のシネマ名義ぶり。そのときは繊細なイメージを受けた。黒田京子とどんな音世界が生まれるか、楽しみだった。

 黒田はグランドピアノの蓋全開の生音。miyaはフルートを下から狙った2本のマイクで拾うセッティング、リバーブをかけていた。
 もっともmiyaはマイクのセッティングを逆手に取るスタイルで、奔放に吹いた。CDとも違う。予想とまったく異なるサウンドは楽しい。

 客電が落ちて軽くチューニング。そのまま前置きなしに、miyaが無伴奏ソロでのイントロを。すぐに黒田が、しっかりと鍵盤へ指を落とした。

 前半はmiya選曲、後半が黒田が持ち込んだ曲中心のセット。
 前半後半4曲づつ、それぞれ長尺でがっつりと演奏してくれた。
 ソロ回しの概念は希薄で、テーマ以外は即興的に進行する。黒田はもとより伴奏的なアプローチが少なく、ふたりの存在感がさまざまな意味で交錯する、刺激的な場面も多数あり。
 
 まずビル・エヴァンスの曲から。おっとりと丁寧なメロディを紡ぐが、フルートが予想以上に渋い響きだった。全編にわたり、ビブラートはほとんど無い。
 同時に発声するような濁った鳴り、かすれ気味の音色。強く息を切り、時に息音のみでピアニシシモを出したり。吹きつつ右手で、フルートを叩くシーンも幾度か。
 ワイルドな吹きっぷりが予想外だった。アドリブもメロディを紡ぐより、パーカッシブで短いフレーズを小刻みに繋ぐ場面が印象に残った。

 演奏の姿勢も奔放。高いハイヒール姿で、片時も身体を休めない。特に1stセットは微笑を絶やさず、前のめりになったり、姿勢や向く方法すらも頻繁に変えた。
 さらにフルオープンのピアノへ、フルートの先を突っ込むようにして、黒田と視線を合わせつつ吹く。足はステップを踏み、立ち位置もどんどん替わった。
 いきおいマイクが拾うリバーブは、前半はかなり少ない。むしろオフ気味でピアノとかぶる場面もいくつか。時にブルージーに吹きまくる。
 大胆な狙いなmiyaのスタイルがユニークだった。

 1stセットはてmiyaのオリジナル"思い"、モンクの曲を挟み同じくオリジナルの"祭り"と続く。曲ごとに音の色合いがガラッと変わった。
 ほとんどの部分がデュオ形式、ときおりピアノ・ソロのスペースを作るアレンジ。
 ちなみにmiyaのMCはさまざまに気配って、丁寧でバランスをきっちりと意識していた。

 黒田のピアノで新鮮な場面がいっぱい。一曲めでは端正なファンキーさのジャズ、3曲目ではフリーからビバップまで幅広いジャズを一曲に叩き込む、豪腕な演奏だった。
 彼女のずぶずぶなジャズってこれまで聴く機会が思い浮かばないため、すごく興味深かった。

 1stセットはmiyaへ主導権を持たすピアノと感じた。しかし伴奏にはとどまらず、フルートのフレーズへさまざまに旋律やリズムをぶつける。
 miyaは丁寧に反応し、全体アンサンブルはおっとりと膨らんだ。
 ほとんどの曲でテンポもリズムも、ガラガラと黒田は変える。miyaはするっとあわせて滑らかに吹き続けた。
 
 黒田の鍵盤は暖かく、力強い。
 特に3曲目が面白かった。ごつごつとクラスターっぽく左手で刻みを冒頭に。テーマへはスピーディに雪崩れた。
 中盤で穏やかな世界感を一瞬見せつつ、ソロでは鍵盤をめまぐるしく叩きのめす。グルーヴはどばどば。
 いきなり大胆に音数を減らし、miyaへソロを委ねる。フルートとピアノ、一拍ごとの応酬も。かっこいい濃密な演奏だった。

 4曲目"祭り"の前に、二人は長めのMCを。黒田の住まいとmiyaの実家がものすごく近所らしい。miyaがイメージした地元の祭りの場所を黒田も知っており、その話で盛り上がった。
 太鼓のような雰囲気を一瞬、ピアノのイントロに感じる。miyaは綺麗でありつつ、力強い吹きっぷりで応えた。フルートはひときわ鳴って聴こえた。

 後半セットは双方のピアニシシモを強調する曲。タイトルは聴き取りそびれた。
 最初の曲は息音のみのようなフルートの音色が印象深い。スケール大きいピアノで黒田が世界を力強く構築した。
 
 2ndセットは音のバランスが急に良くなる。ピアノが抑えたか。
 miyaの姿勢も譜面台を置いた客席側に向く傾向が高まった。マイク・リバーブもくっきり。音の感じが別物だ。
 黒田がほとんど弾かず、ペダルを踏んだまま、ピアノのボディを打ったりして静かに響きを重ねたのは、この曲だったろうか。リバーブが薄く充満するさまが、心地よかった。
 miyaはロングトーンのピアニッシモを、するりと挿入する。

 続いてドルフィーの曲。miyaが持ってきた曲のよう。
 激しいフリー寄りの斬りあいで、猛烈にテンションが上がる。ソロ回しの形式へは到らず、テンポを上下させながら豪快に疾走した。
 二人の呼吸や立ち位置のせめぎあいが、演奏に滲む。

 3曲目は黒田のオリジナル。久しぶりに弾く曲だそう。彼女の美学が峻烈に立ち上った。
 軽やかな高音で始まり、途中に黒田のポエトリー・リーディングが入る。ファンタジックな空気が漂った。メロディは美しく、静かに冒頭が幕を開け、ドラマティックな早いテンポが中盤で現れる。

 miyaは前半と雰囲気代わり、緊張した面持ちがうっすらと。音楽観を壊さぬよう気を使うかのごとく、きっちりと鳴らした。かといって探りのみに終わらぬ、しぶとさがさすが。
 ポエトリー・リーディングの狭間、ピアノの流れへがっぷりとフルートがかぶさった。
 もっともピアノ・ソロで黒田がぐいっと前へでると正直、音楽のもつ力の差が如実に現れたのは否めない。強いタッチのピアノから旋律が噴出し、空間を峻烈かつ緻密に埋め尽くした。

 最期は黒田の"ゼフィロス"。バロック調のかっちりしたピアノのイントロから。流れるような柔らかいタッチへ変化し、すっと黒田は視線をmiyaへ投げた。
 一呼吸置いて、miyaが音を出す。

 ちょっとかすれ気味な音色を使い、小さめのボリュームでフルートがテーマを奏でる。くっきりとテーマが着地し、互いの即興へ向かった。
 ここでも黒田がピアノをしっかりと弾く。エンディングへ向かって力強く舵をとった。終盤で現れたテーマの部分では、フルートがテーマを断片に崩し、そっと飾った。

 アンコールの拍手。黒田が"miyaが自由になれる曲"を提案する。miyaへ華を持たせたかっこうかな。
 miyaがちょっと考えて選んだのは"Nearness of you"だったと記憶する。好きなバラードの一曲だそう。
 イントロはフルートの独奏。ときおりピアノを意識するそぶりだが、黒田は目を閉じて耳を傾けている。まっすぐなフルートの音色がたっぷりと鳴った。

 すっと黒田の腕が持ち上がり、鍵盤へ。
 夢心地の穏やかなムードでデュオが高まる。
 そっとエンディングへ着地した。

 二人の音世界が絡んでゆく微妙な緊張感が刺激的。音の選び方、重なり方。探り合うようで、ためらわない。立ち上る音楽はアグレッシブで豊かにたゆたう。
 音楽が産む空気の色が瞬時に変わるさまが、とても面白かった。

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